第171話 増員 12

あずさが怒りながら、話を進めることが決まった。


「それじゃあ、2人ともこれからについて話しますよ」


「「は、はい」」


僕とあすかさんは完全にあずさの言うことに逆らうことができなかった。


「それでは、まずは——」


「そ、そのことなのですが」


「なんですか?」


僕は、あずさに対して言わなければならないことがあったので、言うことにした。ただ、あずさの語調が少しだけ怖いと感じた。


「え、えーとですね」


「だから、それをはっきりと言ってください」


「す、すいません」


「謝るくらいなら、早く言ってください」


なんというかあずさが不機嫌なのが、わかるので、これ以上ひどくならないように言葉を選んで話そうとしたが、それが逆にダメだった。というか、なんでここまで不機嫌なのかもわからなかった。おそらくお母さん関係なんだろうけど。


「ええ、それはですね。とりあえず、あすかさんを雇うことは決めました。あすかさんがよろしければですけど」


「え?そんなに簡単に決めて良いんですか?」


僕がほとんど初対面の人を雇うことを決めて、あずさが当然の疑問を投げかけてきた。


「はい。元々雇うつもりでしたし、余程態度などが酷くなければ問題ないと思ってましたから」


僕は、元々あずさに会ってから決めてみたいなことを言われたため、会うことにしたのだ。だから、悪人までいかなくても、礼儀がなってない人でなければ、ほとんど気にしていなかったからだ。あすかさんは、かなり礼儀正しいし、問題はないと思った。まあ、あずさに言い返せないところはなんとかしてほしいところではある。


「え?さすがにテキトー過ぎません?」


「そうかな?僕は、結構考えているつもりだし、問題はないと思いましたけど」


「数分しか経ってないのに、考えているとは思えませんけど」


あずさに当たり前のことを言われてしまった。


「なんで、そこまで気にするの?もしかしてあすかさんはダメなところでもあるの?」


あずさがなんでそこまで心配しているのかがわからなかった。僕はあずさが、あすかさんにはダメなところがあると言っているような気がした。


「そ、そんなことはありません」


「それなら、問題ないんじゃ」


「……」


僕がそういうと、あずさは黙ってしまった。


「あずさ」


今まで黙っていた、あすかさんが口を開いた。


「何?」


「黙って聞いていましたが、その態度は何ですか?」


「え?」


僕は、さっきまでのあすかさんの印象とはまるで違う印象を受け、すぐに理解することができなかった。


「そ、それは」


心なしか、あずさもさっきまでの勢いはなくなっていた。


「あずさ、確かに強く言いたくなるとは思いますけど、仮にも零さんは雇い主なのですから、そんな態度を取ってはダメでしょ?」


なんか、僕もダメだしされたような気がした。


「はい……」


「いや、あの、別に僕は気にしてませんよ?」


「零さん、仮にもあなたは雇い主なのですから、気にしてませんじゃダメなのです。そのことはちゃんと線引きをして、厳しく接していかなければならないのです。全て厳しくする必要はありません。必要に応じて、厳しくすれば良いのです。ダメなことはダメと言い、良いことは良いと言えば良いのです」


「は、はい」


なんか、あすかさんに対して似ていると感じていたが、それは勘違いだったようだ。


「わ、私が偉そうに色々言ってしまい、すいません」


しかし、自分の態度に思うことがあったのか、すぐに今までのような態度に戻っていた。


一つの心配事はなくなったが、今度は違う心配事ができてしまった。









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