第162話 増員 3

「どんな人なんだ?」


僕はその人物がどんな人か気になっていたので、聞いてみた。


「えっと、1人は零さんもよく知る人です」


僕は、この言葉を聞いてなんとなく予想がついた。


「もしかして、クロエさん?」


「はい、そうです」


「却下だ」


僕は、すぐにその選択肢を除外した。


「やっぱり、そう、ですよね」


あずさもダメということはわかっていたらしい。


「まあ、良いとは思うけど、これ以上迷惑をかけるのもダメだしな。それにクロエさんは最終手段だからな。どうしようもなくなったときに頼むということで」


「わかりました」


別に頼めるば、引き受けてはくれるだろうけど、そんなに頼りすぎるのはやはり良くないと思うのだ。


「それで、もう1人はどんな人なんだ?」


「えーっと、その言いにくいことがあるんですけど」


「ん?別に気にすることはないだろ。言わないとわからないんだし」


「そうですよね。その人は、私と同じでスラムで生活しているんです」


「ふーん、そうなんだ。まあ、それなら、その人に頼もうかな」


「え?良いんですか?」


「うん、別に今更、スラムの人って理由で雇わないとかはないし」


僕は、スラムと聞いて納得していた。あずさは元々スラムに住んでいたらしいし、そこでの知り合いの方が多いんだろうなと思った。


「零さん、こういうことはあまり言いたくはないんですけど」


「それなら、言わなくてもいいよ?」


僕は、あずさが言いにくそうなことを言おうとしていたので、止めた。


「いえ、そんなわけにもいきません!これだけは言わせてもらいます!零さんは、もう少し常識を知ってください!」


「え?それなりはあると思うけど」


僕は、全くの常識知らずではないと思っている。良い事とか悪い事とかの判断くらいはしっかりとできているはずだし。なんでそんなことを言われるのかがわからなかった。


「全くありませんよ!」


「え?!それは心外だよ!」


「じゃあ、なんで即答でスラムの人を雇おうと思うんですか?!」


「なんでって、あずさの紹介だからかな」


僕は、素直にそう答えた。


「うっ」


あずさは、なぜか顔を赤くしていた。しかし、僕はそのことには気づかず、続けた。


「そもそもなんでスラムの人を雇うのはダメなんだよ」


「それは——」


あずさはそこで、一旦呼吸を落ち着かせていた。


「それは、スラムの人たちは、今日を生きるのにやっとなんです!だから、盗みをするなんて普通にやる人がほとんどなんです!だから雇いたがらないのが普通なんです!」


あずさはそう早口に言った。


「ああ、確かにそういうことは知らなかったな」


「そういうことを常識がないっていうのです!」


「確かにそうだな」


「そうでしょ。それならもう少し常識を知ってください。それで、よく考えてからにしてください」


僕は、あずさの主張を聞いて、あまり気にしなくても良いのでは?と思っていた。


「でも、結局別にスラムとかは気にしないかな」


「なんでですか?!私の話を聞いていたんですか?!」


「うん、聞いてたよ。でも、そういうことなら僕も気にしながら答えたつもりだよ」


「じゃあ、なんで即答できるんですか?!普通直接会ってどんな人物か確認とかしますよね?!」


「うん、確かにするけど。さっきも言ったけど、あずさの紹介だから即答するんだよ。あずさのことは信頼してるし」


「うぅぅぅ。そ、それじゃあ、私がそんなことをする人を紹介するつもりだったら、どうするんですか?!」


「あずさはそんな人を紹介するつもりだったのか?」


僕はちょっといじわるな質問で返した。


「そ、そんなことはありませんけど」


「だからだよ。僕はあずさがそんな人を紹介するはずがないと思っているから、即答できるだよ。僕だって、信頼できない人からスラムの人を紹介されたら、即答なんてしないよ」


「うぅぅぅ」


あずさは、呻き声をあげていた。僕は、そこで、あずさの方を見て驚いた。


「あずさ!顔が赤いけど、熱でもあるのか?!」


僕は無理をさせていることで、ついに体調を崩させてしまったのかと焦った。


「いえ、これはそういうのじゃないので大丈夫です」


「いや、でも」


「大丈夫ですから!」


「わ、わかったよ」


あずさが強い口調で言うので、僕はおとなしく引き下がった。それでも心配だった。









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