【第13話】エネルギーエンド×浄化プログラム

  *  *  *


 ガシャンガシャンガシャン――。

 四人を乗せたメタリュックは金属的な歩行音が響かせながら、緩い下り坂をひたすら進んでいた。コンクリートで覆われた地下通路トンネルは大型の恐竜すらも通ることができるぐらいの広さで、全高3メートル程あるメタリュックもすっぽり入ることができていた。サーチライトのみで照らし出される薄暗さと、どこまでも変わり映えのないまっすぐな景色が相まって、かなりの距離を歩いているように皆感じていた。


「随分長いトンネルですね。疲れてきました」


 リオはそう言うと、小さくあくびをした。


「そうね。どこまで続くのかしら? 足が棒のようだわ」


 エルダもそう言うと、大きく伸びをした。


「棒のようって……。歩いてないのに」

「なんか言った?」

「いや、別に」


アカオはがしがしと頭をかくと、エルダに気づかれない程度に小さくため息をついた。

 

「ところで、今まで聞いてなかったけど、なんで地球人のアナタがこの星にいるワケ? ララミーは知ってるのよね?」


 エルダはアカオにそう言うと、ララミーの方に向きなおした。


「はーいっ。あたしも知りませんっ!」


 ララミーはそう言ってウサ耳リボンをぴょこんとさせた。


「はぁ? 知りませんってアナタねぇ……。普通それを先に聞くでしょうが」


 エルダがあきれ顔でそう言うと、アカオはそれに同意するように首を縦に揺らした。


「それではアカオ、質問ですっ! なんでこの星にいるんですかっ?」


 ララミーはそう言って笑顔をアカオに向けたが、アカオは黙り込んだまま、運転を続けていた。


「どうしたのよ。なんか言えない事情でもあるワケ?」


 沈黙に痺れを切らしたエルダが言うと、アカオはがしがしと頭をかいた。


「いや、そうじゃない。あんたたちとこうやって行動を共にしててすっかり忘れてたよ」

「――? 地球人の記憶力はそこまで悪いものではなかったと思いますが」


 リオは首をかしげながら言った。


「……いや。そういう意味じゃなくて。僕はこの惑星アンノウンを調査しに来たんだ。最初は一人じゃなかった。四人でこの星に来たんだけど、他の連中はなぜか先に帰ったんだよ。僕は、運悪くロケットに乗り損ねた」


 アカオはそこまで言うと一息ついて、


「そうだよ。それだけのことだ」


 とぼそっとつぶやくように言った。


「はぁ? そんなことは聞いてないわよ」


 しょぼくれた様子のアカオに対してエルダは言った。


「アタシはね、なんで地球人であるアナタがこの星にいるのかって聞いたのよ」

「だから! 調査に来たって――」

「はーいっ。アカオ。つまり!」


 一向に話がかみ合わない二人にララミーが割って入った。


「どうしてがこの星に来られたか、ってことだよねっ! お姉ちゃんっ」

「ララミー姉様、それは――」


 ゴツンッ!


 ウサ耳リボンをぴょこんとさせながら笑顔で言ったララミーを制止しようとしたリオの言葉は全然間に合わず、鈍い音が地下通路トンネル内に響いた。


「痛いっ! 痛いよお姉ちゃんっ! ゲンコツのエネルギー、全部受け止めちゃったよっ」


 ララミーはエルダに殴られた頭をさすりながら訴えた。


「アナタがまたバカなこと言うからでしょ。なんでもかんでもペラペラペラペラ……」

「しかしエルダ姉様、これ以上隠していても話がまわりくどくなるだけで得策とは思えません。必要な情報は共有するということで良いのではないでしょうか」


 そう言ってリオは、人差し指を立てながらエルダの顔に近づいた。


「リオ、アナタもずいぶん寛容になったじゃないの」

「そういうのではありません」


 リオは表情一つ変えずそう言うと、アカオの方を見た。


「私も知りたいのです。地球人がどうして、どうやって私たち月の民ネフィリムの予測の枠を超えて、地球を飛び出すことができたのかを」


 エルダは無表情なリオを見ながら、観念したように軽く目を閉じてふっと笑うと、両手のひらを上にあげてみせた。


「わかったわよ。二対一じゃ、しょうがないわね。――というワケで、アカオ。単刀直入に聞くけど、どうしてエネルギーがないはずの地球人が宇宙船なんて作れたのよ?」

「待った待った! その前に、なんで地球にエネルギーがないってわかるんだよ! 確かに、全物質エネルギー転換炉エターナルが実用化されるまでは最低限の生活用燃料ライフエネルギーしか使えない状態だった」


 アカオはそう言ってメタリュックのエネルギー炉をちらりと見やった。


「それについては、私が答えさせていただきます」


 がしがしと頭をかくアカオに向かってそう言ったのはリオだった。


「地球人の進化進捗について、すでに過去六回ほどのデータがあるのです。多少の誤差はありますが、そのすべてが一万年以内にエネルギーエンドを迎えています」

「エネルギーエンド……??」

「要するにすべてのエネルギーを使いきっちゃうってことよ」


 リオの説明に補足するようにエルダは、きらきらと銀色に輝く髪の毛をいじりながら言った。


「そうです。そしてそれを見計らったかのように太陽の向こうから現れるのです」


 そう言ってリオは人差し指を立てた。


「もう一つの地球が、ねっ」


 リオの両肩をつかみながらララミーはそう言うとアカオにぐっと近づいた。ララミーの身体の一部分がアカオに密着し、真剣に聞いていた彼の意識は少しだけ自分の背中に集中した。


「ララミー姉様、重いです」

「はーいっ。ではリオちゃん、続きをどうぞっ」


 リオの苦情に応えて、ララミーは両手を離した。と同時にアカオとの接触も終わった。アカオは、ほっとしたような、それとは逆のような変な感じを覚えたが、話の続きに再び意識を向けた。


「その後、を新地球に移動させます。そしてまた数千年後に次のエネルギーエンドを迎える頃、旧地球に発生した『破壊プログラム』を処理し、また地球人の移住を行う。これが私たち月の民ネフィリムの任務、『浄化プログラム』というわけです」

「ついでに言うと、『破壊プログラム』は地球人の匂いのするものに反応するらしいわ。だから、アナタのところに集まってきたってワケ」


 アカオはリオの説明でいろいろと引っかかるところがあった。だが今はその後のエルダの補足の方に関心が向けられた。自分が恐竜に狙われていた理由がやっと納得できたのだ。と同時に、自分たちが今進んでいるこの地下通路トンネルを改めて見直して、違和感を感じた。


「それを聞いて思ったんだけど、おかしくないか?」

「何が?」

「ここだよ。今進んでいるこの地下通路トンネル、どう見ても人の手によって作られたものだろう? その……何回か地球の入れ替わりがあったという話が本当だとして、どうしてこんなものが残っているんだ?」


 アカオはエルダに言った。


「それは……アタシも変だと感じているわ。まぁアタシの勘だと、ここに入っていった怪しげなやつが関わっているのは、間違いないわね」


 エルダはそう言うと、前方を目を細めてにらみつけた。


「さぁて、おしゃべりの時間はここまでのようね」


 地下に向かって進んでいたはずのアカオたち。だが、ここにきてメタリュックのサーチライト以外の光が、一向の進む先に見え始めてきた。

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