第11話 園
「菊様には私が護衛にいます。貞勝様のご家来はお帰しください。」
「そうですね、父上のご家来衆の皆さん。私の子守などをさせてしまい申し訳ございませんでした。今回私が何も怪我をしなかったのは皆さんのおかげです。父上にはしかと皆さんの功績を伝えておきます故、お戻りください」
「「「はっ!!」」」
村井宅に帰る貞勝家臣一同
皆が帰ったのを確認した桜はでれーとした顔で菊の腕に自分の腕を組み回した
「わっ、桜殿、どうなさったのですか?」
「えへへ、桜と呼び捨てでお呼びください。この腕組みは菊様の安全をお守りするための物です。こうすれば襲われてもすぐ対応できて安心ですから!」
焦る菊を他所に桜は菊の腕を放そうとはしなかった
その時
「食い逃げだ―!!誰か捕まえてくれー!!」
近くの蕎麦屋の店主が叫ぶ
その方向を見ると女がもの凄い速さでこちらに逃げていた
「菊様、どうなさいます?」
「織田家の領地で悪事は織田家臣として許せません。桜、捕まえなさい。怪我をさせては駄目ですよ?」
「かしこまりました」
桜は菊から離れ、食い逃げの前に立つ
食い逃げは桜を見て怒鳴る
「そこをどけーー!」
「菊様の御前です、貴女こそ退きなさい」
すっと態勢を低くして足払いをしようとする桜
それは完璧な瞬間で食い逃げの足をすくったと誰もが思った
「残念!」
「えっ?」
食い逃げが足払いを跳んで避け走り去るまでわずかな時間
桜は何が起こったかすら理解できずにただ茫然としていた
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「まことに申し訳ございません!」
しばらくして桜は菊の命令をこなせなかったと気付き慌ててひれ伏した
「仕方ないです。先ほどの者は武こそは桜の方があれど逃げるだけならかなりの者でしょうから」
「すいません・・・」
菊は桜を起こして
「ほら、行きましょう!私の休日は今日までですので明日からしっかり働きますよ!!」
と桜と一緒に村井屋敷に帰ったのであった
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菊がおなごと腕を組んで自宅に帰って来た事にベアトリスは発狂した
「菊様、この者は誰ですカ!」
「ベアトリス、落ち着きなさい!?ほ、ほら、桜、私の妻ベアトリスに挨拶を」
桜は菊から腕をはずし、ベアトリスの前に膝まづいた
「ベアトリス様、お初に御意を得ます。村井菊様の家臣の桜と申します。武を認めて頂きこれからは菊様の槍となり働く所存でございます・・・故に・・・」
そう桜は言って立ち上がり菊の腕に再び抱き着いた
「これからの菊様の安全はご安心下さいませ!ベアトリス様!」
「ナ・ニ・ガ!ご安心下さいませですカ!菊様!ワタシという者があり昨日祝言したばかりだと言うのにもうこの様な事を・・・父上に言いつけますヨ!」
「わっ、ベアトリスよ、信長様に言うのはやめて下さい!!桜はとても武のたつ者、必ず良い働きをしてくれます。もちろん、私の妻はベアトリス、貴女だけですよ?」
「グスッ・・・本当ですカ?」
涙目になりながら菊を見るベアトリス
「はい、約束します。ですから機嫌を直してください」
「分かりましタ・・・」
そんな二人のやりとりを見て桜はため息をつく
「仕方ないですね・・・では私は菊様の側室で我慢します」
「き、菊様ー!!ワ、ワタシ、父上の所にいってまいりマスーー!!!」
「お、お待ちなさい!べ、ベアトリス!」
菊の周りがとても賑やかになった日であった
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夕方、思いもよらない客が菊の部屋に現れた
「貴女は蕎麦屋の食い逃げ女・・・どうやってここに入ったのですか?」
「食い逃げってやめてよー、ちょっとお金たらなくてさ。また取り帰ってすぐ払いに行ったしさ!そしたら蕎麦屋の店主が菊って女が不憫に思って立て替えてくれたって言ったからお礼をと思ってこっそり入ってきちゃった!」
「不憫に思ったのは貴女にではなく店主の方ですよ。ですがちゃんと払いに行った気概はよし。蕎麦代は私の御馳走で良いですよ」
そうため息をつく菊
「えへへ、ありがとうね!てかさてかさ!」
と菊にぐいっと顔近づける食い逃げ女
「な、なんですか・・・?」
「あんたあの小姓から部将になった村井菊なんでしょ?尾張でも噂で持ち切りだよ!!護衛の女も『菊様の御前』とか言ってたし、店主も菊って人が払って行ったって言ってたし!確かにおなごにしかみえないなー、店主が間違えるのも無理ないか!」
「は、はぁ・・・それだけですか?」
「いや、もう一個用事がね!あんたさ・・・」
食い逃げ女はニヤッとした
「私を抱いてみないかい?」
「あはは、抱くとかそんな事・・・ええぇぇぇぇっぇぇえぇぇぇぇぇ!!」
菊はあまりの事に驚き叫んだ
「菊様ー!!大丈夫ですか!!」
バタンッと襖がひらき、刀を携えた桜が入って来た
「菊様、どうかなさいましたか?」
「いえ、そこにいる先ほどの食い逃げ女が私に・・・あれ?」
先程までいた場所に食い逃げ女はいない
「誰もいらっしゃらぬ様ですが・・・」
「すいません、驚かせてしまいました。下がってください。」
「はい。いつでも必要な時に私をお呼びください。」
「ありがとうございます」
桜は頭を下げ部屋から出て襖を閉めた
「もぅ、なんで大きい声を出すかなー」
「!?」
菊は驚いて上を向くと天井からひょいっと顔を出す食い逃げ女
「もう、食い逃げ女ってやめて!私は園って名前があるんだから!」
「そ、園殿、いつの間に天井に?」
「えへへ、凄い?」
涼しい顔で天井から降りてくる園
長い髪を後ろでくくり背は菊より少し高く大人の色気を感じる
歳は菊より少し上だろうか
「でさっきの話の続きだけどさ!」
そう言って口同士が付きそうになるくらい近づく園
「私を側室にしないかい?」
「な、何を言ってるのですか?」
ドキドキしながら答える菊
「生憎、私はそういう夜の営みは初めてだがあんたが望む事はしてあげるよ?」
「そ、そういう事じゃないです!?なにか理由があればお聞きしますので少し離れてください!?」
「なんだい、つまんない・・・」
そう言って菊の前に座る園
そして菊の元に来た理由を話した
「桶狭間の合戦で織田家の大勝で終わったと情報を聞いた時、尾張中が驚いたんだ。で、よくよく話を聞いてみるとさ村井菊と言う小姓が知略で兵の犠牲を最小限にしようとして勝ったと言うじゃないか。私は小兵の命も考えるあんたのそばであんたがどこまでいくか見たくなったんだよ」
「どこまで・・・とは?」
菊の問にうーんと悩みながら
「なんか凄い偉い人になる気がするんだよね、あんた!」
「それは私なんかを買っていただき感謝します。それで側室を望まれたのですか?」
「まぁ他でもそばに入れれば良かったんだけどさ、側室以外に役に立てそうになくてね・・・」
「なるほど・・・」
菊は園の手を取り言った
「側室にはできません。ですが、私の忍びとしてそばにいてくれませんか?」
「忍び・・・かい?」
「はい。その隠れる能力を私の為に使っていただきたいのです!」
「でも忍びかぁ・・・」
「嫌ですか?」
「・・・良いけど条件がある」
「な、なんでしょうか?」
再び近づく園の顔にどきどきしながら答える菊
「喋り方、このままでいいか?」
「あっ、私に対しては敬わなくてもいいですよ」
そんな事かとほっとする菊
「そういう事じゃない。あんたの能力は買っている。ただ敬語を使うのが苦手なんだ」
「それは大丈夫です。一緒に頑張っていきましょうね!貴女の部屋も用意させますので今日からはそちらで生活して下さい」
「分かったよ。それより・・・」
園は菊の顔を見てにやりとする
「忍びって主を喜ばせるのが仕事だよねぇ・・・」
「そ、そうですね」
菊は嫌な予感がした
「なら悦ばせるのも仕事だよねぇ・・・」
そう言って園は手を伸ばした
その先は菊の股間があった
「ちょ、ちょっとやめて下さい」
園の手がさわさわと股間に触れる
「やめてと言いながら大きくしてるじゃないか。ここはこんなに大きくなるんだな・・・初めてだが頑張るよ」
おもちゃをいじる子供の様な園に弄られる菊
「ちょっと、ちょっ・・・」
まずい、これ以上は理性が持たない
「だ、だめ・・・やめ・・・」
「菊様!夕食ができましタ!」
ガラッと襖をあけて入ってくるベアトリス
そこにいたのは見たこともないおなごとそのおなごに股間を触られている菊だった
「ナ、何をしているのですカー!!!」
「べ、ベアトリス、こ、これは違うのです!?」
「ちっ、邪魔が入ったか・・・」
弁解する菊にあと少しだったと悔しがる園
「父上に菊様についていけないと言ってきマス!!!短い間でしたがお世話になりまシタ!!!」
「べ、ベアトリス、待ちなさい、ベアトリス!!!」
こうして菊の元に桜と園と言う優秀な家臣が出来たのであった
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