*番外編*まっしろサプライズ!楓side

「ユーキちゃん!」

「ユーキさん!」


 右は雪兄さん、左は俺でサンド、からのスマイルアタック。

 ソファーでぐったりしてたユキさんは、雪兄さんをナデナデ、俺をバシッと叩いて、背もたれから起き上がる。


「今日のお献立は、チーズinハンバーグよ」

「わぁい!  じゃなくて!」

「ユキさん天才!  じゃなくて!」

「あん? お母ちゃんの手料理に、不満でもあんのか」

「ううん、ぼく幸ちゃんのハンバーグ大好きだよ!」

「俺も俺も! けどそうじゃなくてねユキさん!」

「なんだ、腹ペコ小僧どもが、夕飯の催促しに来たわけじゃないのか」

「違います~!」

「断じて違いますっ!」

「ちょ、寄るな! プレスされる!」


 グイーッと、腕でつっかえ棒されちゃう。

 でもこれで本題に入れるって、俺も雪兄さんもワクワクだ。


「幸ちゃん、今日って何の日か知ってる?」

「知ってるさ。あたしの命日だろ……」

「ユキさん死なないで!?」

「無茶言うなよ……もう疲れたんだよ……」

「ダメダメッ! ぼくより先に逝っちゃダメ!」

「やめてよふたりとも! 俺追いてかないで!!」

「……話が進まんな」


 バカを言う気力も底をついたのか、眉間を揉むユキさん。

 雪兄さん、次いで俺にチラッと視線を寄越し、「で?」と続きを促す。


「えっとですね、今の時期、世間では弥生と言われておりまして」

「明日で、ちょうど半月になるわけなんすよ」

「というわけで」

「じゃーん!」


 さぁ来たぞ、俺の大役!

 左手に隠し持っていたラッピング袋を、ユキさんの前に、ドーン!


「ホワイトデーのプレゼント。雪兄さんと俺から」

「……ちっさ」

「濃縮された愛情入りです!」

「トキメキによる血圧上昇に注意っす!」

「愛って塩分なのか?」


 首を傾げつつ、「まぁ……じゃ、ありがたく」って気恥ずかしげ。


「開けるね。……あ」


 赤いリボンをほどき、手のひらサイズの袋から、ころんと出てきたのは。


「猫?」

「そうでーす、黒猫ちゃんのキーカバーです。ぼくはね、白ウサちゃんなんだよ」

「俺は柴犬!」

「まさかのおそろですか」

「何かを特別にっていうより、みんなと一緒、ってのが好きでしょ? ユキさん」

「同じお家の鍵だもんねぇ。家族って感じがして、なんかほわほわぁってするよねぇ」


 家族。

 サラッと殺し文句を言っちゃう雪兄さんを、ホントに尊敬する。


「あんたらには敵わないわ」


 おもむろに両腕を伸ばすユキさん。

 口元を笑みでほころばせて、雪兄さんをナデナデする。

 そして俺も。……俺も?


「ユキさんが撫でてくれたっ!」

「気分がいいからね」

「うわぁ、キュン死にする!」

「そうか、実は楓の命日だったのか。南無阿弥陀仏」

「ヤベェ、極楽行けるじゃん!」

「ふふっ、疲れ取れたみたいだね、幸ちゃん」

「まぁ気も抜けきっちゃったしね」


 ……ユキさんが廃人になっていたわけ。

 その原因は、本日3月14日が、周辺大学入試の合格発表日でもあったことだ。

 合否は……ユキさんの表情で、すぐわかった。

 ただ、それまで張り詰めてた緊張の糸がプッツンして、ソファーに倒れ込んじゃったため、聞けずじまいだったけど……。


「で、ユキさんってどこの大学受験したの?」

「あれ? かえくん知らなかったんだっけ」

「え、兄さん知ってたわけ? 前に聞いたら、俺ガン無視されたよ!?」

「……あ、そうだそうだ、そういえば!」


 ポンッと雪兄さんは手を叩く。

 ちょ、兄さんわかったの?

 俺まったくわかんないんすけど!


「幸ちゃん、もう教えてあげたら?」

「ここまで来たらな。ヘイ」

「オ、オス……」


 クイッと指先で呼び出され、強張った返事になる。

 いそいそ居住まいを正せば、なんと、ユキさんが俺の右耳に唇を寄せてきて――


「………………は?」


 俺のマヌケ面に、ふふん、と微笑む。


「色々教えてね、楓センパイ?」


 頭ん中が真っ白になった後、ジワジワ湧き上がってくる感情がある。


「熱烈ハグオッケー?」

「ダ、ダメ! いくらかえくんでもそれは!」


 ぎゅううっ! て雪兄さんがユキさんを引き寄せるから、笑っちゃった。


「もうハグします!!」

「ふわぁっ!」

「おやまぁ」


 兄さんごと、ね!

 思ってもない、嬉しい嬉しい、サプライズだよ!

 先に仕掛けたのに、「お返し」ってイタズラっぽく舌を出されたから、もう限界。

 やっば、ニヤニヤ止まんない……。

 俺じゃあ到底反撃できっこないから、あとはお願いします!

 視線を交わした雪兄さんは、ユキさんの肩の向こうで、にっこり笑った。

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