第165話 増員 6

夜、僕はポーションを作りながら時間を潰し、店であずさが来ないか、監視していた。


来ないとは思っているが、万が一ということが考えられるから、監視することにしたのだ。何も無ければそれで問題はない。リアルの方でもやることはほとんど無いため、気兼ねなく、監視することができる。


僕は、暗い中ポーションを作り続けるだけの単純な作業をしていため、少しずつ眠くなってしまった。あずさが部屋に入ってからだいぶ時間が経ち、もう来ないと決めつけ油断していたのも原因だ。


僕は、何度か寝ては起きを繰り返しながらもポーションを作り続けていた。


ちょうど僕が寝た時、物音が聞こえ起きた。


「!?」


僕はいきなりのことで驚いて飛び起きた。


ただ、寝たり、起きたりを繰り返していたため、あまり頭が働いておらず、何をすれば良いかわからなかった。


飛び起きてから、少しずつ状況が飲み込めてくると、頭が冴えてきた。


僕はすぐに、物音がした方を見つめた。暗いため、よくわからなかった。それでも目が慣れてくると少しずつ見えるようになってきた。


見えるようになってくると、目の前に誰かがいるのがわかった。


「あずさか?」


「え?あ、はい」


あずさが戸惑っているのがわかった。


「あずさ、一応聞くが、こんな時間にどうした?」


「え?えーと、それは……」


あずさも僕がいることは、意外だったらしい。


「そ、それよりなんで零さんはここにいるんですか?早く休んだのではないのですか?」


僕が答えを待ってると、話題を変えられてしまった。


「僕は、あずさが勝手に行かないか不安だったから、一応ね」


「零さん!私のこと信用してなかったんですか?!ひどいです!」


「うん、信用してなかったよ?今、ここにあずさがいるのが何よりも証拠だと思うのだけど?」


「うぐっ、それは……」


「僕もあずさのことを疑いたくはないよ。だからここにいる理由を教えてくれないかな?」


「それは……そうです!」


あずさは何か閃いたのか、申し訳なさは無くなり、胸を張っていた。


「急に声が大きくなったが、どうした?」


「いえ、そのここに来たのは昼間にやり忘れたことがあったので、それをやってしまおうと思いまして」


「そうなのか?」


「はい!そうです」


「別に今じゃなくて、明日の朝でもいいんじゃないか?」


「そう言うわけにもいきません!今日のうちにやっておかなければいけないので」


「そうか、でも早く終わらせろよ」


「はい!それとこんな時間にごめんなさい」


あずさの言動から、嘘だということはわかった。でも、本当にそれをやりにきたかもしれないから、否定することもできなかった。


しかし、あずさは謝った後、その場から動かずにした。


「ん?あずさどうした?僕のことは気にせず、やることをやってくれ。1人で大変なようなら手伝うけど」


「え?ああ、そうでした!1人で大丈夫なんで、零さんは休んでください」


「いや、あずさ1人に任せるわけにはいかないから、僕も手伝うよ」


「でも」


「僕のことは気にしないで良いから、なんでも言ってくれ」


「いえ、ほんと私1人で大丈夫ですので」


あずさは譲る気は無いらしく、僕の手伝いはいらないらしい。でもあずさのことを放っておくこともできなかった。


「そうか」


「はい、私のことに気にしないでゆっくり休んでください」


僕は、あずさにそう言われたので、すみの方に行き、ポーションを作り始めた。


「あの、零さん?」


「ん?どうした?僕のことは気にしないで良いよ」


「いえ、その、休まないんですか?」


「ああ、今のうちにポーションを作っておきたくてな。まあ、あずさが終わる頃には終わると思うし気にしないでくれ」


「ええぇ」


あずさは何か納得できないらしく、不満げにそう言った。


でも、何もしないわけにはいかないのか、明かりを点け、何かを始めた。何をしているかはよくわからないが、掃除をしているようだった。


それから、しばらくして、あずさは終わったらしく、僕に声をかけてきた。


「零さん、終わりました」


「そうか」


僕はそう言いながら、ポーションを作り続けていた。


「零さんはまだ終わらないんですか?」


「ああ、まだ当分終わりそうにないな」


「そう、ですか」


あずさはどこか残念そうにそう言った。


「それじゃあ、私は先に休みますね」


「ああ、おやすみ」


「はい、おやすみなさい」


あずさは、何かを諦めたように部屋へと戻って行った。


僕はその後、明かりを消し、再びあずさが来ないかの監視を兼ねてポーションを作り続けた。


それから、朝になるまであずさがくることはなく、僕は寝不足になってしまった。


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