第142話 雇用 9
ギルドでいつも通り、ポーションを売り、僕は店に帰ってきた。少しギルドに来てなかったため、いつもより多めに売るはめになってしまった。そのため、店に帰って来る頃には、昼ごろになっていた。
店は、開いていた。しかし、やはりというか人はあまり来ていなかった。それもそのはずで、不定期に店を開いていたためだ。不定期に開いていた時だって、多くの人が来たわけじゃないからね。それにこの店を知っている人なんてほとんどいないだろうしな。
そんな、予想通りの結果だったが、店に入るとあずさが落ち込んでいた。
ドアが開いた音に反応したらしく、あずさは顔を上げ、期待のこもった視線をこちらに向けるが、入ってきたのが僕だとわかると、再び落ち込んでしまった。
「人を見て落ち込んだりするなよ。へこむだろ」
「あ、いえ、そんな入ってきたのが零さんだったことにがっかりなんてしてませんよ!」
「そう、なのか、入ってきたのが、僕だったのがそんなに嫌だったのか」
僕が目に見えて落ち込むとあずさが慌てて謝った。
「ごめんなさい!そんなつもりで言ったわけじゃないんです!お客さんじゃないことにガッカリしたんです!」
まったく慰めにもなっていなかった。そのため、僕はさらにへこんだ。
「そうだよな、こんな駄目な店長が帰ってきても意味ないよな」
僕がさらにへこんだことで、あずさは自分がさらに追い打ちをかけたことに気づき、再び謝った。
「ごめんなさい!零さんが帰ってきてくれたことは嬉しいのですが……」
その大事なところで今度は、口ごもったことで、僕はさらに落ち込んだ。
「あ、うん、僕は一旦休むね」
そう言って、僕は、店の奥の方に向かった。
しかし、その途中で呼び止められてしまった。
「零さん!待ってください!」
「ん?今度はなんだ?」
僕はさらに追い打ちかけられることをおそれ、警戒した。
あずさは何かを決意したような表情をしていた。
「ごめんなさい!」
「いや、別に僕は気にしてないから、謝らないでいいよ」
「そうじゃなくて、私のせいで全然ポーションが売れませんでした!」
「いや、それこそ気にすることじゃないから。売れないのは今に始まったことじゃないし」
「でも、今日は私のせいで何人ものお客さんが帰ってしまいました!」
その言葉を聞いてなんとなく、状況が理解できた。つまり、僕を勧誘しに来たプレイヤーが僕がいないことを知り帰ってしまった。それをあずさは、自分せいだと思い込んでしまい、それでなんとか売ろうとするが売れず、自分を責めてしまった、というところだろうか?
それって、結局僕が原因だよな。
「別にそんな客のことなんて気にすることじゃないからな(僕が原因だしな)」
「ですが!」
「それに買いたくないやつに無理に売っても駄目だろ?だから帰るようなやつのことなんて気にする必要なんてないんだよ。言っとくが、お前が来る前もこんな感じで人はあまり来てなかったからな」
「でも…」
まだ食い下がるあずさに僕も少しずつイライラしてきた。
「ああ、もう!気にするなって言ってんだ!それに最初からうまくいくやつなんてそう多くいないよ」
「…はい」
「はあ、そんなに気にするくらいなら、どうしたら、人が買ってくれるか考えろよ。まあ、僕が言えたことじゃないけどね」
そう言ったら、あずさは少しだけで元気になった。
「そう、ですよね。落ち込んでいても、何も変わりませんよね」
「そうだよ。失敗したら、どうすれば失敗しないのか考えればいいんだよ。いちいち落ち込むな。それに、僕は売れても売れなくてもどっちでもいいからな」
「あの、それでどうすればいいんですか?」
「僕に聞くなよ。僕は売れなくてもいいからそんなこと考えてもなかったよ」
「そうですか」
そんな答えにあずさはまた落ち込んでしまった。僕は、自分のせいで落ち込まれるのは嫌だったので、僕なりの考えを言った。
「でも、まあ、呼び込みとか、すればいいんじゃないかな?まずは人に知ってもらうことが大切だからな。まあ、わからなかったら、クロエさんとかにでも聞くといいと思うよ」
「ありがとうございます。でも、クロエさんに聞くのは迷惑じゃないですか?」
「いや、僕が迷惑をかけまくっているから、今更、その程度のことで迷惑なんて思わないと思うぞ?」
「零さん、それはどうかと思いますよ。ですが、聞いてみますね」
だいぶ前向きになったので、僕はもう大丈夫と思い、ログアウトすることにした。明日はまだ8月3日で補習があるからな。早めに寝ておきたい。
「おう、そうするといいぞ。それと、僕はそろそろ休むから」
「あ、ごめんなさい。あとは私だけでやっておきますね」
「ああ、頼む。でも無理だけはするなよ?」
「わ、わかってますよ」
まだ無理することはやめないらしい。不安だが、僕もリアルがあるので、ログアウトすることにした。
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