第5話 新参
第5話
「次、柴田勝家」
菊が名前を読み上げる
「はっ」
柴田勝家は信長の前に出て頭を下げた
ここは褒賞を与える場
信長が褒賞を与えるものの名書いた紙を菊が小姓として読み上げているのだった
信長は勝家が頭を下げたのを確認して褒美を告げる
「勝家、此度の奮闘ぶりはまさに鬼の如く。大義であった。勝家には尾張の村2群を与える」
「はっ!」
勝家はとても満足げな顔をしている
織田家は死ぬ思いで今川義元を討ったのだそれも当然であろう
全員に褒賞を与え終わり家臣が自分の席に戻ると信長は菊を見て驚きの一言を告げた
「では、最後に菊に褒美を与える」
家臣はみな驚きの顔をした
菊も驚いていた
菊は戦場において信長が討たれないように盾になっていただけである
「信長様、私が褒美を受け取ってもよろしいのですか?」
信長は愚問とばかりに答えた
「無論じゃ。湯漬けと鼓を持ってわしが戦に出ると限らぬのに待っておった。そのおかげで早く城を出ることが出来、桶狭間に今川軍が居るときに間に合った。またあの獣道での奇襲の策を提案したのは大義であった」
「はい、ありがたき幸せにございます!」
信長は優しげな顔で頷き菊への褒美を口にした
「村井菊。お主を小姓の任から解き部将にすることを命ずる」
「えっ・・・」
菊は初め何を言われたか分からなかった
侍社会には階級がある
大名、城主、宿老、家老、部将、侍大将、足軽大将、足軽組頭、足軽、小物頭、小物
この順で上司と部下の関係になっていく
小姓が任を解かれるときまずは足軽大将から、優秀な者でも侍大将までが最初の役職であった
またまだ菊が小姓になって日が浅い
こんな早さで任を解かれ部将になるとは誰もが思ってなかった
なにより村井貞勝の子とは言え養子で元は農民出の者
異例の大出世だった
その褒賞に口を出した男がいた
米の五郎左の異名を持つ丹羽長秀であった
かれは柴田勝家と織田家の双璧をなす武士であった
「しかし殿、小姓の者をいきなり部将とは・・・」
「小姓など関係ない。手柄をたてた者に褒美を与える。それは足軽や小姓でも同じことである。皆も働けば褒美を与える故、精進せよ!」
「「「「はっ!!!」」」」
菊は信長の意図を見抜いた
新参者の菊に多大な褒美を与えることによって織田家臣達は悔しがり自分も褒美を貰おうと躍起になって働く
そうすれば織田家はますます繁栄する
それが信長の狙いであった
ただ、まだ菊は信長には抱かれていない
もし、このまま部将になってしまったら自分が武士になった意味がないのじゃないだろうか?
そばにいて忠節を尽くすと決めたのに離れてしまうのではないだろうか
それが菊には嫌だった
「信長様、お願いの儀がございます・・・」
菊はいつもより深く頭を下げた
「なんじゃ?」
「部将になってもおなごの格好でよろしいでしょうか?これからも殿のお傍に居たいのです・・・」
「ならん」
信長の冷たい声が菊に突き刺さる
菊は胸が張り裂けそうになった
もう自分は必要とされないのか・・・
「菊よ、部将として様々な形で忠節を尽くしてもらわなくてはならん。よってわしのそばにずっといる事は許さん。・・・しかし・・・」
頭を下げている菊にもわかった
信長の声が少し優しい感じに変わった
「おなごの格好でいる事は許そう。わしはお主のその容姿が好きじゃ」
その言葉を聞き顔を赤らめる菊
頭を下げていても分かる織田家臣の嫉妬の視線を背に浴びても菊は気にしなかった
この人の天下を一緒に作ろう
菊はそう心に誓った
「ありがたき幸せにございます!」
「うむ。菊よ、部将になったからには馬印と軍配が認められる。許可する故、決めたらわしの元に持って来るように」
馬印と言う大将が乗る馬の横にそれぞれ大将毎に異なる目印を立てる事が出来る地位は部将からである
軍配は侍大将から認められているが菊は小姓上がりなので勿論持ってはいない
軍配は大体皆同じ様な者ではあるが自分が戦で使う物を調達しなければならない
「かしこまりました。近いうちに必ず。」
「うむ。では本日の評定はこれにて終わりとする」
信長が広間を出る
家臣達も菊を羨ましそうに見ながら広間から出て行った
「まずは家臣の皆さまと仲良くしないとな・・・」
菊もそうつぶやき広間からでた
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城に部屋を与えられていた小姓時代とは違い部将は城下町に住居を移すことになる
菊は貞勝の屋敷に住むこととなった
貞勝は菊を本当の子の様に可愛がってくれていた
貞勝には息子がいたがまだ幼かったため信長の元で働いている貞勝の子は養子の菊だけであった
その菊が部将という織田家の中でも幹部になったのである
快く菊の部屋を用意してくれただけではなく、菊の実の父も足軽大将へと出世をさせてくれたようだ
菊は信長の直臣であった
父は貞勝の直臣であり信長から見れば陪臣にあたる
菊の出世は信長の命でしかできないが、父の出世は養父貞勝の位を超えなければ貞勝が命じることが可能だった
久々に実の父母にあったが二人とも大層喜んでいた
母は
「やっぱり私の子だよ!!」
なんて武士になろうとしてた時あんだけ心配していたのがウソの様である
菊は部将になり様々な準備があるという事で信長から少しばかりの休みを貰っていた
寝具や着物など新調する測定を終えて一息ついてると
「菊様ー!!!」
藤吉郎が入って来た
「藤吉郎殿!お元気でしたか?」
「はっ!桶狭間での武功認められ、足軽組頭を飛ばして足軽大将にしていただきました!菊様も部将になられたという事で誠におめでとうございます!」
膝まずき嬉しそうに言う藤吉郎
信長に褒美を直接もらえるのは足軽大将以上、それ以下の者は侍大将の位の者から信長からの褒美が伝えられる
藤吉郎は足軽から足軽組頭を飛び越えて足軽大将になったようだ
「それはおめでとうございます!更なるご活躍を期待しております!」
「はっ、ありがたき幸せ!幸いにも拙者の家はすぐ近くですので何かございましたら遠慮なく申し付け下さい!」
「それはありがたき申し出!ご迷惑かけるかもしれませんがお願い申し上げます!」
菊は藤吉郎が気に入っていた
何か大きな仕事をするに違いない
菊の勘ではあったがそう信じて疑わなかった
「それで、菊様、もう住まいの移しは終わられたのですか?」
藤吉郎は休んでいる菊を見てそう尋ねた
「はい、大体終えることが出来ました!後は馬印と軍配の用意、部将になるにあたって家来も必要になりますのでその人員の確保位ですね!」
「おおっ!馬印でございますか!うらやましいですぞ!拙者も早く馬印や軍配を持てるように精進しなくては!!」
キラキラと顔を輝かせる藤吉郎
そんな無邪気な藤吉郎を見てなんだか菊は吹き出してしまった
「あははっ、藤吉郎殿は必ず大きい仕事をなされます!お手伝いいたします故、一緒に出世しましょうね!」
「はっ、ありがたき幸せ!」
藤吉郎は頭を下げたがすぐに思い出したように
「そういえば拙者、御屋形様から京にて鉄砲を買ってくるように申し付けられました」
「鉄砲・・・ですか・・・ですがあれは雨に弱い武器だと聞いておりますが・・・」
「拙者もそう聞いてはいるのですが御屋形様は買えるだけ買って来いと・・・」
「なるほど、藤吉郎殿、立派に勤めを果たされてください」
「はっ!菊様もあと少しお休みがあるとお聞きしておりますればご一緒に京に行きませぬか?いい機会だと思います!」
そう提案する藤吉郎
確かに農民出の菊にとって京は一種の憧れがあった
是非見てみたい
「良いお考えですね!少しお待ちくだされ!!」
菊は貞勝の許可を得て護衛を借り用意を済ませ藤吉郎と京に向かったのであった
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