第十二話

 しんと静まった空気のなかに俺はひとりで立っていた。

 俺の周りをチームメイトたちが何人も囲んでいる。そして俺の真正面。身長は俺よりもいくらか高いというくらいだが、俺と比べたときの体つきがゴリラと子ザルくらいもあるといっても過言ではないほどの体格差のある男。

 そいつが俺の前に太い腕を組んで俺を鋭い目つきで見下ろしている。

 「……………………」

 男がなにかを言っている。

 俺は唇をかみしめて、黙って聞いていた。

 仲間たち、少なくともそのときは仲間だと信じて疑わなかったやつらがどのような表情を浮かべていたか知るすべなんてなかったはずなのに、なぜか俺には軽蔑、諦観、呆れといった負の感情をありありとみせる集団を見た気がした。

 「……………………」

 なおも男が言葉を継いでいる。

 まだか、まだ終わらないのか。

 もうやめてくれ。

 俺だけじゃないだろ。俺の、俺だけの……じゃないだろ。

 男が何を言っているのかわからないはずなのに自然と終わりを願ってしまう。そこにあるのは絶望だけだった。

 やがて視界が歪み、渦まく意識の流れのなかに俺は吸い込まれていく。

 暗く深いそこにあったのは、絶望だけだった。




 『まもなく宮都~宮都~、お出口は左側です…………』

 車内放送とかすかに速度をおとした電車の揺れで目を覚ました。いつのまにか眠ってしまったいたらしい。

 景色は流れゆく田園風景から見慣れた駅のホームに変わっていた。

 終着駅であるがゆえ、いままでに乗ってきたひとびとがこぞって出口へと足を運ぶ。

 満員というほどではないものの、十分に込み合っていた。しょっていたバッグを肩にかけなおした。

 ひとの流れに沿って俺も改札を目指す。

 ひとりで歩いているとふと自分の内側に意識がいく。

 先ほどの夢は現実か。それとも俺の記憶の負の部分がつくりだしたただの夢にすぎないのか。

 たった一か月ほど前のことのはずが俺はそれを断定できるだけの記憶のかけらを持ち合わせていなかった。

 改札を抜け、駐輪場へ向かう。

 あの日以来、俺がこの駐輪場に誰かと来ることはなくなった。


 

 

 

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