第147話 雇用 14
それから、僕は22時に再びログインした。
ログインしたときは、日が昇り始めた朝方だ。そのため、僕はすぐに店の方へ向かった。
店では、あずさがすでに来ていて、いつものように掃除をしていた。ありがたい気持ちもあり、申し訳ない気持ちもあり複雑であった。
「あずさ、おはよう」
僕は、あずさがこちらに気づく前に挨拶をした。
「え?あ、零さん。おはようございます。いつも早いですね」
「あずさほどじゃないよ。まあ、僕の方が早く来た方が良いと思うけどね」
「いえ、私が零さんより、遅く起きて来ることなんて、ありえ——1度だけですから」
あずさは、ありえませんと言いたかったのだろうが、先日すでに僕より遅いときがあったから、言い直したようだった。
「まあ、前から言ってるが無理だけはするなよ」
「はい、わかっています」
そのように言っているので、その言葉を今のところは信じているが、倒れたりでもしたら、信じなくなるだろう。まあ、そんなことにならないことを祈るばかりだ。
「そうか、わかっているなら良いんだ。僕はこれからギルドに行くが、後は任せたからな」
「はい!昨日までできたので、今日も大丈夫です!」
僕はそんな元気の良い返事を聞き、安心した。特に問題も見えなかったので、後のことは任せて、ギルドに向かった。まあ、今までも僕は何もしてないから、心配するようなことでもないんだけどね。
ギルドに着くと、ゲーム内では朝の時間帯だが、リアルでは夜なので朝方にしては少しだけ人が多くいた。
僕は、クロエさんに声をかけた。クロエさんも仕事があるようなので、少し待つことになるが、いつものことなので苦にはならない。それより、最近冒険者が増えたようで、忙しくなったと愚痴っていたので、僕の用事のために時間を割かせてしまうのは少しだけ申し訳ないと思う。
しばらくしてクロエさんが来た後、クロエさんの後を追って、いつもポーションを出している部屋へと向かった。
僕たちは、この部屋でいつも話をしながらポーションを売っているのだが、今日の話はあずさのことを話していた。
「そういえば、零さん、あの子の様子はどうですか?」
「どうですかとは?」
僕は、いきなりそんな話を振られ、質問の内容が理解できなかった。
「そうですね、仕事振りとかですかね。問題無くやってますか?」
「ああ、そうですね。今のところは問題はありません」
僕は、詳しく聞いて質問の内容は納得した。同時に理解できなかった自分が少し嫌になった。
「そうですか。それは良かったです」
「ただ、仕事に熱心過ぎて不安になりますね」
「不安、ですか?」
「はい、身体を壊すんじゃないかって心配になります。なんでそこまで無理をするのかよくわからないんですよね」
僕は、素直に心配していることと疑問に思っていることをクロエさんに伝えた。
「ああ、そうですね。でも無理をするのはどうすることもできませんね」
「なんでですか!」
僕は、クロエさん発言に少しイラっとしてしまい、声を荒げてしまった。
「まあ、あの子に限った話じゃないんですけど、スラムの人は生きることが正に命掛けなんです。なので、仕事を失うことが何よりも一大事なんですよ。だから見捨てられないために熱心になる人が多いんです。まあ、その反面、仕事先の売り上げを懐に入れる人もいますけど」
「そんな、見捨てるなんてしないのに」
「零さんがどう思っていてもあの子はそんな風には考えないでしょう。特に零さんの場合、かなり賃金が良いので、印象を良くして長く雇ってもらいたいというのがあるんでしょう」
「そんな難しく考えなくてもいいのに」
ますます、あずさを無理させているのが、心苦しくなった。
「じゃあ、零さんはあの子が全く働かなくなっても良いんですか?」
僕は、それを聞いて全く働かないあずさを想像してみた。
「確かに全く働かないのは嫌ですね」
「そうなった場合、解雇するでしょ?」
「確かにしますね」
「それを心配しているからこそ、熱心に働いているんだと思いますよ」
極端な例えかもしれないが、言いたいことはわかった。でも納得していない自分もいた。だからといって無理をして良い理由にはならないからだ。
その後、特に何事も無く進み、無事に売り終わり、店へと帰った。
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