第167話 増員 8

僕は、時間が来るまでポーションを作っていた。その間もあずさは掃除などをしていた。何もできない僕は、邪魔しないようにすることしかできなかった。


ただ、こうしてあずさの仕事をしている姿を見ることはあまりなかったので、それを見れるのは新鮮だった。


あずさは、掃除を終えたらしく、道具を片付けた。


僕は、掃除はできないが、他のことなら少しくらいはできることもあるかもしれないと、あずさからの指示を待っていたりしたのだが、あずさは、全てのことを1人でやってしまい、僕は結局何もすることなく、店が開店した。本当なら、自ら気づいてやるべきなのだろうが、何をするべきなのかわからず、動くことができなかった。それに、変なことをして、あずさの負担になるなら、何もしない方が良いとも思い、何もできなかった。


僕はそれが情けなく、反省するばかりだった。でも何をすれば良いかは、全くわからないままなので、次があれば、あずさに聞いて、何でも良いからやろうと決めた。


そんなことを考えているうちに、客が入ってき始めたため、僕は意識を切り替えた。


「いらっしゃいませ!」


あずさは慣れているのか、客が入ってきたこたにいち早く気づき、挨拶をした。


「い、いらっしゃいませ」


僕はあずさにつられて挨拶をした。しかし、普段から接客なんてしないため、声は小さいし、ぎこちなかった。それがまた情けなく感じ、僕は1人で落ち込んでいた。


そんな僕に対してあずさは慣れた様子で接客をしていた。僕は、店と居住スペースを区切っているドアの近くにいた。


あずさは、お客さんと雑談をしながら接客をしていた。僕はそれを見て、自分のやることなんて無いんじゃないか?と思ったし、自分の居場所も無いと感じた。


今日は、かなり落ち込まされていた。しかし、落ち込んでいる暇はなかった。


「——さん!零さん!」


「は、はい!なんでございましょうか!」


僕は、全然話を聞いていなかったため、急に呼ばれたことに驚いて変な言葉使いになってしまった。


「零さん、どうかしましたか?」


「え?いや、別に何もないけど?」


僕は、あずさが何か心配しているようだった。


「何もないなら、良いのですが。それより、お願いします」


「え?何を?」


あずさは何か欲しいようだったが、話を聞いていなかった僕は、何のことだが、わからなかった。


「零さん、聞いてなかったのですか?」


「ご、ごめんなさい!」


僕は、あずさに責められているような気がして、頭を下げて謝った。


「いや、零さんが謝るようなことではないので、頭をを上げて下さい。後、疲れているようなら、奥で休んでください」


僕は、あずさから休むように促されたが、こんなことで休むのは申し訳なかったから、その提案は断ることにした。まあ、もう一つ、客の視線が痛いというのもある。なんか、睨まれているように感じるのだ。そのため、休むなんて選択肢は無くなっていた。


「僕は、大丈夫だから、気にしないで」


「でも、集中できないなら、私1人でやりますよ」


なんか、遠回しに邪魔と言われているような気がした。


「次からは、そんなことないようにするから大丈夫!」


「わかりました。それじゃあ、ポーションを5本持ってきてください」


「はい」


僕はつい癖で、アイテムボックスから出してしまった。


「え?」


それを見ていた客は、驚いた顔をしていた。


「ん?」


僕は、なんでそんな顔をするのか最初わからなかったが、少し考えたら、理解することができた。そりゃあ、何もないところから、ポーションが出てくれば驚くよな。普段から、何も気にしないでやっていたため、そこに気づかなかった。


「お前、アイテムポーチなんて高価なもの持ってるのかよ。持ってるなら、あずさに渡せよ」


客は、小声でそんなことを言った。


なるほど、僕が持っていることがおかしかったのか。でもなんであずさに渡す必要があるのかは、わからなかった。それに、アイテムポーチじゃないから、渡したりすることはできない。しかし、それを言うことはできない。


これからは、こんな迂闊なことがないように気をつけることにした。


ポーションを受け取るとその客は帰っていった。


「それと、零さんこれもお願いします」


あずさはそう言い、僕にお金を渡してきた。僕はそれを受け取り、アイテムボックスに入れた。



それから、何人かの客が買い物をして帰ったところで、僕は、自分のやるべきことがわかった。それは、接客をしているあずさの邪魔にならないように、ポーションを渡したり、お金を預かったりすることだ。


ただ、さっきみたいなことがないように、僕は一旦奥に下がってから、そこでポーションを出してから持っていき、渡すようにした。


でも、このことで、これがかなりの重労働であることがわかった。かなりの人が来るし、ポーションを複数本持って運ぶのは大変だった。


今更ながら、こんなことをあずさがずっとやっていたと思うと申し訳ないというか、自分がもっと手伝うべきだったなと感じた。ほんと今更なのだが、人を増やすことは正解だったと思う。


僕たちは昼を過ぎるまでやり、そこでいつもあずさに渡しているポーションと同じ量を売ることができたので、今日はそこで店を閉めることにした。

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