第124話 問題 2

僕は、とりあえず地下室に行くためのドアの前まで来た。


ドアの前に来たのはいいが、中に入る勇気はなかった。スライムに襲われるかもしれないっていうことが本当に怖い。別に死ぬことが怖いじゃない。怖いのは、ヒールストーンスライムを外に出て、街の人やプレイヤーを襲うということだ。そのせいで指名手配などされたら、もうまともにプレイすることができなくなる。そうなるのは嫌だから、入るのを戸惑っているのだ。


地下室の中から音はしないから、ヒールストーンスライムが暴れているということはないはずだ。しかし、それは僕を油断させるための演技で、本当は僕が来るのをドアの前で待っているのでは?と考えてしまう。


まあ、スライムごときにそんな知能があるとは思えないから、暴れてないっていうのは当たっていると思う。いや、しかし——。


そんなことを考えていたら、いつまで経っても進まないと思い、考えることをやめた。もし、最悪な状態になっていたら、そのまま放置して、このゲームも辞めよう。


無責任と言われそうだが、もし、そうなったら、僕ごときがどうにかできるとは思えない。まあ、テレポートとかしてヒールストーンスライムを何処かに飛ばすことならできるとは思う。僕にはそれくらいしかできることは思いつかなかった。


こんな後のことばかりを考えているから、進まないんだと気づいた。そもそも、音がしてないんだから、僕に敵意を持っているわけがないんだよ。そうだよ、そうだよ。


僕は、そう思うことにした。これ以上は考えることは無駄だと判断したためだ。


そして、僕は意を決してドアを開けた。


僕の考えたようなことは起きなかった。というか、スライムが見当たらなかった。


不思議に思い、最後スライムをどうしていたかを思いだしていた。


僕が最後ヒールストーンスライムに触ったのは、確か水に浸けておき、そのまま……地下室を出て行ったきりだということを思い出した。つまり、今も水に浸かっているかもしれないということだ。


それに気づくと僕は、ヒールストーンスライムを浸けておいた容器に向かって行った。


このとき、僕は油断していた。そのため、心の準備ができてない状態で、容器の中を覗き込んでしまった。


「ひっ!?」


僕は、中を見てそのグロさに悲鳴をあげそうになってしまった。


容器の中は、ヒールストーンスライムのだったころの面影はなく、ただ、ドロッとした液体に変わっていた。それだけなら、こんなことにならなかったが、その液体が、気味悪く動いていたのだ。その光景を見たため、悲鳴を上げそうになったのだ。悲鳴を上げたら、それはそれで問題が起きそうだったから、何とか我慢した。


僕はとりあえずこの液体をどうするか考えた。


鑑定したところ、ヒールストーンスライムとなっていたため、何処かに捨てるわけにもいかない。かと言って、このままにしておくと僕の精神がゴリゴリと削られていくので、何とかしたいのだ。


もうあの光景を見たくないので、最初に見たことだけから判断すると、おそらくスライム水を通り越して、ヒールストーンスライムが水と同化してるだけだと思う。そんな状態だから、乾かせば元に戻るはずだ。


しかし、どう乾かせばいいのかがわからない。同化してるってことは、元に戻らないかもしれないわけで。ヘタに何かしたら、襲われるかもしれないし。


そう考えて、出た答えは自然乾燥に任せるというものだった。でも、自然に乾くのかは疑問である。もしこのまま元に戻らなければ……まあ、後で考えるとして、今は自然乾燥させるために容器から出そうと思う。このまま放置してもいいんだけど、空気に当たる面積が広い方が早く乾くと思ったから、容器から出そうと思ったのだ。


僕は、容器の中身を見ないように慎重にヒールストーンスライムを外に出した。その後もできるだけ見ないようにしていた。しかし、様子が気になりヒールストーンスライムを見たところ、スライムと同じような動きをしていた。


それ以上見ることができず、僕はすぐに地下室から出た。ヒールストーンスライムが襲ってくるということはなかったので、このまま放置しても大丈夫と判断したと、後付けで自分に言い聞かせて僕は地下室から離れた。




後日、地下室に行くと、ヒールストーンスライムは元の個体に戻っていた。その代わり、地下室の至る所には、ヒールストーンスライムの残骸と思われるものが残っていた。







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