【第12話】トンネル×不測

「何かしらね、コレは……」


 反応が消えたあたりまで来た四人の目の前にあったのは、穴だった。


「あんたらといるせいで感覚がおかしくなってはいるが、どう見てもおかしいよな、この穴は」


 アカオはそう言って頭をがしがしかいた。


「正直、私も驚いています。です」


 リオはそう言ってはいたが、別段驚いた様子もなく、そのと自分の端末を交互に見やっていた。


「はーいっ」

「どうしたのよ、ララミー」


 突然右手を大きくあげて声を出したララミーにエルダは少しだけびくっとした。


「あたしが思うに」


 ララミーはそう言うと今度は腕を組んでうーんとうなり始めた。


「思うに?」

「これは穴だと思いますっ!」


 原始の大地に一筋の風が吹き抜けた。


「……ララミー。確かにアタシはと言ってしまったわ。そうね。そうだわね。アタシが悪かったわ――」


 エルダが目をつむりながらそこまで言うと、カッと両目を見開いた。


「なんて言うワケないでしょうがー!!」


 その長身から繰り出された横蹴りキックはやはり美しかった。まともに食らったララミーは一瞬宙に浮いたかと思うと、そのまま地面へと放り出された。


「痛いっ! 痛いよお姉ちゃんっ! 暴力反対だよっ」


 ころころと転がるように受け身をとったララミーは穴に落ちる直前でストップし、頭上の姉に向かって訴えた。


「ったく。バカも休み休みに――」

「あっ!」


 穴の中をちらりとのぞいたララミーは一言大きく発すると、メタリュックの上の三人に向けて大きく手招きした。


「これっ、穴じゃなかったよっ!」

「またバカなこと言ってアタシをおちょくる気なら、アタシにも考えがあるわ」


 エルダはそう言ってぷるぷるこぶしを震わせた。

 アカオとリオはメタリュックから飛び降り、ララミーの側まで寄っていった。


「確かに、穴じゃないな」

「そうですね。正確には地下通路トンネルといったところでしょうか」

「はぁ?」


 ララミーだけでなく、アカオもリオも目の前の穴が穴でないことを認める姿を見て、エルダも渋々メタリュックから降りて三人の側に行った。


「だからアタシはって言ったのよ」


 地面の斜め下に向かってまっすぐ伸びる地下通路トンネル。それを見ながらエルダは、したり顔で長い髪をかきあげた。


「おかしいですね。ここまであからさまな人工建造物は残されてはいけないはずなのですが。『破壊プログラム』の異常でしょうか。なんにせよ、ここは私たちの任務の管轄外――」

「アカオ、もちろんあるよね?」


 リオが考えながらぶつぶつ言っていたのに割り込むように、ララミーはアカオの肩に手を乗せて言った。


「え? 何が?」

「決まってるじゃないっ! ライトよ、サーチライト!」


 ララミーは目をきらきらさせながらそう言って、ウサ耳リボンをぴょこっとさせてメタリュックを指差した。


「あぁ、なんだ。そんなことか」


 アカオは安心したようにふうと一息吐くと、メタリュックの操縦席に駆け上がった。


「当然付いてるよ。はい」


 操縦席にある画面を操作すると、お菓子の詰め込まれていた頭のような球体部分の下あたりからサーチライトが点灯し、地下通路トンネルの内部が照らし出された。


「アカオっ! キミ、わかってるねっ!」


 ララミーはぴょんぴょんとその場で嬉しそうに小さく跳ねた。その様子を見たアカオは、当然とばかりに人差し指で軽く鼻の下をこすった。

 

「あとさっ、あとさっ! ビーム砲は?!」


 ララミーの感動値はどんどんと上昇していった。


「あ、それはない。このメタリュックは調査用で、戦闘用じゃ――」

「アカオ……。キミ、わかってないね」


 はぁーという大きなため息とともに、ララミーの感動は一気に終息を向かえた。そんな彼女の反応を見て、アカオは顔を真っ赤にした。


「ぐっ……。そりゃさ、僕だってビーム砲くらいつけたかったさ! 全物質エネルギー転換炉エターナルの実用化から二年しかなかったんだ。予算も限られてるし、時間もなかったし、それでも僕の中ではなんとか合格点出せたつもりだったんだよ! そもそもだ。まさかこんな未開の惑星に恐竜がいるなんて思ってもみなかったんだよ。優先順位の最後の最後だったんだよ、ビーム砲は! それをさ――」

「アカオっ!」


 ララミーは後ろ手に構え、メタリュックの操縦席で悶々としているアカオに呼びかけた。


「キミの情熱、メタリュックこの子へのこだわりはしっかりと感じているよっ」

「だったら――」


 ララミーはとんとんっとメタリュックを駆け上がり、アカオに顔を近づけると力強く言った。


「やるなら、とことん楽しまなきゃ、ねっ」


 アカオははっとした。メタリュックへか自分へかはわからない。でも、自分の手の中のものをしっかりと彼女は見てくれていると、根拠はなかったがララミーの言動から確かにそう感じとった。


「はいはい。機械オタクの熱烈トークはそのへんにして、行くんでしょ?」


 エルダはパンパンと手のひらを叩きながら抑揚なく言った。


「もっちろん!」

「あんたらが行くなら、僕も行くしかない。そういう取引だし」


 エルダはやれやれといった調子でメタリュックに乗り込んだ。


「リオちゃん、置いてっちゃうよっ!」

「はい。すぐに」


 リオはしゃがみ込んで地下通路トンネルの奥を見ながらずっと考え込んでいたが、すっくと立ちあがった。


「今は考えていても始まらないのかもしれません。が、かつての『浄化プログラム』では、どう対処したでしょうか。そもそもこういう不測はなかったかも。だとすると――」


 リオはそう言って少しだけ眉をひそめると、くるりときびすを返しメタリュックに乗り込んだ。

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