βテスト篇

第1話 チュートリアル 1

20X1年12月、バーチャルリアリティゲームが発表され、それから約一年後、20X3年1月、初のバーチャルリアリティゲームが発売された。


当然そこにはMMOというジャンルもあった。


しかし、発売されたVRMMOは序盤に詰むプレイヤーが多数いた。それは、リアルの運動能力を反映してしまうせいだ。リアルの運動能力でモンスターと渡り合える人はほとんどいない。


そのため、サポート機能を追加した。それで確かに序盤詰むプレイヤーは減った。しかし、そのせいで行動まで制限されてしまったのだ。


しかも、一度離れてしまった人はそう簡単には帰って来ない。それに開発された直後でゲーム性のそんなに良くなかったのも原因で結局あまり人を獲得できなかった。


さらに1年後、Matchless OnlineというVRMMOのβテストをするという告知があった。


このMatchless Onlineは、誰でも無双した状態から始められるVRMMOとして告知が始まった。それとリアルにかなり近付けてあるゲーム性で、かなり自由度も高いという謳い文句がつけられていた。


そして、βテスターを募集をすると、かなりの倍率になった。


倍率が高くなったのは、誰でも無双した状態からスタートできるという点もあった。


ではどうやって無双状態からスタートするのかだが、最初に10万の振り分けポイントというものが全プレイヤーに配られるのだ。その10万のポイントはステータスに振ることができ、その振り方によって、得られるスキルが変わるっていう一風変わった仕組みがあった。


それと最初に詰む可能性がないかもしれないという期待からであった。最初のVRMMOでは詰んでしまったから。


そういう理由で、倍率はかなり上がってしまったのだ。


しかし僕こと早乙女俊は、そのβテスターに選ばれたのだ!しかも100人しか選ばれない、ゲーム本体付きでだ。ほかにはデータだけ配られるのがあるのだが、こちらは900人だ。


そして今日は、βテストの開始日だ。僕はこの日が楽しみで楽しみで仕方なかった。ヘッドギアをするのも今回が初めてなのもある。


そして、早速ゲームを始めた。なんとも表現し辛い感覚でゲームは始まった。


目を閉じていたので目を開けると、そこは真っ白くなにもない空間だった。


そこで何もしないで惚けていると。


「Matchless Onlineへようこそ」


声のした方を向くとそこには、手のひらサイズの人?がいた。


「うあああああ!?」


「ちょっと、その反応はひどいんじゃないの?」


「いやいや、見たこともないサイズの人型の生物を見たら、普通は驚くでしょ!」


「人型の生物って、私は妖精よ。そして、あなたの案内役なのよ。感謝しなさいよね」


「いや、本人に感謝しなさいと言われて感謝する人は、いないと思いますよ?」


「これだから人間は嫌いなのよ」


なんというか、AIっぽくないと思った。だからと言って、異世界と繋がっているとも微塵も思ってはいなかった。


「まあ、いいわ。早速チュートリアルを始めるわ。まずは、名前からよ。そこに名前を入力して」


そう言うと、何もない空間からガラス板みたいなものが出てきた。


「うわ!急に出さないでくださいよ」


「あんたがいちいち反応し過ぎなのよ」


そんなことで、名前を入力することにしたがやり方がわからなかった。ただのガラス板で何も無かったのだ。


「あのー、これってどうやって操作するんですか?」


「はあ?そんなこともわかんないの?そのステータスボードに手をかざして、名前をイメージすればいいのよ」


言われた通りにやると、ステータスボード?に名前が浮かんできた。



Name 零



と。他にはまだ何もなかった。


「名前の入力は終わったわね。じゃあ、次に容姿を決めてもらうわ。とりあえず、リアルの容姿にしておいたから、そこから、手を加えなさい。要領はさっきと同じよ」


手をかざすと、目の前に鏡が出てきた。そして、鏡には僕が立っていた。当たり前だが。あまり変え過ぎたくないから、顔や身長はそのままで、髪や目の色、体型を変えることにした。


髪は少し長くして、髪の色と目の色をシルバーにして、少し太っていたから、余分な脂肪を落として、完成だ。


「あんまり変えないのね」


「まあ、変え過ぎて友人に何か言われるのがいやなので」


「ふーん、まあいいわ。それじゃあ、最後のポイントを振り分けてもらうわ。今までと同様にやって」


「ポイントって何に振り分ければいいんですか?」


「そんなことくらい自分で考えなさいよ」


「いや、そうじゃなくて、どんなことに振り分けられるんですか?」


「ああ、そういうこと。そういえば言ってなかったわね。えーっと、振り分けられるのは、ステータスと呼ばれるもので、HP、攻撃、防御、魔攻、魔防、俊敏よ」


「その6種類に10万のポイントを振り分ければいいんですね?」


「そういうことよ。じっくり考えなさいよ。まあ、変えることはできるから、そこまで真剣にならなくてもいいんだけど」


「ん?それって決定してゲームを始めても変えられるんですか?」


「ええ、変えられるわよ。ただし、死なないとダメだけど」


「えーっと、どういうことですか?」


「つまり、一度でも死んだら、その作ったキャラは消滅。そして新しく作り直さないといけないわけよ。まあ、決定するまでは、振ってはやめを繰り返すことはできるわよ」


「そこはリアルに再現しなくても……」


「そんなこと言われても知らないわよ。あ、それと振り分ける段階では、どんなスキルが得られるかはわからないから。一度決めてからゲームスタートしないといけないわよ」


まあ、そんなこと言われても考えてきた振り方をするだけだけどね。というか、気になっていた振り方という方が正しいけど。それに死ねばまたできるんだし、そんなに深刻に考えなくてもいいか。そして、考えてきた振り方をして、決定、っと。


「あんた、本当にその振り方でいいんだね?」


「?はい。どうせ、気に入らなかったら変えられるんでしょ?」


「まあそうだけど……。本人がいいならいいか」


「そうですよ。本人がいいって言ってるんですから、大丈夫ですよ」


「わかったわ。それじゃ改めて、Matchless Onlineへようこそ!」


そんな言葉と共に僕は浮遊感を感じた。気付くとそこは、草原だった。見渡す限りの緑であった。そんなことを思っていると。


「じゃあ、改めてよろしくね」


「え?ちょっ、なんでいんの?」


「なんでって、あなたの案内役って言ったでしょ?まだ案内は終わってないわよ」


「あ、そうだったんですね」


「そういうことよ。それじゃあ、まずはステータスの確認よ。ステータスオープンって言えば、あれが出現するわ」


「ステータスオープン」


そういうと、本当にあのガラス板が出現した。ちらっとだが見たら、名前だけではなくなっていた。


「お、本当に出現した」


そこにはこんなことが書かれていた。



Name 零

Level 1

HP 1

MP 1,000

攻撃 0

防御 0

魔攻 0

魔防 0

俊敏 10,000,000

スキル

鑑定、瞬歩、MP上昇(超絶大)、物理系ステータス上昇(絶大)、魔法系ステータス上昇(絶大)、攻撃系ステータス上昇(絶大)、防御系ステータス上昇(絶大)、俊敏ステータス上昇(超絶大)、空間魔法、不死



「?よくわからないのですが?」


「そうね。それじゃあ、どれが知りたい?」


「それでは、かっこ内の言葉について、お願いします」


「それは、そのまま上昇率を示しているわ。表記は下から、極小、小、中、大、極大、絶大、超絶大よ」


「それで、どれくらいの上昇率なんですか?」


「極小は1.1倍、小は1.5倍、中は2倍、大は3倍、極大は5倍、絶大は10倍、超絶大は100倍よ。他にはある?」


「それじゃあ、物理系とか魔法系とか、系のつくのってなんですか?」


「それはそのままで、物理系は攻撃、防御。魔法系は魔攻、魔防。攻撃系は攻撃、魔攻。防御系は防御、魔防よ。あ、ちなみに、重複発動はするからね」


(つ、つえぇぇぇ!?まじか!?不死とか、ステータス重複上昇とか完全に勝ち振りだわw。つまり、HPを除いた全ステータスが100倍w。ハンパねえ。でも、ステータスの0が気になるな。ま、いっか。どうせ上がるだろうし)


「あ、そういえば、こんなに呑気にしていていいんですか?モンスターに襲われたりとかしないんですか?」


「そのことは心配ないわ。まだ、襲われたりはしないから」


「ってことは、あとで襲われるってことですか?」


「ええ、街まで移動するからね。その道中で多分襲われるわよ。他に聞きたいことはない?」


「はい。あとは今のところありません」


「そう。なら、最後にこれらを渡すことなってるから」


そう言って渡されたのは、木剣と硬貨だった。


「今聞きたいことができました」


「お金のことなら、単位はゴールドで。1ゴールド=1円よ。それであなたに渡したのは1万ゴールドよ」


「え?そんなにくれるんですか?」


「ええ、そういう決まりになっているからね。というか、早く行きなさいよ。こんなにチュートリアルに時間かけたのあなたくらいよ?」


「うっ。なんというかすいません。それとありがとうございます」


「いえいえ、これも仕事ですから」


そして僕は、歩き出した。すると、妖精さんも一緒に移動し始めた。


「あのー、それでいつまでついてくるんですか?」


「ああ、そういえば、言ってなかったね。私は、あなたがギルドで登録するまでついて行くからよろしくね、って言ってもついて行くだけだから、気にしないでね」


そして今度こそ、僕たちは歩き出した。


歩き始めて、数歩でモンスターに襲われた。しかも背後からの奇襲だ。そこにいたのは、異世界定番のゴブリンだった。


平和ボケした日本人で、しかも武術とかスポーツとかしていない僕に迎え打つことなどできるはずもなく、攻撃を食らってしまった。しかし、ダメージは一切なかった。


しかし、そんなことを考えている余裕もなく、慌てて手持ちの木の剣を構え迎え打った。


ポヨヨン。


「へ?」


という音と共に剣が弾き返されてしまった。ダメージが入っているようには見えなかった。


(いやいや、ポヨヨンってなんだよ。確かに腹に脂肪が結構あるけど、納得いかん)


それから何度も打ち込むが一向にダメージが入っている様子はなかった。そして、あることに気がついた。まずは。


「おい、妖精。なんか、アドバイスとかはないんか?!」


「私はついて行くだけだし、戦闘はからっきしだから、無理よ」


「使えん奴め」


そして、もう一つ。


(ステータスの0は、そのままの意味なのか!?それなら逃げるしかないな!)


とりあえず、街の外壁らしきものは見えていたのでそこに向かって全速力で走ことにした。


ゴブリンは僕がひ弱すぎるため、何もしてこなかった。だから隙をつくのも簡単だった。


そして、外壁に向かって走り出そうとした瞬間、僕は気を失った。

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