【第11話】ポテンシャル×射撃範囲

「ちょっと待ってくれよ! このメタリュックは一人乗りなんだ。四人なんて、定員オーヴァーもいいとこじゃないか」


 メタリュックの操縦席には、アカオを中心に月の民ネフィリムの三人が囲むように乗り込んでいた。


「なによ。アタシたちに走れっていうワケ?」


 すでに自分のポジションを定めたエルダは真っ白な長銃を構え、迎撃態勢をとっていた。


「私の武器はさすがに無理そうなので、数が多ければ一時停車お願いします」

「停車って……。車じゃないんだが」


 リオはアカオにそう言われ、人差し指をあごに軽く当てながらふーんと少し考えると、


「それは失礼しました。では、一時停ロボお願いします」


 と言った。


「いや……、そういう意味で言ったんじゃ――」

「アカオっ!」


 ララミーはがしっとアカオの肩に手を置くと、笑顔で言った。


「キミのメタリュックちゃんは、その程度のポテンシャルなのかい?!」


 アカオはメタリュックを起動させると、頭をがしがしとかいた。


「ふざけるな! 四人だろうが十人だろうが、このメタリュックの機動性に変わりはない」

「だよねっ! あたしもそう信じてるよ」


 ララミーはそう言って親指をぐっと立てた。


「それで、どこに向かって走ればいいんだ?」


 アカオはさらに激しく頭をかきながら誰の顔を見るわけでもなく言った。


「まぁ、適当に流してくれてればそれでいいわ。アタシたちは寄ってきたヤツラを片っ端から片付けていくだけだから」


 エルダはそう言うと、タタンッと早速二発撃ち放った。


  *  *  *  


「こりゃ、思った以上に快適ね」


 四人を乗せたメタリュックは、遊ぶように適当に方向指示をするララミーの指先を追いかけるように走っていた。エルダは遠くに動く物体が見え始めると、躊躇なく弾丸を放っていた。リオをその様子を脇で見ながら、端末を操作している様子だった。

 アカオは出発する前にメタリュックのレーダーを広範囲ワイド・レンジから接触範囲コンタクト・レンジに切り替えていたので、半径500メートル内の動的反応が表示器ディスプレイに表示されていた。反応が映し出された瞬間にエルダは引きがねトリガーを引いているように見えたので、アカオは少し試してやろうと思った。


「ところで、さっきの時空間転移パーミュレイトの話だけど、やっぱり聞かせてはもらえないのか、エルダ」


 アカオはそう言ってエルダの方をちらりと見やると、エルダも一瞬アカオの方を見た。その隙に、中範囲ミドル・レンジに切り替えた。


「知ってどうすんのよ?」

「決まってる。僕も同じものを作るんだ」


 タタンッ! タンッ! タタンッ!

 2500メートル先の反応に、エルダは即座に対応した。


「アカオ様。『教える』ということを、徐々にですが私も知っていきたいと思っています。――まずは、エルダ姉様の射程距離ですが、地球距離単位で3000メートルですので、その範囲レンジ設定で正解です」


 リオはアカオの横で淡々と言った。


「気づいていたのか」

「もちろんよ。その程度の範囲レンジ設定しかできないのかと思ってたけど、安心したわ」


 エルダはきらきら輝くアッシュのロングヘアをかき分けながら言った。


「でもリオ。勉強熱心なのはいいけど、地球人にそんな情報与えていいワケ?」


 エルダにそう言われたリオは、人差し指をあごに当て、ふーんと考え込んだ。


「お姉ちゃんっ! あたしはもっとあたしたちのことを、アカオに知ってほしいのっ」

「知ってほしいって、アナタねぇ……」

「それでね、もっとアカオのことも知りたいのっ」


 リオとエルダに割って入ったララミーは、ウサ耳リボンをぴょこっとさせて真剣な表情で言った。

 アカオは、自分のことを知りたいなんて初めて言われた気がした。もしかしたら、初めてではなかったのかもしれないが、その言葉を聞いた後に湧いてきた感情は初めて味わうものだった。好奇心なのか驚きなのか、なんなのかはわからなかったが、胸の奥が熱くなるのを感じていた。


「はぁ? 地球人のことなんて知ってどうするワケ? 知ったところで――」

「あっ! あれなんだろっ」


 エルダの言葉をさえぎって、ララミーが指差した方向にのようなものが見えた。アカオたちが気づいた時にはすでにその姿はなかったが、一瞬だけメタリュックのレーダーに反応したのをアカオは見逃さなかった。


「恐竜にしては小さかったし……。レーダーの反応が消えたのも引っかかるな」

「アカオっ! 行ってみよう」


 ララミーはなんだか楽しそうに言った。


「私も気になります。恐らくですが『破壊プログラム』とは違うように見えました。かといって、この星に他の生物はいないはず――。行ってみましょう」


「ほんっとに、ララミーもリオも物好きね。まぁいいわ。アカオ、行くわよ」


 エルダはやれやれといった表情を見せたが、半分諦めたようにしっしと手首をぶらつかせた。

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