第140話 雇用 7
ログアウトした後は、急いで誠の家に向かった。2人とも僕が来た時は遊んでいたが、僕が来たことを知ると慌てて課題を進め始めた。
それから、2人の監視を午後5時までやり、この日の勉強会を終わらせ、僕はすぐに帰宅した。ただ、前日よりも時間が短かったこともあり、2人ともあまり進まなかった。
帰る際、1人でも課題を進めるようには言っているが、まともに守るとは思えない。一応言っているだけだ。
家に帰ってくると僕はすぐログインした。それは、あずさがおとなしく休んでいると思えなかったからだ。ポーションは置いてきてないから、店を開くってことはしないはずだ。
ログインした僕は、まずあずさが使っている部屋を確認した。ノックをしたが返事はなかった。もしかして、寝ているのかもと期待しながら、ドアを開け、部屋の中を確認した。しかし、部屋には誰もいなかった。
まあ、今は夕方だから寝るにしても早いからいないのは仕方ないと思った。
それから、2階1階を探し回ったが、見当たらなかった。
それと探している時に気づいたのだが、部屋がすべてきれいになっていたのだ。きれいにしてくれたことは素直に嬉しいと思うが、休めと言っておいたはずなのに、それを守らなかったことには怒りを感じる。まあ、1日あったから暇なのはわからないでもないが。それでも、やり過ぎだと感じた。見つけしだい、叱ることは決まった。
あずさは1階にも2階にもいなかった。後、いそうなのは外に出かけているか、地下室の方に行ったかだ。
そこで僕は、最悪の結果が見えた。もしあずさが地下室に行って、ヒールストーンスライムに襲われていたら、ということだ。
僕は慌てて地下室に向かった。そういえば、あずさに地下室には行くなと言うのを忘れていた。僕はそのことを恨んだ。
僕は地下室のドアを勢い良く開けた。
「あずさ!大丈夫か?!」
地下室の中を確認すると、あずさはいた。しかし、床に倒れており、ヒールストーンスライムがその上に覆い被さっていた。僕は急いであずさを助けるため、近寄ろうとした。
しかし、僕が近寄る前にあずさがむくりと起き上がった。
「零さん、そんなに慌ててどうかしましたか?」
「どうかしましたかって、お前は大丈夫なのか?!」
「?はい、私は元気ですよ」
僕は、それを聞いたら、急に足に力が入らなくなり、倒れ込んでしまった。そのことを心配したあずさがこちらに近づいてきた。
「零さんの方こそ大丈夫ですか?!」
「ああ、大丈夫だよ。お前が無事なのを知ってらホッとして力が抜けただけだ」
「さっきから、私のことを心配してくれてみたいですが、私も子供じゃありません。危ないことなんてしませんよ」
「それは分かっているんだが、そのスライムがかなり危ないんだよ」
「え?この子のことですか?全然危なくなかったですけど。まあ、スライムですし、一応モンスターですからね。私も最初見た時は、驚きましたけど、遊びたそうにしてましたから、一緒に遊んでいただけですよ」
「良かった。もし、攻撃でもしてたら、お前死んでたからな」
僕が言ったことが余程信じられなかったのか、あずさはすごく驚いていた。
「え?どういうことですか?全然、そんなことできるとは思えませんけど?」
「ああ、そのスライムは基本、人に対して友好的だけど、敵対すると人の生命力を奪って殺すらしいからね」
「へー、そうなんですか」
しかし、あずさは平然としていた。さっきは驚いていたのに、全然怖がっていなかった。
「あれ?怖くなったりしないの?」
「はい。だって攻撃しなければ、何もしないんでしょ?それに、この子が私にそんなことするはずありませんから」
どこからそんな自身が湧いて出てくるのかはわからなかった。
「ずいぶんと仲良くなったんだな」
「はい!それにこんなに可愛いスライムは初めて見ましたし」
僕は、あずさの身を心配していたため今まで忘れてたいたが、言うことを思い出した。
ちょうど、力も入るようになったので僕は立ち上がり、あずさに言った。
「あずさ、店の掃除をしてくれてありがとう」
「いえ、私が勝手にやったことなんでお礼なんて必要ないですよ」
「ああ、そうだな。なら、遠慮なく。お前、なんで休まずそんなことしてるんだ?」
ここで僕が怒っていることに気づいたあずさは、慌てて言い訳をし始めた。
「そ、それは、朝から何もしないは、その、暇だったので」
「ああ、確かに朝からは長かったな」
「そう思う——」
「じゃあ、なんで全部屋の掃除が終わってるんだ?」
「…ごめんなさい」
さすがにごまかせないと思ったのか、あずさは謝った。
謝られてしまっては強く言うことができなくなってしまった。
「まあ、反省してるようだから、これからはあまり無理はするなよ?」
僕はそう言うだけ叱るのをやめた。
「わかりました」
「あ、それと、お前にそのスライムの世話を頼みたいんだが、いいか?」
僕は、スライムを気に入っているあずさに世話を任せようと考えた。それに、スライムがいれば、あずさも安全だろうからな。ずっと地下室に閉じ込めておくのもかわいそうだったからちょうど良いと思ったのだ。
「え?私がしても良いんですか?」
「ああ、僕はあまり見てやれないからな。ずっと一緒に居られるあずさが良いと思ったんだ」
「それなら、ぜひやらせてください!」
そういうことで、スライムのことはあずさに任せることになった。
とりあえず今確認することは終わったので僕は、一旦ログアウトすることにした。
しかし、ログアウトする前に思い出したことがあったので、やっておくことにした。
「あずさ、ちょっといいか?」
「はい、何ですか?」
「とりあえず、あった方が良いと思うから渡しとく」
そう言って僕はあずさに金貨1枚(1万ゴールド)を渡した。
「ぜ、零さん?!これは何ですか?!」
「何って、金貨だけど?」
「それは見ればわかります!そうじゃなくて、何の為の金貨ですか?!」
「何の為、お金はあった方が便利だろ?」
「そうですが……」
そこであずさがなんでそんなことを聞いてくるかわかり、言葉が足りなかったことに気づいた。
「別にお前にあげるわけじゃないぞ?もし、不便なことがあったとき、そのお金を使えってことだ。それにスライムの世話もするんだしな。それに必要なものはその中から使ってくれ」
「そうだとしても、こんなあっても困ります」
「全くしょうがないな」
僕は仕方なく、金貨を回収して、今度は大銀貨を10枚渡した。
「あの、零さん?金額が変わってないんですが?」
「だって、金貨は使いにくいから、そんなこと言うんだろ?なら、大銀貨にすれば良いと思ったんだけど」
「私が言ったのはそう言うことじゃなくて、そんなにお金がなくてもやりくりすることくらいできます。大銀貨1枚もあれば全然問題ありません」
「でも、僕は次いつ来れるかわからないんだよ。もしかしたら、数日間留守にするかもしれないからな。そのときはどうするんだ?」
「うっ、そう言うことなら、わかりました。大銀貨10枚でお願いします。ですが、できるだけ使いませんからね」
さすがにこの言葉は反論できなかったようで、おとなしく大銀貨を10枚受け取ってくれた。
「わかったよ」
「それじゃあ、よろしくな。あ、もし、僕が来れなかったら、店は開かなくていいから」
僕はそう言い残し、ログアウトした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます