第2話 チュートリアル 2

「───ん」


そんな声が聞こえてきて、意識が覚醒していった。


「ん?」


「あ、ようやく起きましたか」


「あれ?僕はどうしてこんなところに?」


「そんなのあなたが全力で走るからじゃない」


「どういうこと?」


「あなたの俊敏ステータスは1000万なんですよ。そりゃ、全力で走ればコントロールできるわけないじゃない」


「あ、たしかに」


僕はそのことに納得した、そして現状を納得できないでいた。


「それで僕はどのくらい気を失っていたんですか?」


「うーんと、数分ってところかしら」


「そうなんですか。ちなみに聞きますが、普通人外のスピードでぶつかればものって壊れますよね?」


「何当たり前のこと聞いてんのよ」


「そうですよねー」


今あったことを話すと、全力で走り、人外のスピードで外壁にぶつかったが、外壁は無傷だった、ということだ。というか、僕はそのことをちょっと気になっていたんだ。攻撃0とはいえ、このスピードでぶつかれば、ダメージが入るのではと。しかし、結果はダメだった。これでもダメージは入んなかった。これでいよいよパワーレベリングしないといけなくなった。


「それより、早くいくわよ」


「あ、ちょ、待って」


そして、妖精さんのあとをついていくがあることを思い出した。


「あのー」


「何よ」


「後についてくるだけじゃなかったの?」


「!そんなことどうでもいいでしょ。それにあんたを先に行かせるのは不安なのよ」


そう言うと、さっきより早く飛んで行ってしまった。



しばらく歩いていると、人影が見えた。こちらが手を振ると気づいてくれたみたいだった。


「私は透明になっているけどあまり気にしないでね」


「え?なんでわざわざそんなことするんですか?」


「私たち妖精は、ちょっと目立ちすぎるからよ。そういうことだから」


本当に消えてしまった。これからどうしようかと、考えていると。


「さっさと行きなさいよ」


そんな声が聞こえた。あ、そう言えば、透明なるって言ってたっけ。それじゃあ、あんまりぐずぐずしてられないな。


「はいはい、行きますよ」


とりあえず、人影の方に行ってみることにした。



人影に近づいてみると、鉄の甲冑を着た人だった。


「君、大丈夫か?」


「?何かあったんですか?」


「ああ、先ほど地揺れがあってな。というか気がつかなかったのか?」


「はい。多分、その時ちょうど気を失っていた時だと思いますから」


「そうなのか?本当に異変とかはないか?」


「はい、特にはありません」


「そうか。っと。仕事を忘れるところだった。君、ここには何の目的で来たんだ?」


「ここが一番近くにあった街なので?」


「なぜ疑問形なのだ。ということは、この街に入るのか?それなら身分証明書は持っているか?」


「へ?持ってません」


「持ってないのに入ろうとしたのか?本当、君はここになんのために来たんだ?」


「えーと、必要なことを知らなかったし、ここには冒険者になるためきました?」


「またなんで、疑問形なのかは問わないが、そうか。それでは通行料を払ってもらうか」


「え?なんで理由は聞かないんですか?」


「なんでって冒険者登録すれば、それが身分証明書になるからだろ」


「なるほど。それで料金はいくらですか?」


「なるほどって、そんなことも知らなかったのか。まあいい。通行料は5千ゴールドだ」


「え?」


「何かあったのか。もしかして払えないとかか?」


「いえそうではないです」


そして、1万ゴールドを払った。


「よし。ほら、5千ゴールドだ。通っていいぞ。……あ、ちょっと待て」


「今度はなんですか?」


「仮の身分証明書を一応出しておくから、ついて来い」


それから、仮の身分証明書を発行してもらい、今度こそ街に入った。


「というか、ここまでリアルに再現しなくてもいいだろ」


「まあ、これがこのゲームの売りだから」


「うお。急に独り言を拾うなよ」


「ずっと一緒にいるんだから、気にしてちゃダメよ」


「そんなこと言っても、驚くものは驚くんだ。そんなことより、ここあまり賑わってないな」


「そんなことってひどいわね。まあ賑わってないのも事実だししょうがないか。まあここは田舎なんだからこれが普通なのよ。それに時期が悪いし」


「ふーん、ここって田舎なんだ。しかも時期が悪いって。そんな設定にするなよ。それより妖精さん、ギルドってどっち?」


「そんなことくらい通行人にききなさいよ!」


それ以後どんなに話しかけても答えてはくれなかった。透明だから、周りからは独り言を延々と言ってるいたい人に見える。



それから、なんとかギルドにたどり着くことができた。そして、ギルドの目の前で手を合わせた。テンプレ展開はありませんように、と。


そして、中に入ってみるとあまり人はいなかった。受け付けにも1人しかいないようだった。


とりあえず、冒険者登録するため、その受け付けに行くことに。


「冒険者ギルドにようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?私はクロエといいます」


「はい、冒険者登録をお願いします」


「かしこまりました。それではこちらに記入をしてください。それとも代筆が必要ですか?」


「あ、代筆をお願いします」


「かしこまりました。それでは、お名前は?」


「零と言います」


「零様ですね。それでは、ここに手をかざしてください」


水晶みたいなのが出てきた。多分これでステータスを見るんだろうな。ある意味問題を呼びそうでいやなんだけど。


「どうしました?」


「いえ、なんでもありません」


そして、手をかざして、ステータスが出たそれでのステータスを見た受け付け嬢の顔が一瞬引きっつったように見えた。しかし、一瞬だったためよく分からなかったし、すぐにもとの営業スマイルに戻っていた。


「本当にこのステータスで冒険者になろうとしているんですか?」


「はい。それに、なにかあったら自己責任でしょ?」


「まあ、そうなんですけど。まあ、いいです。それでは登録しますね」


「はい、お願いします」


数分後。


「はい、こちらが零様のギルドカードです。ギルドについて説明は必要ですか?」


「お願いします」


「まず、ギルドランクについてから。ギルドランクはF、E、D、C、B、A、Sまであります。ここまではいいですか?」


「はい、大丈夫です」


「では、次はギルドランクは、依頼をこなしていけば上がっていきます。しかし、ある一定のステータスがないと、ギルドランクが上がらない場合もあります。とりあえず、Dランクまでは、ステータスは関係ありませんので」


「は、はあ」


「ここからが重要なのですが、冒険者になると、ある程度の義務と特典があります」


「あのー、それって登録する前に言うのでは?」


「え?だって聞かれませんでしたし。義務も基本はBランク以上のものが基本ですし。ですので問題はないかと」


「まあ、いいですけど」


「それに、義務は特典を使うためのものですので、特典を使わなければBランク未満の冒険者には、義務は発生しません」


「それで、義務と特典とはなんですか?」


「それでは、まず特典からでいいですか?」


「はい、お願いします」


「特典というのは、このギルドの所有物の使用権、お金の支払い時の割引などといったものがあります」


「ギルドの所有物って何があるんですか?」


「このギルドにある物すべてです。倉庫やギルドの施設、仮眠室などがそれに当たります。しかし、他人のものもあるので気を付けてくださいね」


「わかりました」


「しかし、これらを使用するには義務が発生するのです。例えば、Fランクの人がこれを使い続けるには、1週間に1回以上依頼を達成する必要があるといったことです。これは、Cランクの人までに課せられるものです。ランクが上がれば、期間は伸びますが」


「なるほど」


「あと期限にともなったことですが、冒険者登録にもありますので気を付けてください」


「え、そこまであるんですか?」


「はい、ずっと何もしない人を置いておけないので。期限については1年です。それを過ぎると自動で登録が抹消されます。それと、再発行には10万ゴールドが必要なので、これについては気を付けてください」


「は、はい、気を付けます」


「以上が主な義務、特典の内容です。何かわからないことはありますか?」


「いえ、特にはないです」


「え?聞かないんですか?!」


「何をですか?!何か聞かなきゃいけないことでもあるんですか?!」


「いえ、本日はこの街のシステムについて聞く方しかいなかったので、零様も聞くものとばかりと思いましたので」


「あの、システムってなんですか?」


「やはり、分からなかったのですね。ですが、なぜ聞かなかったのですか?」


「そもそも、重大なことってありましたっけ?」


『元凶が何を言うか』


「!?」


「どうかしましたか?」


「いえ、なんか声が聞こえたような気がして」


「声なんて聞こえませんでしたよ。そもそも人がいるんですから、聞こえて当たり前ですよ」


『そうそう』


なんとなくだが、これは多分妖精さんだ。あまり、手法を変えないでというか、変わったやり方はやめてもらいたい。犯人が分かったので、あまり気にしないことに。


「それで、重大なことってなんですか?」


「まあ、そこまで重大ではないのですが、本日地揺れがあったじゃないですか」


「ああ、そういえばそんなこと聞きましたね」


「聞きましたねって、分からなかったんですか?」


「はい、そのときちょうど気絶していたみたいで、全然記憶にないんですよ」


「そうなんですか。それでそのとき、冒険者登録をやりに来た人が全員がこの街のシステムを知らなかったので、聞かれなかったことに不思議に思っただけですよ。まさか、気絶していて知らなかったなんて」


多分、その冒険者登録した人達は、βテスターだろうと思うが、それよりもこの世界のリアルさに驚いた。


「これで、説明は以上です。何か他にありますか?」


「いえ、特にありません。ありがとうございます。それでさっそく、仮眠室の方に行っていいですか?」


「はい、構いませんよ。ちなみこの奥が仮眠室になっています。それで、ドアの前が青くなっているのが空室で、赤くなっているのが使用中ですので気を付けてください。何か問題があってもギルドは責任を負いませんので。ですのでしっかりと変えてくださいね」


「ありがとうございます」


それで奥の方に行ってみると、ドアがずらーっと並んでいた。ある意味圧巻であった。これだけあるとどの部屋を使えばいいかわからない。しかもほとんどが空室だし、まばらに赤くなってるし。


「妖精さんどの部屋を使えばいいと思う?」


「そんなことくらい自分で考えなさいよ」


「あ、今度はちゃんと話すんですね」


「それは、ここなら誰かに聞かれる可能性はさっきよりは低いですからね」


「それで、どの部屋が──」


「だから、それくらい自分で決めなさい!」


またも怒らせてしまったので、てきとうに決めることにした。まあ、どこでも変わらんだろうし。


手ごろなところのドアを開け、そしてすぐさま閉めた。


「うん、この部屋はやめておこう」


そしてその隣の部屋のドアを開け、そしてまたすぐに閉めた。そんなことを何十回と繰り返した。


「なんで、独房みたいなんだよー!!」


「なんでって、たくさんの人が寝れるようにでしょ。それに個室があるだけましじゃない」


「そうかもしれんが、さすがに2畳の部屋にベッドが1つに四方がコンクリの壁とかどう考えても独房だろ。僕ら冒険者は、犯罪者かってんだよ!」


「それなら、やめれば?」


「いや、ほぼ一文なしのやつが泊まれるようなところはないだろうし、今は節約したいし、ここで我慢するよ」


「じゃあ、最初から文句なんて言わないでよ」


「まあ、不満はあるから」


そしてまたてきとうな部屋を開けて、中に入った。やっぱり独房にしか見えなかったが、布団と毛布があるだけましか。とりあえずログアウトすることにした。他の人がどんな振り方をしているか気になるし、パワーレベリングしてくれる人を探さないといけないし。決してすることがないからではない。


「というわけで、ログアウトする」


「そうですか。では、私もここら辺で退散しますね。チュートリアルはもう終わりましたし」


「そうですか。いろいろとありがとうございました」


「それじゃあね」


そして、それ以降声は聞こえてこなかった。最後くらい姿を見せてくれてもよかったのに。まあいいか。僕もログアウトしますか。


ログアウトしますか?

はい。












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