【第6話】少女×メタリュック

 きらきら輝くアッシュのロングヘアにブルーのウサ耳リボン。ミニスカートにへそが見えるほど丈の短い上着。

 露出度の高い服装と対照的に、その手に携えているのは、メタリュックのデザインに負けず劣らずの、旧世代デザインの二丁拳銃。

 見渡す限り原始の森の大地に不釣り合いの少女が、アカオの目の前に笑顔で立っていた。


「もしもーし。聞こえてますかー? そこのキミっ! もしかしなくても地球人よね?」

「あ、うん。まぁ、そうだけど――」


 当惑するアカオとは対照的に、少女はずいぶん軽い物言いだった。


「やっぱりねっ! あたしの思った通りになりましたっ」


 少女はそう言いながら二丁の拳銃の銃口をふぅっと吹き、くるくると回転させて腰元のホルスターに収めると、にこにこしながらアカオの乗るメタリュックに近づいてきた。


「ちょ、ちょっと待って。あんたはいったい――」

「これは……!」


 まるでわけがわからなかったが、とにかく接近してくるのを拒むように両手を前に出したアカオを無視し、ずんずん近づく少女の表情が一瞬険しくなった。そして吸い込まれるように突然両腕を広げてぴったりとメタリュックにくっついた。かと思うと大きく一歩跳ぶように下がり、左右の人差指と親指で『かぎかっこ』のような窓を作り、そこからメタリュックの全身をなめるように見渡した。


「な……なんて美しいデザイン! この鈍くブロンズ色に光る金属感! むき出しのギヤ! 重厚感あふれるレッグフレーム! キュートなロボットアーム! きゃーこのロケットみたいなのはなに? 武器なの? やっぱり武器なの?!」


 さらに少女はその『かぎかっこの窓』を大きく広げ、後ろに行ったり前に戻ったり、寝っ転がってみたり、忙しく観察する角度を変えた。 

 

「うーん……。参りましたっ! どこから眺めてもステキだわっ!」


 ブルーのウサ耳リボンをぴょこぴょこさせながら首をぶんぶん振る少女。さらに額をぺしっと軽くはたくと、こりゃ参ったという言葉をそのまま表情に貼りつけたような顔を上げ、キラキラしたブルーの瞳をメタリュックからアカオへと移した。


「ねぇキミ! これはキミが作ったの?」


 少女は、鼻息をふんふん鳴らしながらアカオに向けてそう言った。


「そうだけど……。ってか、あんた誰? なんでこんなところにいるんだ?」


 アカオは頭をかきながら、ちらちらと少女を見ながら言った。

 不可解なことが続きすぎて居心地が悪かったが、それはそれとして自分の作品であるメタリュックが褒められたことは内心嬉しかった。


「はーいっ。あたしはララミー・アーサー・フロンティア。『イヴの浄化プログラム』のために月からやってきましたっ! 以上!」

 

 ララミーと名乗った少女は元気いっぱいに右手をあげると、アカオに笑顔を向けて言った。

 原始の惑星に一筋の風が吹き抜けた。


「……どうも。僕はアカオ・バーンハード。お察しの通り地球人だけど。あのさ、聞き間違いだったらごめん。月から来たって、言った?」

「言いましたっ」

「ララミーさんだっけ?」

「ララミーでいいよ」

「えっと、ララミー。あんたは地球人ではない――ってこと?」

「もちろんですっ」


 アカオは元々ボサボサだった髪の毛をさらにかき乱した。


「もちろんもなにも……。じゃあ『イヴの浄化プログラム』ってなに?」

「この星の『浄化プログラム』のことですっ」

「…………」


 アカオは、何をどう聞けばいいのかわからなくなってきた。


「と、とにかく、あんたが何者でなにをしにこの惑星に来たのか、もっと詳しく聞かせてもらいたいんだけど――」

 

 ララミーはうーんとうなり始めた。ちょっとの間悩んだ後、何かをひらめいたようにぽんっと手を合わせ、メタリュックの操縦席の方までよじ登ってきた。


「ちょっと! この『メタリュック』は一人乗りなんだけど」


 アカオのその言葉を完全に無視し、ララミーは操縦席に座るアカオの隣に立った。そのままメタリュックをなめ回すように360度見渡すと、うんうんと何かを確信したよう満足げにうなづいた。


「『メタリュック』っていうんだね、この子。うんっ! 決めた!」 


 ララミーはそう言うと、勢いよくしゃがみ込み、アカオの顔に接近した。 


「アカオ。取引しよう、取引!」

「な、なんだよ。取引って……」


 突然接近した少女の髪の毛が、アカオに触れそうになった。と同時に、今まで嗅いだことのないような、それでいて少し懐かしいようないい匂いがした。

 アカオはなぜか少し気まずくなり、顔をそらした。


「本当はこのお仕事、地球人に知られちゃいけないらしいんだけどね。メタリュックこの子をあたしに操縦させてくれたら、特別にアカオをこの仕事に巻き込んであげるよっ!」


 ララミーはとびっきりの笑顔でそう言った。

 まったく迷いとか邪心とか、そういったものは一切感じられなかった。


「は、はぁ?」


 それだけにアカオにはその言葉の意味がまったくわからなかった。

 巻き込んで――? 

 確かにそう聞こえたからだ。

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