第174話 増員 15

あすかさんは、用意があるとのことで帰った後、僕はあずさに謝られていた。


「ごめんなさい!」


「え?いきなりどうした?」


なんで、あずさが謝るのか僕にはわからなかった。


「私のせいで零さんに迷惑をかけてしまったので」


それで、たぶんあすかさんのことを言っているのだということがわかった。


でもあれは、迷惑というより、僕にも悪いところはあったのだから、あずさが気にすることではない。


「別に迷惑なんかじゃなかったよ。それに、僕も悪かったところもあるし」


「そんな、零さんは悪くありません!私がもっと立場をわきまえて話していれば、迷惑をかけなかったはずですから」


そこで、あすかさんのことではあるが、僕の思っていたこととは違うことがわかった。僕があすかさんに怒られたことをあずさが気にしていると思っていたが、あずさは自分の言葉使いのことを気にしているようだった。


「あー、そのことだけど、今まで通りで良いよ」


あすかさんにはあんな風に言われたが、今更言葉使いを変えられてしまうと僕の方が戸惑ってしまう。


「そんなわけにはいきません!やっぱり、雇い主と雇われている身として、立場をわきまえないといけないと思うのです!」


これから今までのようにあずさと話せなくなると思うと寂しくなるなと感じた。やっぱりあずさとは今までのように話したいと思う。


「そうだよな。こんな雇い主の指示なんて聞きたくないよな」


そこまで気にしているわけではないが、あすかさんを優先させられてしまうのは少しだけ負けたような気がして、そんなことを言ってしまった。


「いや、そんなつもりで言ったわけではありませんよ?!」


僕は、あずさの言い方で、すぐには変えられないのではと思った。


「そこまで否定しなくても良いのよ?わかってるから」


「何もわかってないじゃないですかぁ!」


「大丈夫。僕はわかってるから」


「なんで私が諭されているみたいになってるんですか?!」


僕はあずさがすぐに態度を変えるはできないなと思い、少しだけ安心した。


「僕が諭してるからだよ?あずさ、無理はよくないよ?」


「無理なんてしてませんから!」


そこで僕は核心を突くようなことを言った。


「そうか?自分の立場をわきまえるんじゃなかったのか?」


「え?……あっ!」


あずさは今の会話を思い出したらしい。


「無理なら、別に良いんだよ?僕は気にしないから」


「む、無理なんてしてませんよ!大丈夫ですから!」


あずさはどうしても立場をわきまえたいらしい。


「できないなら、無理にしないでね?僕は今まで通りのあずさが良いから」


「うっ、なんでそんなこと言うんですか」


「なんでって、それが僕の本音だから?」


僕は嘘偽りなく、素直にそう答えた。


「わ、わかりましたよ!零さんがそこまで言うなら、今まで通りに話します!」


「ほんと?!」


「本当です!ですが!やっぱり、今まで通りは良くないと思うので、気をつけて話すことにします」


「無理しなくても良いのに」


僕は少しからかいの意味も込めてそんなことを言った。


「無理なんてしませんから、大丈夫です!」


やっぱりすぐには無理なんだなと思い、僕は満足した。


「それじゃあ、僕もやらなきゃいけないことを思い出したから、少し出かけてくる」


僕は、今日、ギルドに行ってないことを思い出し、ギルドに行くことにしたのだ。まあ、そのことを考えると、気が重くなるんだけどね。


「わかりました。気をつけて行ってきて下さいね」


僕はあずさに見送られて店を後にした。






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