第93話 異常事態 6

それから、どれくらいの時間が過ぎたのかはわからないが、この空気にも耐えることができなくなってきたころ、ようやくクロエさんが落ち着きを取り戻した。


しかし、クロエさんと目があったとき、笑顔だった。それはものすごく笑顔だった。その笑顔に僕は少し怖く感じた。


「零さん、それで今までなんでこなかったんですか?」


「えーと、いろいろありまして」


「具体的にはどんなことですか?」


「言わないといけませんか?」


「はい、私たちは零さんが来なかったせいで大変だったんですから、言ってください」


正直あまり言いたくない。というか、いろんなことがあり過ぎて来ることを忘れていたのだ。だから、忘れていたということを言いたくないのだ。


でも、このままだったら、いつまでも解放されないだろうから、観念して出来事だけを話すことにした。出来事だけでも十分だろうし。


「えーと、その、冒険者の方々に追われてまして」


「え?!零さん何かしたんですか?!」


「いや、何もしてませんよ!」


「じゃあ、なんで追われるような状況になるんですか?!」


「グループ勧誘を断り続けてたら、いつの間にか追われるようになったんです。どこに逃げてもすぐ居場所がバレて大変だったんだすよ」


「なら、どこかのグループに入れば、よかったんじゃないですか?」


「そんなこと言われましても、グループに入る気はないんで」


僕はきっぱりとそう答えた。


「確かにグループに入るかは、人それぞれですけど、グループに入っていた方が何かと便利ですよ?」


「それは理解してます。でも、それ以上に僕の場合、デメリットが大きいんですよ」


「はあ、これ以上何か言って無駄ですね。その他には何かしてたんですか?」


「はい、いろんなポーションを作って——」


「って、違ぁぁぁう!」


急な大声に僕は驚いた。


「いきなり大声なんか出してどうかしたんですか?」


「どうかしたって、こんなこと聞くよりも、まずポーションを売ってください!」


「こんなことって、クロエさんが聞いてきたんじゃないですか」


僕は、クロエさんの言ってることを撤回したことに呆れていた。


「だって、殺人したと思っていたので、忘れてたいたんですよ」


「いや、自業自得だと思いますけど」


「うっ。そもそも、零さんが来てればこんなことにはなってませんよ!」


「そんな責任転嫁されても」


僕は自分が悪いと思いながらも、自分からは悪いとは認めないように話していた。


「って、だからポーションを売ることについて話しましょうよ!」


「クロエさんがどんどん逸らしていってるんじゃないですか」


「わかりました!私が全部悪くていいので、早くしてください!」


僕は、このクロエさんの焦りを目の当たりにして、冒険者が思っている以上に今の状況が悪いことを理解した。


さすがにこれ以上は、申し訳ないし、早く問題も解決したいから、大人しく話し合うことにした。



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