第170話 増員 11
「えぇぇぇ!?」
僕はあまりの驚きに叫んでしまった。
だってあずさは、12歳だよ?母親なら、どんなに若くても30代前半のはず。それなのに、どこからどう見ても20代前半にしか見えなかったからだ。というか、母親を連れてきたことにも驚きだった。
「あの、やっぱりダメでしたか?」
「え?あ、いや、そんなことはないんだけど」
予想外過ぎて理解が追いつかなかった。そのため、まずは落ち着くことにした。そうしないとまともに会話ができないと思ったからだ。
「すーはー、すーはー」
僕は大きく深呼吸をして落ち着こうとした。
「あの、大丈夫ですか?」
「あ、はい、大丈夫ですよ」
「やっぱり、迷惑だったんじゃ……」
「そ、そんなことはありません!」
僕の態度で心配にさせてしまっていたようだった。僕はそれが申し訳なかった。でも、すぐに否定しようと焦ってしまい、言葉を詰まらせてしまった。
「それは、よかったです」
でもあずさのお母さんは、それを気にしている様子はなかったのでよかった。
「あ、申し遅れましたが、私はあすかと言います」
「丁寧にありがとうございます。ぼ——私は零と言います。よろしくお願いします」
家族以外の年上の人となんてまともに話したことがなかったため、ガチガチになっていた。しかもそれが、あずさのお母さんだと言う。緊張しないわけがない。
「こちらこそよろしくお願いします。あの、それで一つお聞きしたいことあるのですが、よろしいですか?」
「はい、何ですか?」
「うちの娘、あずさが失礼なことはしてないでしょうか?」
「お母さん?!——」
あずさが何か言おうとしていたが、それを気にしているだけの余裕は今の僕にはなかった。
「そ、そんなことはありません!むしろ私があずささんに対して辛い仕事をやらせてしまっているので、申し訳ないくらいです。ほんとうに申し訳ありません」
「いえ、謝らないでください!娘は前に比べれば、顔色も良くなりましたし、今日も楽しそうでした。だから謝られることなんてありません」
「そうかもしれませんが、辛いことをやらせてしまっていることは事実ですので、謝らせてください」
「いえ、そんなことは——」
「ですが——」
と、僕とあすかさんはお互いに相手を立てるために下手について話していた。
「2人ともいい加減にして!」
そんな僕たちの会話に耐えられなくなったあずさが、怒りをぶつけてきた。
「「…………」」
僕とあすかさんは、あずさの声に驚き、黙ってしまった。
「まず、零さん!」
「は、はい!」
僕は、急に呼ばれたことと、あずさの強い口調に押され、つい背筋を伸ばして返事をしてしまった。それだけ、この時のあずさに対して怖いと感じたのだ。
「零さんは雇い主なんですから、そこまで相手に対して気を使う必要はありません。もっと堂々としていてください。それと私への配慮もいりません!」
「は、はい…」
「そこから直してください!」
「は、はい!」
あずさは僕に対して落ち込んでいる暇など与えてはくれないようだった。
「それからお母さん!」
「は、はい」
「いろいろと喋りすぎ!そこまで詳しく言わないで!」
「はい、ごめんなさい」
なんか、あすかさんの様子を見るに僕と通じるものを感じた。最初に感じたものなんだったのか、わからなくなるくらい、あすかさんの印象が変わった。なんとなく接しやすそうな、そんな感じがした。
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