第6話 京

京についた菊と藤吉郎は驚いた


どこも華やかで色んな商人が商魂たくましく商売をしている


そして何よりも異人が歩いているではないか


「菊様、あの者、肌が恐ろしく白く、背も高く髪も金の色をして鼻も高い・・・もしや鬼ではありませんでしょうか?」


おそるおそる菊に聞く藤吉郎


「えぇ、私も初めて見ましたが、あの者らは遠い異国から来た宣教師と言う仏教とは違う宗教の僧らしいです・・・」


質問にこちらも恐る恐る答える菊


「なるほど・・・人間でしたか・・・では拙者、鉄砲を買ってまいります!」


「かしこまりました。では近くを見物しておりますので終わりましたらあそこの酒屋にて」


菊は近くの酒屋を指さした


藤吉郎はその酒屋を確認すると菊に頭を下げ鉄砲の調達に向かった


「さて・・・京土産でも物色するか・・・」


菊は近くで護衛を待たせ色んな商店を見て回った


茶道具や写本、武具など尾張に比べてとても栄えていた


中でも菊の心奪われる商店があった


南蛮商店である


異国の地、南蛮の物が売ってある店だが値段は結構高い


心奪われながらも見るだけにしようと思い、商品を眺めていると


「鐘・・・?」


手の平位の大きさの小さい鐘が目の前にはあった


菊が驚いたのはその大きさよりも材質だ


中が透ける位透明なのだ


「お客サン、それ気になったネ?」


急に明らかに慣れていない日本語が聞こえた


振り返るとそこには異国の者がいた


「貴女は・・・?」


菊が聞くと女は答えた


「ワタシ、ベアトリスと申しマス。このお店の主人デス。」


ベアトリスと名乗る女性はそう答えた


「そうでしたか、それは失礼いたしました・・・この鐘は何ですか?」


菊が聞くとベアトリスはその鐘の形をした物を手に取り左右に振る


ちりんっ、ちりんっ


とてもきれいな音色をしていた


「これはギアマン(今の時代のガラス)でできたベルと言う物デス。この国では鈴と言われている様デス」


ベルと言われた鈴は菊の知っている鈴とは全く違い、とても美しい物であった


「これが鈴・・・誠に美しいです・・・これはおいくらですか?」


「コレ、とても珍しいデス。100貫いただきマス」


「100貫!?さすがにそれは手が出ませんねぇ・・・」


菊は諦めて店を出ようとすると


「お客サン」


ベアトリスが呼び止めた


「はい?なんでしょう?」


「お客サン、お武家様のお姫様ですカ?」


当たり前だが菊の事を男だと気付くわけがない


ベアトリスも気づかずに質問している


「えぇ・・・まぁ、そんな所です。織田という所に仕えております」


別に隠している訳ではないのだが一々説明するのは面倒だ


菊は適当にあわせる事にした


「おおっ!オダ!聞いた事ありマス!!何でも、強い敵倒したとカ!」


小さい勢力の織田があの巨大な今川を破ったという大事件は京でも持ちきりだったらしい


「信長様はお強く、私もお側で仕えさせていただいてとても幸せにございます。」


「おお、お殿様のそばにいるんですネ?なら頼みがありマス」


ベアトリスはギアマンのベルを差し出した


「私をお殿様に会わせて欲しいデス!きっと役に立ちマス!このベル、お姫様にあげマスから!!」


菊は驚いた


「信長様にあってどうなさるおつもりですか?」


ベアトリスはにっこり笑って


「まだこの国、私たちの国の物、珍しいヨネ?お殿様に気に入って貰ったらきっと繁盛するネ!」


と言った


ベアトリスはこのギアマンのベルで信長に南蛮の物は素晴らしいと見せつけ様々な南蛮品を買って貰おうと言う魂胆だった


「よろしいですが、信長様にお会いなされる前に作法を習得していただきますよ?」


「分かりまシタ!」


ベアトリスは満足そうにうなずいた


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酒場で菊を待っていた藤吉郎は驚いた


菊が護衛と帰って来たのは良いが異国の者を連れている


「菊様、そのお方は・・・?」


「この方は南蛮商店で商いをされている方です」


「ベアトリスと申しマス」


「で、なぜそのベアトリス様が菊様と?」


藤吉郎は至極まっとうな質問をぶつける


「信長様に会せようと思います」


「なんですと!?御屋形様が約束をしていない者とお会いになるとは思えませんぞ?」


「大丈夫です。信長様は必ずお会いになります。では尾張に帰りましょう」


菊の自信に藤吉郎は困惑しながらもついていくのであった

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