第33話 討伐クエスト 2

「それで今日も薬草の採取ですか?」


「いや、今日はモンスターの討伐を——」


「それは認めません」


「え?なんで?」


「なんでって、あなた今、かなり重要な地位にいるんですよ。そんな人を身の危険が及ぶようなことをやらせると思うのですか?」


「そこまで重要なんですか?」


「はい、あなたのポーションがないと暴動を起こすと言っている人もいるくらいですから」


「え?それなら真似して作ったやつとかいないの?」


「はい。何人も挑戦していますが誰も成功していません」


「それなら、僕がこのポーションのレシピを——」


「それもダメです!」


「なんで」


「これはあなたの功績です。それを公表するのは技術者にとって一種の侮辱になるのですよ」


なんというか、いろんな理由をつけて討伐クエストには行かせてもらえないらしい。


「はあ、それなら勝手に行ってきますね」


「ちょっ、そんなこと許されると思っているのですか?」


「思っているも何も僕の勝手じゃないですか?そこまでギルドが縛っていいとは思いませんけど?」


「確かにそうですが」


「それならいいじゃないですか。それでは」


「ま、待ってください!」


「今度はなんですか?」


「いえ、そこまで言うなら、クエストを与えます」


「ほ、ほんとですか?!」


「ええ。勝手に強いモンスターと戦われるよりはマシですから」


「ではさっそくお願いします」


「はい、わかりました。ではまずはゴブリンの討伐クエストからです」


「まあ、最初なら当たり前だよな」


「と行きたいところなんですが、今ゴブリンで困っている人がいないためゴブリン討伐のクエストはありません」


「え?そこまでリアルにしますか。それよりなんでゴブリン討伐がないんですか?」


「それは少し前、と言っても1月くらい前なんですが、ゴブリン討伐のクエストを受ける人がおかしいくらい出てきてそのせいでゴブリン討伐のクエストは極端に減ってしまったのです」


「それって登録する人が増えたあたりの日のことですか?」


「はい、ちょうどそのあたりです」


「了解、理解しました」


まったく、プレイヤーたちもう少し自重しろよ。そんな全滅させなくてもいいだろうに。


「まあ、そんなことで、ランクの低いモンスターの討伐依頼はほとんどないのです」


「そうですか。それじゃあ僕の受けれる範囲では何かないんですか?Dランクまでのクエストで」


「えーと、あるにはあるのですが」


なんか歯切れが悪いな。おそらく危険だからとかなんとかなんだろうな。


「危険でも僕は大丈夫ですよ?」


「こっちが大丈夫じゃないんですよ!それに零さんが死んだらどうするんですか!」


「そんな僕は死にませんよ?」


「そうやって、油断してる人がほどあぶないんです!」


「いや、事実なんだけど」


「はいはい、そういう妄想は早死にさせますよ?」


「妄想じゃないのに。それで、そのあるクエストってなんですか?」


「はあ、だからさっきから危ないって——」


「大丈夫ですよ。僕も死にたくはないですから。危険だと思ったらやりませんよ」


まあ、危険なクエストなんて不死の僕からしたらないようなものですけど。


「それでもです」


「まあ、聞くくらいいいじゃないですか」


「はあ、まったくしつこいんですから。でもわかりました」


「お、ありがとうございます!」


「はあ、まったく。クエストはレッドタートルの討伐、Cランクです」


「え?いきなりCランクなんですか?」


「はい、もうこれ以上低いクエストは全てやり尽くされて、これ以上はもう難易度の高いクエストしか残ってないんですよ」


「プレイヤーぁ、まじ自重しろよ」


「それでは——」


「もちろん受けます!」


「受けるんですか、でも却下です」


「え?なんでですか!」


「なんで、さっきも言いましたよね?あなたは大事な人材なんです。そんな人を危険に晒すわけにはいかないから」


「それでも受けさてください!危なかったらすぐ逃げますから!」


「なんでそこまでやりたがるんですか?休む前はそんなことなかったのに」


なんか変なところまで探ってくるんだけど。そこまで大事なのかよ。僕のポーションが。


まあ、なくなるほど需要があるなら当たり前か。


「今ならなんでも倒せそうな気がするからです!」


「ほんと死ぬ人がよく言うセリフじゃないですか!そんな人にクエストなんて与えません!」


「えー、それなら、なくても行きますから」


そう言って僕は歩き出した。


「いいんですか、地図とかなくて」


「はい、探していればいつか見つかるだろうし、それに無理してクエストを取る必要なんてなかったんですから」


そう言いながら、僕は再び歩き出した。


「ちょっと!ほんと待ってください」


僕はその言葉を無視して更に歩く。


「わかりました!クエストを与えますから、止まってください!」


その言葉にほんとはニヤっとした。でもクロエさんの前ではそんなことはしない。


「そうですか。ありがとうございます。正直何日間も彷徨うのは嫌だったので」


「はあまったく、それで遭難されても面倒なのでもうクエストを与えますね」


まあ、遭難することなんてありませんけど。僕にはテレポートもあるわけですし。


「ですが、危険だと思ったらすぐに逃げてくださいね」


「はい、わかってますって」


「まったく本当にわかっているのですか?というか、零さんはもっと自分が重要な人だと理解してください」


「いや、あまり実感がなくて。でも善処はしますね」


「ほんとしてくださいよ」


そんな会話を最後に僕はギルドをあとにした。



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