【第9話】銃口×チョコレート
ララミーは、ごろごろと転がった。
見事に転がったそのあとには、シダ系の植物がなぎ倒されてできた美しいラインが出来上がっていた。
「痛いっ! 痛いよお姉ちゃんっ!」
ようやく転がり終えたララミーは
「アナタが人の話を聞かないのが悪いんでしょ? 何遊んでんのよ!」
メタリュックの上の長身の女性はそう言いながらのけ反ってララミーを指差した。
「――いえ、違うわね」
なにかが違うと、眉間を人差指と親指でこすり始めると、
「コレ、どこで拾ってきたのよ! ……そこでもないわね」
今度は
「――誰よ! アナタ!」
長身の女性はくるっと振り返ってそう言うと、アカオを指差した。
「あ、いや、僕は……」
突然現れた見知らぬ女性の怒りの的になってしまったアカオ。容姿こそララミーに似たような雰囲気はあったものの、友好的な態度ではなかった。
「まぁまぁ、エルダ姉様。とりあえずララミー姉様の話を聞いてからにしましょう。それから、この方をどう処理するか決めたら良いじゃないですか」
いつの間にかアカオの隣にいた幼い少女は、見上げながらそう言った。
「ちょっと、処理ってなんだよ――」
アカオはそう言って隣の少女を見ると、刺すような鋭いまなざしが返ってきた。透き通るようなブルーの瞳が、まるで冷たい氷のようだった。
「処理は、処理です」
「はーい。ちゃんと説明するから、二人ともおちついて」
ララミーはぴょこっと元気よく立ち上がると、二人の女性にアカオと出逢った経緯を説明した。
* * *
「はぁ? ララミー! アナタ、この地球人にアタシたちの任務のこと教えたワケ? 相変わらず何も考えてないというか、バカ正直というか……」
長身の女性はそう言うと右手のひらで自分の顔を覆ってのけ反った。
「……いえ、違うわね。バカだわ」
そのまま指と指の隙間からアカオをにらめつけると、
「仕方ないわね。こうなったら消えてもらうしか――」
と言いながら、背負っていた自分の身長と同じぐらいの長さの、真っ白な銃身をアカオに向けた。
「お姉ちゃんっ、ストップストップ! それは
ララミーはそう言うと、アカオに向けられた銃身をぐっと押しのけた。
「はーい! そしたら二人とも、自己紹介自己紹介!」
アカオの顔は凍りつくと同時に、どっと汗が噴き出していた。声も出せなかった。それとは対照的に、ララミーは笑顔で握っていた銃身をそっと離した。
「ったく。こういう時だけ小難しい言葉出してくるんだから……。でもまぁ確かに、その通りだわね。アンタがちゃんと任務内容把握してるとは思わなかったわ。――と言っても、どうせそこのロボット目当てなんでしょ?」
長身の女性はそう言ってララミーを見たが、ただただくったくのない笑顔を見せるだけだった。
「まぁいいわ。アタシはエルダ・パーシヴァル・フロンティア。このララミーの姉よ。本来ならアタシたち
その長身の女性エルダは、はぁっという大きなため息をつきながら、
「だけど、特例中の特例だっていうことは忘れないで、アカオ」
釘を刺すように冷たい視線を送りながら言うと、構えていた長銃を背中に戻した。銃など向けられた経験のないアカオは、ようやく生きた心地を取り戻すかのように肩の力を抜いた。
「私はリオ・ガウェイン・フロンティア。この二人の妹です。ララミー姉様はずいぶんと軽くこの任務のことをあなた様に教えたみたいですが、これは私たち
末っ子だという幼い少女リオは、事務的に淡々とそう言うとやはりアカオに凍りつくような冷たい視線を送った。
「もう、お姉ちゃんもリオちゃんも怖いんだから。アカオ、心配しなくても大丈夫だからね! この二人はこう言ってるけど、本当は優しいからっ!」
ララミーはそう言うとなにか思い出したように、右手のグーを左手のひらにポンッと落とした。
「そうだっ。きっと二人ともお腹がすいてるのね。アカオ、なんか食べるもの持ってる?」
ララミーはそう言うと、アカオに笑顔を向けた。
「あ、うん。お菓子ならいっぱいあるけど……」
アカオはそう言ってうなだれるように停止していたメタリュックに乗り込み、頭部の球体をぱかっと開けた。その中からいろんな種類のお菓子を取り出して見せた。
「こんなので良ければ、いくらでも」
「うーん、そこはそうなっていたのね……。やっぱりステキだわっ!」
ララミーはお菓子のことより、メタリュックの機能に感心し、目を輝かせていた。
「まったく、本当に機械バカなんだからララミーは……。それにしてもなんかいろいろ出てくるわね。おいしいんでしょうね?」
エルダは次々に出てくるお菓子に興味を持ち始めていた。
「まぁ、好みは人それぞれだと思うけど。いろいろあるから好きに食べてよ」
アカオはそう言うと、踏みならされたシダ系植物のじゅうたんの上にどさっと一抱えのお菓子を置いた。
「アカオ、ちなみに聞くけど、甘いのあるの?」
エルダは鋭い視線をアカオに向けて聞いた。
「もちろん、あるよ。このチョコレートなんかどうかな」
アカオはそう言いながらチョコレートをお菓子の山から取り出し、エルダに手渡した。エルダは手渡されたチョコレートの紙の包装を破くと、そのままかぶりつこうとした。
「ちょっとちょっと! その銀紙も食べるつもりなのか?」
アカオはそう言い、エルダからチョコレートをさっと奪うと、銀紙を破いた。そのまま銀紙をかんで、あの嫌な感触を味わってしまえ、とも一瞬頭をよぎったアカオだったが――。
「また銃を向けられたんじゃ、たまらないからな」
「はぁ? なんでこんなムダに包んであるのよ? めんどくさいわね……」
エルダはやっと裸になったチョコレートをアカオに手渡されると、パキッと大きく一口かじった。エルダの表情は、
そのあとはあっという間だった。アカオがあっけにとられて見ている間に、一枚のチョコレートは跡形もなくなっていた。
「――まぁ、それなりにおいしいじゃない」
「エルダ姉様、口元」
リオに平坦な声でそう言われたエルダは、慌てて口元をふいた。すました顔を取り戻したエルダは、アカオに向けて右手を差し伸ばした。
「アカオ、さっきのヤツ、もう一つ」
「あ、はい」
アカオはお菓子の山から二個目のチョコレートを発掘すると、エルダに手渡した。エルダはまたぶつぶつ言いながらも、夢中になって銀紙をかりかりはがし始めた。
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