第92話 異常事態 5

気がついた僕は、頭に柔らかい感触を感じた。その上滑らかな肌触りだった。


(はっ!もしかしてこれは、膝枕?!)


僕は期待しながら、目を開けた。


しかし、見えてきたのは、天井と視界の隅に見える壁だった。普通、膝枕をされると、視界には、体の一部が嫌でも映るはず。でもそれがないということは、膝枕ではないということ。


でも、僕はまだ諦められなかった。


(あれ?まだだ、まだ終わってない!……はっ!うしろか?!)


僕は仰向けのまま、うしろを向いた。しかし、見えたのはやはり壁だった。


僕の儚い期待は、これにて終わった。四方に何も映らないということは、そういうことだ。



「あ、零さん?」


「ん?はい、なんですか?」


突然、誰からか話しかけられて、僕は体を起こした。


目の前に居たのは、目を赤く腫らしたクロエさんだった。


「よかった。生きていてくれてよかった」


何か物騒なことが聞こえたような気がするのだが、気のせいだろうか?


「はい?まるで僕が死んだような言い振りですけど、僕は絶対に死にませんから」


「本当にそうですね。1時間も首を絞めていることに気付いたときは、血の気が引く思いでした」


「へ?」


僕はクロエさんが聞き取れないくらい小さい声をあげた。


まさに、やばかったらしい。で、でも、不死だから死ぬことはないだろうし。それに、復活の玉もあることだから、関係ないと言えば、そうなんだけどね。


でも、復活の玉ってどんなふうに発動するんだろ?死んだことがないからわからないんだよね。


というか僕って、窒息でも死なないんだな。これはいい情報だ。でも、あんなことには、もうなりたくないな。


「本当に無事でよかった」


そう言うと、クロエさんは泣き出してしまった。この場合は、また、と言うべきかもしれないが。


「って、なんで泣き出すんですか!」


「だって、私、もう少しで、人殺しに、なっていたんですよ?」


「そうかも、しれませんが——」


「それに、零さんには、死んで、ほしくないから」


その言葉に僕は答えることができなかった。今までいろんなことで、心配かけてきたから、尚更だ。


僕はしばらく声をかけることができなかった。ただ、謝ればいいと言う問題でもないからな。でも僕は、


「ごめんなさい」


と、答えることしかできなった。








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