第160話 増員 1

僕は、結局人を新しく雇うことにした。見つからないかもしれないけど、そこは辛抱強く待つしかない。最悪、僕は夏休みに入ったから、僕がずっとログインをして、店を手伝えば良いと思った。


ただ、僕1人で勝手に決めて実行するのはだめだと思い、あずさにこのことを話すことにした。なんとなくあずさなら「私1人でできます」とかって言って雇うのを反対すると思ったから、聞いてみることにした。もし、反対されれば、説得すれば良いし。でも勝手実行して、反対されれば、面倒なことになると思ったからだ。


まあ、あずさが反対するとも思えなかったけど。


時間は朝だったため、あずさは、店の方で準備をしていた。


「あずさ、今、ちょっと良いか?」


「はい、大丈夫ですけど、何かありましたか?」


そう言うと、あずさは自分のしていたことを中断して、僕の話を聞けるようにこちらを振り返った。


「ちょっと大切な話があって」


「は、はい」


あずさは、なぜか緊張しているようだった。


僕は、人が増えることに不安でもあるのかなとあまり深く考えずに話を進めることにした。


「その、新しく人を雇おうと思うんだけど、どうかな?」


僕が、そう言うと、あずさは手に持っていたものを落とし、目に涙をためていた。


僕はなんで、あずさが泣き出したのか、全くわからなかった。


「え?ど、どうした?!」


僕は理由がわからず、慌てた。


僕の慌てように、あずさは自分が泣いていることに気づいたようだった。


「え?あっ、すいません」


あずさは、自分の落としたものを拾い、涙も拭っていた。


「私は、大丈夫ですから、話の続きをお願いします」


そう言うあずさは、どこか崩れてしまいそうに見えた。


「いや、全然大丈夫そうに見えないんだけど?!ほんとに何があったんだ?」


「この日が来ることは、わかっては、いたんですけど、こんなに早いと、心の準備ができなくて、申し訳ありません」


そう言うとあずさは、また目に涙をためていた。


なんか、妙に話が噛み合ってないように、僕は思えた。


「だから、どうしたんだよ」


そう言うと、あずさは黙ってしまった。


それから、何かを決意したようでこう言った。


「新しく人を、雇うってことは、私は、もういらないって、ことですよね?」


途切れながら、あずさはそう言った。


「へ?」


僕は、あずさの言っていることが理解できなかった。僕は、あずさをいらないとは思ってないから、なんでそんな結論になるのか、わからなかったのだ。


だけど、あずさが盛大な勘違いをしていることだけはわかった。


「いやいやいや、いらないとかないから!」


「じゃあ、どういうことですか」


「どういうことって、あずさが1人だと、いろいろ大変だと思って、もう1人雇って、2人でやってもらおうかなと思ったんだけど」


僕がそう言うとあずさは、顔を赤くすると、俯いてしまった。


「えーっと、あずさ、大丈夫?」


「大丈夫、です」


それから、なんとも言えない気まずい空気になって、2人とも黙ってしまった。



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