第137話 雇用 4

店でポーションを作りながら待っていたが、クロエさんが来たのは昼近い時間だった。


コンコンとドアをノックする音が聞こえたので、僕はドアを開けた。そこにはクロエさんと1人の幼女が立っていた。


「零さん、遅くなってごめんなさい」


「いえ、それはいいのですが、紹介する人ってそこの幼女ですか?」


「えーと、そうなんですが、やっぱりダメでしたか?」


「ダメってことは無いんですが、なんで幼女なのか聞いてもいいですか?」


「はい。実は零さんが帰った後すぐ、零さんの提示した条件で募集したところ、かなりの人から応募がありまして」


「その割には幼女1人しか居ないんですが?」


「ここからが大事なんです。その集まった人のほとんどが報酬に釣られた人で、信用できる人が少なかったんですよ」


「あの、信用できないって、見ただけでわかったりするものなんですか?」


僕は、素直に気になったことを聞いてみた。


「まあ、私は多くの人と関わることをしてるので、ある程度ですがわかりますよ」


「そうなんですね」


「はい。私も仕事を探してる信用できる方に声かけたのですが、報酬や待遇が良すぎる為、怪しいとか危ないとかで全部断られてしまったんです」


「なんか、すいません」


僕は、自分の出した報酬にそんな弊害があるとは思わなかった。何というかクロエさんに対して申し訳なくなってしまった。


「いえ、私も力になれず、すいません。昨日は紹介するって言ったのに」


「いえいえ、良いですよ!そちらの幼女はクロエさんが信用できる人なんですよね?」


「ええ、そうなんですか、見ての通り若すぎるのが問題でして」


僕は改めてその幼女を見てみた。見たところ、年齢はおそらく12歳くらいだ。髪は黒く長い、可愛らしい顔つきをしている。ただ、服装がみすぼらしく、体もところどころ汚れていて、髪はボサボサで清潔感はまるでなかった。


僕がじっと見ていた所為か、その幼女は俯いてしまった。


「うーん、まあ、僕も今はいち早く人手が欲しいので、この際、年のことは気にしないことにしますね。それに、僕も年齢までは制限してなかったので」


そう言うと、さっきまで俯いていた幼女は顔を上げ、信じられないといった顔をしていた。


「え?!雇うんですか?!」


何故かクロエさんは少し慌てているようだった。


「ええ、この際仕方ないですよ。まあ、違う人が見つかれば、その人を雇いますけど」


「あの、実はその子、スラムの子なんですよ」


「へえ、そんなんですか」


クロエさんがいつになく真剣な顔をするものだから、どんなことかと思えば、大したことなかった。


「って軽くないですか?!」


「いえ、僕からしたら大したことではないと思いまして」


「ですけど、スラムですよ?」


「そうかもしれませんが、クロエさんが連れて来てくれた人ですし。クロエさんの話を聞く限り、スラムとか年齢を除けば紹介できる人なんでしょ?」


「ええ、そうですね」


「それなら、構いませんよ。それに、僕がクロエさんにすべて丸投げしたのに、文句を言うのもおかしいと思うんですよ」


「ですが——」


「それに、今は時間がないんです!早く決めて、人手が欲しいんですよ!ということで、その子は雇うということで」


クロエさんが、多くの応募の中でこの幼女だけを選んだのだから、問題はないだろうと思った。


「そういうことなら。いいですか?」


「…はい」


クロエさんは渋々了承していた。しかし、クロエさんが連れて来たのに、クロエさん自身がそこまで拒否しなくても良いと思うのだ。それと、ここに来て初めてその幼女が話した。


「仕事を始めるのは明日からということでお願いしますね。それと、クロエさんに頼みたいことがあるんですがいいですか?」


「はい、いいですよ」


「それじゃあ、その子の身だしなみを整えてください。今のまま接客したら、客が居なくなりそうなので」


「具体的には、何をしましょうか?」


「体を洗ったり、服を買ったりですかね。できますか?」


「はい、それくらいなら問題ないですね」


「それじゃあ、これでお願いしますね」


そう言って僕はクロエさんに、10万ゴールドを渡した。


「これはなんですか?」


「何って、その子の身だしなみを整えるためとクロエさんへのお金ですが?もしかして少なかったですか?」


「だから、多すぎるんですよ!」


「多すぎるって言っても昨日から迷惑ばかりかけているので、その謝罪の気持ちを込めてなんですけど、ダメでしたか?」


「それにしても多すぎるんですよ!これくらいのことなら5000ゴールドで充分なんですよ!」


僕は、クロエさんに1万ゴールドを無理矢理渡した。それから、多すぎると言うクロエさんに用事があるから、明後日の朝また連れて来て欲しいと言い、帰ってもらい、僕はログアウトした。


翌日の8月2日、僕は午前中は補習に行き、午後は結と誠の課題の面倒を見ないといけないため、クロエさんには明後日と伝えたのだ。


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