第97話 異常事態 9

「零さん、なんで2日も来なかったんですか?」


ここで、リアルが忙しかった、なんて言えないから、違う言い訳を考えないといけない。


「い、いえ、あのですね。えーと、つまり、ポーションを作るのに手間取ってしまいましてね」


「そうですか、それじゃあ、今はちゃんとできているんですね?」


「そ、それはもちろんですよ!」


「なら、すぐ行きますよ」


そう言うとクロエさんは僕の手を掴み、強引に引っ張った。


「え?クロエさん!行くってどこにですか?!」


「どこって、これからポーションを配りに回るんですよ!零さんがもっと早く来ていれば、こちらで対応できたのに」


「え?つまり、僕に売れということですか?」


今の状況から、人の前に出るのは危険なのでは?と思いながら、そんなことを聞いた。


「大丈夫ですよ。配るのは私ですから。零さんは常に補給していてください」


「はい、わかりました。ですが、配るんですか?売るのではなくて?」


そこだけが、疑問だった。まあ、無料で配るのは別に構いませんし。それにこの原因の1つには僕も含まれていますから、しょうがないですから。それにお金はかなり余ってますから、別に無料で配ったところで、特に不利益になることはありません。ポーションの原材料は僕のMPですからね。


「それくらいしないとこの騒ぎは収まらないと思いますし。あと、零さんの身は私たちが守るので心配はいりません」


「わかりました。ですが、その程度のことで収まりますかね?」


そんなことでは、収まらないと思っているからそんなふうに聞いた。


「恐らくは、収まらないでしょう。ですが、少しは、抑えられると思います。中には便乗してるだけの人もいるでしょうから」


僕は、うまくいかないと思った。でもこれ以外に良い方法もないのも事実だ。まあ、全住民を殺すなどすれば、解決するのだろうけど、そんなことはしたくないから、この方法しかなくなるのだ。


それから連れて来られた場所は、少し広めの部屋みたいな場所だった。外からは、人の声が聞こえていた。しかも多くの人がいるのか、聞き取ることができなかった。


つまりここでは、まさに今暴動が起こっている場所ということだ。


そんなところに連れて来れられて、僕は今すぐにでも帰りたかった。身体的な苦痛はないが精神的な苦痛がひどいのだ。


そんなことを考えていると、クロエさんがこちらに近づいてきた。


「零さん、さっそくポーションを出してください」


僕はその言葉を聞いて、とりあえず前回、作っておいた劣化ポーションを取り出した。


「どのくらい出せばいいですか?」


「とりあえず1000本程出しておいてください」


そう言うとクロエさんはまた暴動の起こっている方に行ってしまった。言われた通り僕は、1000本の劣化ポーション出した待っていた。すると、ギルド職員と思われる人たちが次々にポーションを持っていって、あっという間にポーションがなくなってしまった。


僕は慌てて、ポーションを出していくが、全然ペースが間に合わない。それに、違うポーションを出しそうになり、気をつけているから、さらに遅くなってしまっている。



それから、数十分後には僕の用意した10万本の劣化ポーションがなくなっていた。


暴動の方は最初の頃に比べたら少しは収まっていた。


僕は外から怒号が聞こえる中、劣化ポーションがなくなったということで解放された。


でも帰り際、クロエさんがこんなことを言ってきた。


「明日もよろしくお願いしますね、零さん」


僕は悪魔の囁きにしか聞こえなかった。

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