第7話 南蛮品
尾張に帰り菊は一人で信長に会った
「住まいの移しが終わった様じゃな」
「はい、皆さまが良くしてくださり無事終わることが出来ました」
「そうか。で、今度の用は何じゃ」
「はい、こちらを馬印、軍配にしたくお願いにまいりました」
菊はギアマンの鈴を信長の前に出した
信長は初めて見る南蛮の鈴を不思議そうに見つめた
「この小さな鐘を馬印にすると申すか。またこれは何故この様に透き通っておる?」
「これは南蛮渡来の物でギアマンと言われる素材でできた鈴でございます。左右に振ってみるととても良い音がし、この鈴自体は軍配にいとしとう存じます」
「ほう、これが異国の地からやって来た南蛮物か・・・」
信長は鈴を手に取り左右に振った
ちりんっ、ちりん
「とても良い音じゃ、鐘と同じ形なのに振るだけで音が出てこの透き通り具合、さぞ高い技術が使われておるのじゃろう」
「私も初めて見た時は美しさに心奪われてしまいました・・・。この鈴は軍配にいたし、馬印は同じギアマンでできた大きな鈴もございましたのでそちらにいたしとう存じます」
信長は鈴を畳に置き聞いた
「そんなに南蛮物があるのか?」
「はい。南蛮商店には日の本にない物が多くございました。信長様、商人を連れてきております故、お会いになられますか?」
「なに!?南蛮人を連れてきたのか!何故それをはよ言わぬ。連れてまいれ!」
「はい、すぐおつれします」
菊はベアトリスを呼んだ
ベアトリスは信長の前で菊に教わった作法をした
「お初に御意をえマス。南蛮商人のベアトリスです」
信長は立ち上がりベアトリスに近づいた
「ほう、これが南蛮人か・・・ずいぶん我が国の者たちとは違うようじゃの・・・ベアトリスとやらよ、そなたの国はどの位遠き場所にあるのじゃ?」
「私たちの国はポルトガルと言いマス。信長様にこちらを差し上げとう存じマス」
そう言って差し出す球体の物
「これはなんじゃ?」
「これは地球儀と言いマス。私たちの国やこの日の本は勿論すべての国はこの状態で存在してマス」
菊も信長も初めて見た地球儀というものに驚いた
「なに!?世界は丸いのか!?」
「はい、そして先ほどのポルトガルの場所ですがこちらにあるのがポルトガルでございマス」
そう言ってベアトリスは地球儀を指さした
「ほう、これがポルトガルか・・・で日の本はどこじゃ?」
「はい、こちらでございマス」
ベアトリスが指をさしたのは海に浮かぶ小さい島だった
「!?日の本はかように小さき島じゃったのか・・・」
信長は驚きの連続だった
必死に平定した今の尾張ですら日の本からみればかなり小さい
その日の本ですら世界からみればこんなに小さき国だったのだ
世界はどんな広いのだろうか
「ベアトリスよ、遠い所から来たのじゃな。こたびは大儀であった。南蛮の品があれば気に入った物は買う故、手に入れたら持ってまいれ。下がってよいぞ」
ベアトリスは目を輝かせた
「ありがとうございマス。近いうちにお持ちいたします!では失礼いたします!」
ベアトリスは広間から去った
「菊よ・・・私は世界が見てみたくなった」
菊には信長の気持ちがよく分かった
「私もでございます。きっと何とも言い表せない大きい所なのでしょうね・・・」
「菊よ。日の本を平定したら一緒に見て回るか?」
「はい!お供させて下さいませ!」
「こたびは面白き体験であった。大儀だ。馬印も軍配も許可する」
「ありがたきお言葉!感謝申し上げます!」
信長の言葉が何よりも嬉しかった菊であった
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ベアトリスは京に帰り信長に売る商品を持ってやって来た
菊は信長に呼ばれ、一緒にベアトリスの商品をみていた
「これはなんじゃ?」
「これはオルゴールといいマス」
そう言って小さい箱をベアトリスは開けて中に入っている物を回した
すると音が出て奏でている
「!?菊よ!音が出たぞ!?」
「さようでございますね!?中で人が入っているのではと思う位良くできております!」
信長も菊も初めて見るオルゴールに目を回す
「このネジと呼ばれるものを回すことによって仕掛が作動し音を奏でマス・・・その他にも・・・」
そう言ってベアトリスは何かを取り出した
「こちらはワインとコンペイトゥと申しマス」
「わ、ワイン?コン・・・コンペイトゥ?」
信長は混乱している
「ワインは日の本のお酒のポルトガル風でございマス、葡萄から作っておりマス」
「ほうこれが酒だとな・・・」
そう言ってワインを一口飲む信長
「ふむ、変わった味だが癖になるな・・・それでコンペイトゥとやらは?」
「はい、こちらはポルトガルの御菓子でございマス。砂糖を煮詰め固めたものでございマス」
と言って差し出すベアトリス
信長はそれを受け取り口に含む
かりっ
コンペイトゥがつぶれる音がした
そして
「甘い・・・かように甘く美味い物は初めて食べた・・・」
信長は大変気に入った様だ
更にベアトリスは大きな物を持ち出した
「これはなんじゃ?」
「これは甲冑と言いマス。日の本の鎧のポルトガル用です」
「これを着て戦をするのか・・・」
信長は金属でできた重い鎧を見て驚いた
「菊よ、全て買う。甲冑を日の本の戦でも使えるように手直しさせよ」
「かしこまりました!」
「ベアトリス、全て言い値で買う。さらにこたびの褒美を与える」
「ありがとうございマス!」
すこし信長は考えベアトリスに聞いた
「そなた、夫はいるか?」
「いえ、まだこちらに来て短いので結婚はしておりまセン」
「さようか、ならば菊と祝言をあげよ!」
信長の一言に菊もベアトリスも困惑の表情を浮かべた
「信長様、この国では女同士で結婚できるのですカ?」
ベアトリスは菊とは違う疑問で困惑していたようだが
「ん?まさか知らなかったのか?菊は男ぞ」
「えっ・・・」
菊を見るベアトリス
「知りませんでシタ・・・」
未だに信じられないと言う顔をしている
「あはは、別に言わなくてもいいかと思いまして・・・」
バツの悪い表情をする菊
そんな気持ちを察知せず信長は
「ベアトリスよ、お主はわしの養女にする。そうする事で村井家と織田家の結びつきはさらに強くなると言う物よ!」
満足そうに手を膝に打ったのであった
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