第143話 雇用 10

翌日の8月3日、僕はとりあえず朝にログインをしてみた。


ログインしたら、とりあえずあずさが使っている部屋を確認してみたが、やはりいなかった。僕は店の方を確認しに行った。


あずさはやはり店の中に居た。でも僕がいつもより来るのが遅かったからか、掃除は終わっているようで、違うことをしていた。


あずさは、僕が来たことにすぐに気がついたらしく、挨拶をしてきた。


「あ、零さん、おはようございます」


「うん、おはよう。それより、また無理してるな?」


「む、無理なんてしてません!」


図星だったのか、少しだけ言葉がつまっていた。


しかし、ここまで約束を守らないとなると、怒りを通り越して呆れてしまう。本当なら、まだ子供だから無理はさせたくないんだけど、本人が全然言うことを聞く気がないからもう諦めることにした。それなら、雇うなってことになるしな。


「はあ、もういいよ。好きにしてくれ」


「うぅ、ごめんなさい」


それでも、あずさは悪いとは思っているようだったので、本当に無理なことはしないと思うことにした。


「それより、何してるんだ?」


棚の近くで何かしていたので、気になったのだ。掃除道具なども持ってるようではなかったからだ。


「ああ、これはですね。模様替えをしています」


「模様替え?」


「はい、昨日、早速クロエさんに相談しに行ったら、模様替えをしてみては?と言われたので、あるものだけで模様替えをしてみようかと思いまして」


「模様替えが良い理由とかきいたのか?」


「はい、聞きました!確か、見た目が重要だって」


確かに、テキトーに棚を置き、そこにポーションを並べているだけだからな。見た目がいいなんて言えたものじゃないからな。


それに、見た目が良い方が客も入りたいって思うだろうしな。


「でも見た目が重要なら、内装よりも外装を良くした方が良いんじゃないのか?」


ふと、そんな当たり前のことを聞いてみた。


「あ……わ、私1人じゃ、外装を変えることなんてできないので、内装だけでもと思いまして」


絶対、今考えたであろう言い訳ではあるが、確かにその通りでもあった。


「確かにそうだな。それに外装を変えるのは大変だしな」


「そ、そういうことです!」


「そういえば、クロエさんに相談したなら、何か、良いアイデアでも聞けたのか?」


「いえ、やっぱり1番良い方法は、呼び込みだって言われました。後、貼り紙を使った宣伝って言われました」


「んー、まあ、僕は儲からなくても良いから、貼り紙まで出す必要はないかな」



僕は、これ以上あずさを呼び止めておくのも悪いと思い、話を打ち切り、ギルドに向かうことにした。今日は、ギルドに行くことを伝えても、「私が行きます!」とは言わなかった。昨日のことをちゃんと覚えているようで良かった。


ギルドでは、いつも通りポーションを売るだけで他には何もやらずに帰ってきた。まあ、クロエさんに小言をいろいろ言われたが、気にしないことにした。


ギルドから帰って来たが、あずさはまだ模様替えが終わってないようで、いろいろ並べ方などを試していた。やっぱり模様替えをするには物が少な過ぎると思い、お金を渡して、買うように言ったが、前にあげたのがほぼ全額残っているらしく、受け取ってもらえなかった。


でも、模様替えをするためにはやはり物が必要らしく、お金は使うと言っていたので、一応安心した。それでも、まだお金を使うことに抵抗があるらしい。


僕は、これからリアルで補習があるため、後のことは、全部あずさに任せて、ログアウトすることにした。

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