第175話 1日の終わりに
ギルドにはいつもより、遅れて行った。ギルドに入ると、いつもよりも人が少ないように感じた。そのためか、クロエさんとはすぐに目が合った。目が合うとニッコリと微笑まれてしまった。
僕にはその微笑みが怖いと感じた。でも、ここまで来て引き返すわけには行かないので、僕はクロエさんの方に近づいて行った。
「零さん。もういつものことなので、特には言いません。それに、零さんにもやることはあると思うので、言い過ぎるのも良くないと思いましたので」
ギルドに入って、目が合った瞬間は怒られると思い、行くのを躊躇ったが、そんなことはなくて安心した。なんだかもう諦められているような気がしたが、僕は気にならなかった。
「ほんと、いつもすいません」
「それはついてはもう気にしないことにしてるので、謝らないでください」
そんな感じに軽く話した後、ポーションを売るため、いつもように移動した。
移動した先でクロエさんが話を振ってきた。
「そう言えば、今日は何があったんですか?ギルドに来るのを忘れるということはそれだけ大事なことだった、ってことですよね?」
クロエさんは根に持っているような言い方で聞いてきた。
「それは、その、前に新しく人を雇う言っていたじゃないですか」
「ええ、そうですね」
「それで、今日、どんな人なのか会っていたんですよ」
「そうなんですか。それで良い人が見つかったんですか?」
「はい、大丈夫だと思います」
僕は、あすかさんのことを思い出し、そんな曖昧な答え方をした。あすかさんとは、あまり話していないため、まだどんな人かは完全にはわかっていなかった。
たぶん良い人ということだけがわかっていたので、曖昧な答えになってしまっていた。
「なんか、不安になるような答え方ですけど、本当に大丈夫なんですか?どんな人なんですか?」
「はい、大丈夫ですよ。どんな人って、そうですね。一言で言うと、スラムの方ですね」
「それって本当に大丈夫なんですか?」
クロエさんは不安そうにそう聞いてきた。
「はい、そうですけど、何かだめでした?」
僕は、またあずさたちに言われたように、スラムの人は雇わない方が良いと言われると思った。ただ、それを聞いたところで今更ではある。何を言われようと、雇うのをやめることはない。
「その、だめではないですよ。むしろ私たちとしてはありがたいくらいですよ」
「え?どういうことですか?」
僕は、予想外な回答に聞き返してしまった。まさか、雇ってお礼を言われるとは思いもしなかった。
「それはですね。やっぱり、スラムって聞いただけで嫌がる人が多いですからね。スラムの人に仕事を与えてもらえるのは、ありがたいことです」
「ギルドって、そういうことまでやってるんですね」
僕は驚いた。ギルドがそんなことまでやっているとは思っていなかったからだ。
「そうですね、いろんな依頼が来ますからね。さまざまな依頼を斡旋していると、自然とスラムの人への斡旋もやるようになっていたんですよ」
「なるほど」
「それより、その人は本当に大丈夫なんですか?」
「はい、大丈夫なはずですよ?スラムの人の斡旋をしている割には心配するんですね」
「それはそうですよ。スラムの人だって全員が良い人ではないですからね。最近では真面目な人が増えましたけど、前まではいろんな問題を起こしていましたからね」
「まあ、僕の方は大丈夫ですよ。一応、その雇った人は、あずさのお母さんらしいですし」
「え?ほんと?」
「ん?どうかしたんですか?」
なぜかクロエさんは、僕があずさのお母さんと言うと反応していた。それが気になり、僕は、聞き返した。
「あずさのお母さんって、あすかよね?」
「ええ、そうですが、知っていたのですか?」
「何度か、仕事を斡旋したからね。でも、私が勧めるのは、やってくれなくてね。自分で仕事を探してくるんだけど、どれも賃金は良いんだけど、キツイものばかりでね、心配してたのよ。本人は大丈夫って言ってるけど。でも、零さんのところなら安心かな」
「ははっ」
僕は、乾いた笑いしか出なかった。僕のところもきつくないわけじゃないからね。むしろ、普通のところよりも大変かもしれない。
意外なところのつながりを知って驚いたが、それよりもあすかさんに無理だけはさせないようにしないといけないと思った。まあ、あずさも同様に無理をさせたらだめだけど。
それからは、いつものような雑談をしながら、ポーションを売った後、店に帰った。
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