第141話 雇用 8
ログアウトした後、僕はリアルでやることをすべて済ませ終わるころには、21時を過ぎていた。
その後、僕はまたログインした。
ログインして、まず確認することは、あずさが何をしているかだ。前回のことを考えると何かしていてもおかしくない。
とりあえず、あずさが使っている部屋に行ったが、やはりあずさはいなかった。それから僕は1階の店の方に向かった。
1階に降りて行く途中で気づいたのだが、なぜか店の方が明るくなっていた。今は、午前の3時くらいだ。そのため暗いはずだ。それなのに明るくなっていた。
別に明りが売っていることは知っていた。しかし、僕が店を開けるのは基本的に日中だけだし、夜の時間帯はほとんどログインしていない。そのため、明りを必要としていなかったから、買ってないはずなのだ。
僕は、なんとなく誰がいるかはわかっていたが、慎重に店の中を確認した。
中ではあずさが頭にヒールストーンスライムを乗せながら掃除をしていた。
「あずさ」
僕ははそう短く声をかけた。
すると、あずさはびくっと体を強張らせながら、こちらを確認した。
「ぜ、零さん、おはよう、ございます」
怒られるとでも思っているのか、あずさは、そんなぎこちない挨拶をしてきた。
「はあ、まったくこんな朝早くから何をしてるんだよ」
「掃除、ですけど」
「そんなことは見ればわかるよ」
「うぅ、ごめんなさい」
「別に怒ってるわけじゃないし、掃除をしてくれることは本当に嬉しいが、こんな朝早くにやる必要はないんじゃないかな、と思っただけだ」
「それは、こんな良い待遇で私を雇ってくれた零さんに少しでも良い空間で過ごして欲しいって思って」
僕は、この言葉に感動してしまった。こんな小さな子がそんなことを考えて行動してるなんて、思いもしなかったからだ。普通なら、解雇されないようにとか考えていそうなところなのに。だからこそ、無理をさせたくないと思うのだ。
「そう思って行動してくれるのは嬉しい。けど、無理をして朝早くからやる必要はないんだ。日が昇ってきてからでも遅くはない。だから、もう少し休んでくれ」
「わかりました」
あずさは素直にそう答えてくれた。でも今までのことを考えると、素直に言うことを守ってくれるとも思えなかった。
「あ、それと、僕は日が出たらギルドにポーションを売りに行ってくるから留守番を頼むな」
「わかりました。あの、それくらいなら、私が行ってきますよ」
「いや、お前じゃ無理だよ」
「私だって、お使いくらいできますよ!そんな子ども扱いしないでください!」
僕のこの言葉が気に触ったのか、あずさはむくれてしまった。
「別に子ども扱いしてるわけじゃないけど」
「じゃあ、私が行ってきますね」
「いや、それは」
うまく言葉が見つからず、僕は口ごもってしまった。
「そんなに私が信用できませんか?!私がスラム出身だから、いろいろと管理したいんですか?!だから、勝手に掃除すらしちゃいけないんですか?!」
そんなに風に思われていたのか。僕は、単純に子どもがそこまで働く必要がないと思っているだけなんだけどな。それに、はっきりと言った方がいいなと思った。
「別に、そんなんじゃないよ」
「じゃあ、なんですか?!」
「あずさはさ、僕が1日に1万本のポーションを作れること忘れてるだろ?」
「それが——あ」
あずさは、何かに気づいたらしく、顔をうつむかせてしまった。
「僕は、その1万本以上のポーションを売りに行くんだよ。あずさは1万本のポーションを運べるのか?」
「勝手な勘違いで責めてごめんなさい」
あずさは、自分が勝手に勘違いをして僕に当たってしまったことに気づき、謝ってきた。
「わかってくれれば良いよ。それに、僕はあずさが心配なだけで、無理をさせたくないんだよ」
「そんなこれくらい働くのは、当たり前ですよ」
「僕からしたら、当たり前じゃないんだよ。だから、あまりやり過ぎないでくれ」
「わかりました」
あずさは渋々だが、わかってくれた。
僕はそれから、店を開けるための準備を始めた。仮の倉庫にポーションを補充したり、あずさとともに、店の中にポーションを並べたり、接客の仕方を確認したりして時間を潰した。
それが一通り終わるころには、日がだいぶ上がった後だった。
僕は、店の方をあずさに任せ、ギルドに向かった。
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