第110話 準備 10

ゲーム内で翌日、僕はクロエさんのところに向かっていた。今日はポーションを売るのが目的ではなく、物件について聞こうと思っているのだ。


なぜ、ギルドに聞きに行くのか?


という疑問があるかもしれないが、僕はギルドと武器屋とポーション屋くらいしか知らないからだ。この中で物件について1番知ってそうなのは、ギルドだと思ったからだ。


そんな経緯があり、ギルドに来た。もちろん人の少ない時間帯を見計らってだ。人の多い時間帯に行くと、聞く余裕すらなくなる恐れがあるからだ。


ギルドに入ると、人は少なかった。しかし、その少ない人へ勧誘をしている人は少なからずいた。魔王討伐から数日は経っているが、まだ勧誘をする人はなかなか減らない。それだけメンバーが減ったグループがあるってことだろう。


僕は、そういう勧誘をすべて断りながらクロエさんのところへ向かった。しつこく勧誘をしてくるやつはいるが、数が少ないのであまり気にならない。


僕がクロエさんと話そうとするとそいつは身を引いてくれたのでありがたかった。これくらいの礼儀ってものは必要だよな。


僕がそんなことに感動していて、中々話し始めなかったため、クロエさんが不思議そうにしながら話しかけてきた。


「零さん?目の前に立ったままでどうしたんですか?」


「いえ、礼儀の知っている人がいることに感動していたもので」


「零さん、大げさじゃないですか?」


クロエさんは、残念な人を見るような目で僕を見ていた。


「だって、今まで今日みたいに引いてくれた人なんていないんですよ?!そりゃあ、感動もしますよ!」


「そ、そうですか。そう言えば、今日はまたポーションを売りに来てくれたんですか?」


「あ、いえ、今日は良い物件を知らない聞きに来たんですよ」


「物件、ですか?」


クロエさんはよくわからないといった感じだった。


「はい、そろそろ自分の店でも持った方がいいかな、と」


「え?それはダメですよ!」


「え?」


まさかの言葉に僕は、驚きを隠すことができなかった。クロエさんは僕が店を出すことに反対のようだった。


「あ、大声を出してしまい申し訳ございません」


クロエさんは急に大声を出したことについて謝った。


「いえ、それはいいのですが、なぜ反対なんですか?」


僕は、クロエさんが反対するなんて考えもしなかった。今日もわからないか、すんなり教えてもらえるとばかり考えていた。


「あ、いえ、別に反対しているわけじゃないんですよ。ただ……」


「ただ、どうしたんですか?」


「ただ、ポーションが売ってもらえなくなるのは、ギルドとしてイタイところですので」


「ああ、それなら、今まで通りギルドには売るようにしますよ。それに僕の店だけじゃ儲かるかわかりませんから」


「いや、そこまでしていただく必要は……」


「僕のことは気にしなくていいので」


「そう、ですか。ありがとうございます」


ここで僕はなんでここまで必死に物件を探しているのかわからなくなった。最初はあまり乗り気じゃなかったはずなのに、どうしてだろ?


しかし、物件の話になるとそんな話はどうでもよくなってきた。

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