第163話 増員 4

それからは、声をかけにくく、お互いに無言になってしまった。


でも、しばらくすると、あずさの顔の赤みも引いていったので、安心した。


「零さん」


「は、はい。何でしょう?」


急に話しかけられたので、少し話し方が変になってしまった。


「そのスラムの人を雇うということで良いですか?」


「え?あ、うん、それで良いよ。元々、あずさに決めてもらうつもりだったし。でも、一応、どんな人か確認してから、雇うことにするよ」


あずさに言われた通り何もしないで即採用みたいなことは良くないとわかったので、自分でどんな人かだけは知ろうと思い、そんなことを言った。


「はい、わかりました。それでは、明日の朝までには連れて来ますね」


「わかっ——ん?朝?」


「そうですが、朝はダメでしたか?」


「いや、そういうことじゃないけど」


僕はあずさの言葉に何かが引っかかっているように感じた。


「それなら、朝で大丈夫ですか?」


「いや、まあ、それは構わないけど。別に朝である必要はなくないか?」


「え?じゃあ、夜とかですか?」


僕はここでなんとなく、あずさの言いたいことがわかった。


「いや、そうじゃなくて、昼とかの方が良いと思うんだけど」


「何を言ってるのですか!そんなことをしたら、お店を休みにしなくてはいけないじゃないですか!」


ここで、僕はあずさの言葉になんで引っかかったのかがわかった。


「いや、雇うにもいろいろ準備が必要だから、1日くらい休みにした方が良いだろ」


「休みにするより、夜とか朝とかお店を開いていない時間に済ませてしまった方が良いに決まってます!」


「ああ、もう、わかったよ。それで、明日の朝に連れて来るんだな?」


僕はあずさの勢いに負け、あずさのやりたいようにやらせることにした。


「はい、連れて来ます!」


それで、僕は1つ気になっていることを聞くことにした。


「朝に連れて来るのは良いんだけど、具体的には、何時頃になるんだ?」


「うーん、そうですね。一応夜明け前くらいには連れて来れそうですね」


僕はあずさのその答えに気になることがあった。


「ん?それって、寝ないってことか?」


「うーん、そうですね。そういうことになります」


「却下だ!明日休みにするから、そのときに行ってこい!」


僕は、そのことを認めることはできなかった。


「休みにするなんてダメです!」


「なんで、そんなに働こうとするんだよ!少しくらいは休め!1日くらい休んだって、何も変わらないよ!」


「そんなことはありません!1日休むだけで困る人だっているんです!だから、休む事なんてできません!それに……」


「それに、なんだよ」


「それに、できないとは思われたくないんです。できることなら、やりたいんです」


僕は、その言葉を聞いて呆れるしかなかった。


「はあ、そこまで気負う必要はないよ」


「でも!」


僕はこれ以上言い争ってもあずさが折れることはないとわかった。だから、僕が折れることにした。


「わかったよ。休みにはしないよ」


「ほ、本当ですか!」


「ただし、あずさは休みだ」


「それじゃあ、何も変わってないじゃないですか!」


「ああ、だから、明日は僕がやっておく。その代わりにあずさを休みするんだよ」


「でも、零さんにこんな雑用なことをやってもらうわけには」


「別に気にする必要はないだろ。あずさが来る前は僕がやってたわけだし」


「そうですけど」


あずさはそれでも何か納得してないようだった。


「それなら、あずさが勝手に行かないように一緒にいて監視するからな」


「わかりました」


あずさはようやく納得してくれた。


あずさは熱心なのは良いけど、熱心すぎるのも考えものだと感じた。


それから、店を開ける時間になるまで僕は、あずさの手伝いをしていたが、足手まといにしかならず、逆にあずさに迷惑をかけてしまった。


店を開ける時間になると僕は逃げるように店を出て行き、ヨタと結たちに合流した。


それから、2人とクエストをいくつこなしながら、時間を潰していった。まあ、基本的に見守っているだけだけど。


それから、店に戻って一旦ログアウトした。

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