【第15話】バグ×軌道修正
「意外とあっけなかったですね。エルダ姉様の一発では貫通できない耐久力とはいえ、それほど問題ではないようです」
リオがそう言い、再びポシェットから端末機器を取り出し操作すると、巨大なガトリング砲はふっと姿を消した。
「ちょっとリオ、それはアタシに対するイヤミ? ――でもこれはちょっと想定外だわ。『破壊プログラム』とは少し違うようだし」
「はーいっ。あたしが思うに……」
「思うに?」
エルダが考えているそばでララミーは親指と人差指で『L字』を作ってあごに添えながら真剣な表情で言った。
「ちょっと人間っぽい
地下の空間にも関わらず、皆の間に原始の風が吹き抜けた。
「ララミー……。蹴るわよ」
「はーいっ。お姉ちゃん、暴力反対です!」
アカオは自分が思っていたこととまったく同じことをララミーも考えていたのを聞いて、少しほっとした。
「でも、あながちララミー姉様の意見も間違いではないのかもしれません」
リオは二人の姉に割って入るように言った。
「どういう意味よ、リオ?」
「つまりです。
リオの言葉を聞いて、エルダは顔をひきつらせた。
「さしずめコレは、人類と破壊プログラムのバグってワケね」
「恐らくは」
アカオは三人の後ろでそのやりとりを聞いていて、妙な違和感を感じた。
「ちょっと待て! 人類と破壊プログラムの……バグだって? それじゃあまるで――」
「はいはいはいはい」
エルダはアカオの言葉をさえぎるようにパンパンと手のひらを打ちながら言った。
「まぁ、コレについて深く詮索するのも時間のムダだわ。アタシたちにはそんなヒマはないの」
「ちょっと待てよ! あんたらには対した関心事じゃなくても、僕たち人類にとっては大きな問題じゃないか! ちょっとぐらい説明してくれたって――」
アカオはメタリュックの上から叫んだ。それを聞いたエルダとリオはくるりと振り返り、鋭い視線でアカオを見上げた。
「アンタ、もう忘れているようね。今アンタが居合わせている状況は
「エルダ姉様の言う通りです。そもそも地球人がこの『浄化プログラム』の実行中に同行することなど、過去例のないことです。ララミー姉様の過失がなければ、このバグも発見していなかったかもしれません」
自分の立場を思い出させるような彼女たちの言葉を聞いたアカオはこぶしを握りうつむくと、わなわなと震え始めた。しばらく口をぱくぱくさせながらぶつぶつ独り言を言っていたかと思うと、爆発するように声に出し始めた。
「え? 何? 僕のせい? そうは言ってもね、元々僕はこんな星なんか来るつもりはなかったんだ。僕は地球で自分の研究を続けていたかったんだ。やっとエネルギー問題解決のための
ため込んでいた思いのたけを言い放ったアカオは、全身を震わせていた。薄暗い地底の木々や花が、どこからともなく吹いてくる風に揺られ、さわさわと静かに、ただその音だけが流れていた。その風のようにララミーが沈黙の中、とんとんふわりとメタリュックに駆け上がった。操縦席まで来ると、彼女が初めてメタリュックに上がった時にしたように、360度ゆっくりと見渡すように回転し、そのままアカオにもたれかかるように背中合わせに座ると、大きく息を吸い、うーんと大きく伸びをした。
「アカオ、あたしはね、偶然じゃないと思うのっ。アカオがこの星にあたしたちより先に来たこと。たまたま
ララミーはそう言いながらメタリュックに頬ずりをしつつ話を続けた。
「メタリュックちゃんを操縦したくてアカオをこのお仕事に巻き込んだんだけど、本当はそれだけじゃない気がするのっ。これは――あたしの直感なんだけど、これがね、こうなったのが今回のあたしの本当のお仕事なのかなって思ってきたの。だから、そんなに落ち込まないでっ!」
ララミーはそう言ってばっと立ち上がると、アカオの肩に両手を乗せて接近した。
「アカオが今ここにいるっていうことは、必要なことなんだよっ!」
そのままぐいっと顔を近づけ、うつむいたアカオの顔に笑顔を向けた。まっすぐな青い瞳で自分の目をのぞき込もうとするララミーを、アカオは見返すことができなかった。何よりも顔が近づき過ぎていて、動悸の激しさが何か別なものに変わってしまったようだった。
アカオがわなわなとしていると、エルダもメタリュックを駆け上ってきた。
「アンタ、何か勘違いしてない? 誰も邪魔だとは言ってないわよ」
リオもひょこひょことメタリュックの操縦席までのぼってくると、ちょこんとアカオの横に座った。
「アカオ様、姉様たちの言うとおりです。私たちは別にあなた様が邪魔だとは一言も言っていません。むしろ、アカオ様がいなければこのバグを発見できなかったと、確かそう言ったはずです。ただ、予定していたことと大幅にずれが生じていたので少々困惑していたのも事実です。が――」
「プログラムに軌道修正はつきもの、だよね! リオちゃんっ」
ララミーが笑顔でそう言うと、自分のセリフを取られたリオはわかるかわからないかぐらい、ほっぺたを膨らませた。
「その通りです」
「それにアカオ。不本意であろうがなんだろうが、アナタが今ここにいるっていうことは、それはアナタ自身の選択の結果でもあるワケ。誰がなんと言おうとね。それはアタシたちにとっても同じことなのよ」
エルダはそう言うと、アカオに背を向けて前髪をかき上げた。
「まぁ、アンタに会えたおかげでチョコレート……だっけ? 今まで食べたことのないおいしいものにありつけたワケだし」
「ほらねっ。お姉ちゃんもリオちゃんも、本当はアカオに逢えて良かったって言ってるでしょ」
「ちょっとララミー! 誰もそこまでは――」
「ともかく、今はそんなことよりいったん地上に戻りましょう。
リオは相変わらず淡々と言った。
アカオは
「それにしても、他のチームと合流しなきゃいけないワケね。そうなったら……、はぁー……」
エルダはそう言うと、目を泳がせながら乾いた笑顔を左手で覆った。
「はーいっ。あたしは全員でお仕事できるの、楽しみだなっ」
ララミーはぴょこんとウサ耳リボンを弾ませ、嬉しそうに言った。
「セカンドは別にいいのよ。問題はその次の――」
エルダは人差指と親指で眉間をこすりながら顔をしかめた。
「ララミー姉様、楽しみも何もこれは遊びではないのです。エルダ姉様も、共に任務をこなすメンバーの好き嫌いはよくありません。いかに迅速に『浄化プログラム』を完遂することができるかが重要なのです」
リオは眉間にしわを寄せ人差し指を立てながらララミーとエルダに交互に言ったが、二人とも聞いてはいなかった。ララミーはすでに何かを想像してわくわくしているし、エルダもエルダで嫌悪と絶望が入り混じったような表情であえいでいた。
「困った姉様たちです」
リオは大きくため息をつくと、アカオの方に向き直した。
「さぁ、アカオ様。ともかく地上へ戻りましょう」
「あ、あぁ。――なんかいろいろと腑に落ちないが、今はあんたたちと共に行くしかない。それが今の……僕の選択だ」
それぞれの思惑は未解決のまま謎の洞窟内に残していくように、四人を乗せたメタリュックは機械音を響かせ方向転換すると、もと来た
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