第145話 雇用 12
日が昇り始めた頃、ようやくあずさが起きてきた。
僕のことに気づいたあずさは、すぐに謝ってきた。
「ごめんなさい!」
「ん?何か、あったのか?そんなことより、するべき挨拶があるだろ」
僕は、いつもように謝られたことと、朝にするべき挨拶をあずさがしなかったことに呆れていた。
「あ、おはようございます!」
あずさは、気づいたらしく、挨拶をしてきた。
「ああ、おはよう」
僕は、あずさが挨拶をしたことに満足して、ポーションを作る作業に戻った。
「じゃなくて!寝坊してしまいごめんなさい!」
「はあ、そんなことかよ。僕としてはこのくらいに起きてきてくれた方が嬉しいんだけど」
「そんなわけにはいきません!いろいろ良くしてもらっているのに、それに甘えるわけにはいきません!」
そんな感じでまったく引く気のないあずさに僕は、いい加減諦めることを考え始めた。テキトーに聞き流した方が良いような気がしてきたからだ。でも無理をさせるわけにもいかない。もし、身体を壊されたら、違う人を雇い直す必要がある。そうなっては、更に面倒だからだ。
「そうか。でも無理だけはするなよ?」
「はい!わかりました」
「そういえば、何で今日は遅かったんだ?昨日何かあったのか?ポーションはかなり売れたみたいだけど」
僕は、素直に気になったことを聞いてみた。
「はい!そうなんですよ!昨日、呼び込みをしたら、かなりの方が買ってくれたんです!」
あずさは、お客が来たことを褒めてほしいのか、ドヤ顔でそんなことを言ってきた。「すごいでしょ」って言葉が聞こえてきそうな感じだった。
「そうなのか、良かったな」
売れたことはわかっていたので、あまり驚くことはなかった。でも、あずさは僕のこんな反応に少し不満を持ったようだった。
「零さん、もう少し褒めてくれてもいいんですよ?」
「それなら、まず僕に怒られるようなことをしないことだな」
「うぅ、ごめんなさい」
やっぱり、そこを責められると弱いらしく、さっきまでの威勢はなくなっていた。
「まあ、確かにすごいよ。よくがんばったな」
「えへへ」
僕が褒めると、あずさは嬉しそうな表情をした。
「それは、そうと、売れたことが原因で寝坊したのか?」
「う、はい。そんなところです」
「それって疲れたからか?」
「あ、はい。それもありますが、お店を閉める時間が遅くなってしまったことで、片付けが終わったのがいつもよりも遅かったからです」
「売ったのはすごいけど、それで寝坊するんじゃ、意味がないな」
「うぅ…」
このことには言い返せないのか、そのまま黙ってしまった。
「それなら、ポーションの量減らすか?」
僕は、あずさの負担が減ればと思い、そんな提案をした。
「それはしないでください!昨日は呼び込みに時間がかかってしまっただけなので、今日は、昨日より早く全部売り切れると思います」
「そうか、それならいいんだけど」
本人は大丈夫と言っているが、不安もあるので、こっそり減らしておこうと思った。
僕は、建前上は最後の勉強会へ行かなければならないので、後のことはあずさに任せ、ログアウトすることにした。ログアウトする前には少しだけポーションを減らしておくことも忘れない。
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