第13話 肉食とベジタブル

 俺は残るグレイとやらと打ち合っていた。

 普段からマナと対戦して経験を積んでいるおかげか、なんとか相手の攻撃をしのぐことは出来ている。

 しかし、やはり相手もプロなだけあって、こちらも決定打を決められない。

 というのも、相手は短剣使いで、中々に動きが素早いのだ。

 おそらく盗賊か、暗殺者。シーフの職業か。


「はぁっ!」


 レーナを参考にした乱れ斬。全てを細切れにする勢いの斬撃は、我武者羅に不規則に相手を刻む。

 だが、乱れ斬は素早いステップで回避される。


「ならっ!」


 一度動きを止め、しっかりと地面を踏みしめる。

 相手の得物を打ち払い、即座に渾身の一撃を食らわす、羽々斗を参考にした斬撃。

 しかし俺の初撃は、男が打ち込んでこないことで空を切った。

 それどころか、そのタイミングでグレイは踏み込んできた。


「やばっ……」

「バックステップなさい!」


 アルトリカの声を聞くまでもなく、俺は即座にバックステップで短剣の刃から逃れる。

 アルトリカから教わっていなければ、今ので確実に死んでいた。

 内心は緊張しっぱなしだが、しかし体中はよく血が巡って熱く、身のこなしは不思議なほどに軽やかだ。


「お前、どういうつもりだ」


 と、唐突にグレイは問いかけてきた。


「何の話だよ」

「殺し合いの最中に、どうして笑ってんだ?」

「気を逸らされないで!」


 マナの声と同時、グレイは踏み込んでくる。

 そこまでは予測どおり、俺はグレイと同時に踏み込んだ。

 ここで決まる。

 マナから教わった踏み込み、そして刹那を奔らせる刃。

 すれ違う瞬間、刃と刃が交差した。

 俊敏な動きのグレイは俺の首を狙い、俺はグレイの胴を完全に切断するつもりで逆袈裟掛けに剣を振るう。


「なっ!?」


 しかし、グレイは器用に膝を曲げ、地面に膝を着いた状態で身を寝かせ、刃を回避した。とんでもなくしなやかな身のこなしで俺の斬撃を回避する奴を、素早く振り向き様に振るう。

 だがその動きは、眼前に迫る刃によって封じられた。


「ぐっ……」


 こちらの喉元にナイフの刃を突きつけるグレイ。

 とはいえ、こちらの剣の刃もまた、奴の前進をせき止めるように首元に刃があった。


「分かった。降参だ。俺の負けだ」

「えっ?」

「だいだい俺は頭脳労働派なんだよ。護衛がやられた時点で俺の負けさ」


 レーナが馬車を1台、羽々斗が1台制圧し、アルトリカがふてくされて馬と戯れている頃合だった。

 そしてついでに、グレイの背後からマナが剣を振り下ろす寸前でもあった。


「ったくひどい仕事をうけちまったもんだ」

「……えぇ」


 こうして俺の初めての対人での死闘は、引き分けと言う形に終わった。





 グレイ……灰色の髪と灰色の瞳の細身のおっさん。

 職業は元盗賊シーフ元殺し屋、元暗殺者アサシン。現職は盗賊団の頭領をしている。

 かつてはそこそこ騒乱の時代で、殺し屋や暗殺業は活躍したものの、いまや異世界からの使者という脅威の前に隣国同士での争いがなくなったため、こうした旅人を襲う盗賊を娯楽として楽しんで生活していたらしい。


「まあ一生遊べる金もあるし、殺しも飽きるくらいやった。あとは気ままに暮らすだけってわけだ。いわば余生の暇つぶしってやつだな」

「余生の暇つぶしで殺されたり奪われたりする人間の身にもなってみろ」

「んなこと考えてどうする。こんな世界で」


 こんな世界で。その響き、どこか懐かしく、忌まわしかった。


「俺は殺したり奪ったりする奴を、ひたすら殺したり、奪ってきた。この世界じゃ、全員がそうだ。この、クソッタレな世界ではな」


 この男は……いや、いい。今は今のままで良い。

 考えていると、レーナが捕縛されたグレイに片刃剣を向ける。


「それで、あんたは誰のさしがねなわけ?」

「レーナ、こいつはプロらしいし、そう簡単には……」

「サモハンだ。東の国の鷹の目部隊隊長、サモハン・ジムニル」

「プロフェッショナル!?」


 あっさりと依頼主を口にするグレイに、俺は驚いてしまった。


「プロフェッショナルは簡単に依頼主の名前を口にしないんじゃなかったのか?」

「敵に捕縛されて生殺与奪を握られてるんだぞ? これでまだ簡単だって言うやつは馬鹿だろ。馬鹿かお前」


 グレイによれば、どうやらサモハンに依頼されたのは、救世主一行からマナ・ソードベルを拉致する。それだけだった。


「女一人、拉致するだけで大金が得られる。こんなうまい仕事、裏があって当然だったなぁ」


 と暢気なグレイ。


「任務は失敗した。依頼主の名前は喋ったし、もう襲わない。そろそろ俺を解放してくれないか?」



 ということで、俺たちはグレイを解放してやった。

 ちなみに彼の盗賊団はすでに半分以上が死ぬか、逃げるかしたため自然消滅ならぬ自然解散状態だ。


「じゃあな救世主ご一行。孤児を助けるなら、山ほど敵を作ることを覚悟しておくんだな」


 そう言い残し、彼は仲間と共に三台の馬車を置いて去っていく。

 それを見届けた俺たちは、ふぅ、と一息つく。

 ふと羽々斗が提案した。


「昼食を取りましょう。この辺りなら周囲の警戒もしやすいですから」


 羽々斗の提案により、俺たちは昼食の用意をすることになった。


 俺とマナ、そしてレーナ、アルトリカが警戒を行い、羽々斗が炊事をする。


「あの」


 俺は躊躇い気味に、着々と道具を揃える羽々斗に問う。


「手伝おうか」

「……お願いしたい」


 この世界では、女性が炊事をする、などという固定観念に囚われるべきではない。

 恐らくマナは食堂で肉料理を食う専門だっただろうし、アルトリカもお嬢様だから料理などしないだろう。そしておそらくレーナも。

 というより、城の食堂が優秀すぎて自分で造る意味が無いのでは。


「待ってください」


 と、そこに待ったをかけたのはマナだった。


「わ、私だって料理くらい出来ます!」

「本当に? 食堂で新メニューを開発したからって、自分で調理したわけじゃないだろうし」

「長期偵察では自炊だってするんですよ! 本当ですってば!」


 というので、マナを調理役に加える。


「待ちなさいよ。私だって料理くらいできるわよ!」

「本当に? 自警団の活動と最強の刀剣使いを目指す修練のせいで自炊の時間も体力も残ってなかったんじゃ?」

「ふん、精々見ているがいいわ。この七日間の旅で、あなたのイメージひっくりかえしてやるから」


 意気込むレーナに仄かな期待を抱きつつ、俺は引き続き羽々斗の炊事を手伝う。


「あ、炊事は三人で結構です」

「じゃあ今日はマナが。レーナは明日な」

「ぐっ……いいわ。マナ、偵察部隊の調理力、見せてもらうわ」

「がんばります!」


 そして、マナは馬車の中から材料を漁り始めた。




 マナが意気込み馬車へと駆け込むのを見届けた私は、馬車の屋根の上へと昇り、周囲を警戒する。

 レーナ自警団は常に国内で事件が起きていないかを視察し、観察している。

 こういった見張り業務こそ、自警団の長である私に適しているのだ。


 のだが、あいにくと今はそこまで警戒しなくても良さそうだ。

 馬車や人が幾度となく往復するうちに草が生えなくなった道と、周囲はせいぜい雑草が細々と生えている程度。

 小高い雑木林どころか、モンスターや獣が隠れるような背の高い草むらすらない。


「むぅー……」


 穏やかな風、ぽかぽか陽気。このままでは時期に睡魔が襲ってくるだろう。

 何か睡魔を撃退する手段がないか考えていると、ふと横目についた日除けのパラソルと、白い机、椅子。

 

「やはりこういうときはカモミールに限りますわね」


 アルトリカだった。まるで自分の庭かのように、お茶を楽しんでいる。

 こいつを話し相手にするか。


「アルトリカ、あんたは料理作れないの?」

「ええ。作れませんわ」


 アルトリカは恥じる様子もなく言う。


「別に料理が出来ないくらいで、女性の価値が落ちるわけでもありませんもの」

「別に女性の価値はどうでもいいのよ。料理が作れない。そこに劣等感はないの?」

「得手不得手があるでしょう。料理は料理の得意なコックとかに任せますわ」


 なるほど、適材適所というわけだ。料理の腕など、アルトリカにとっては必要ないのだ。


「あんた、夢とか無いの?」

「夢?」

「何か成し遂げたいとか、誰にでもあるでしょ。そういうの」


 紅茶を啜る彼女は、押し黙ったまま俯き、顔を上げる。


「特にありませんわ」

「夢が無いなんて……何のために生きてるのよ」

「何のために? 生きることに理由が必要なんですの?」

「っ……」


 思わぬ問いに私は答えに詰まった。

 そこまで深い理由を込めて言ったわけではない。


「意外でしたわ。貴方みたいなのがそんな小難しいことを考えていたなんて」

「なによ、どういう意味よそれは」

「いえ、何のために生きているのか、だなんて。私は考えたことがありませんもの」

「……どうせ暇だし、聞かせてもらおうじゃない。あなたの価値観を」


 私は周囲に目を配る。やはりモンスターの類は居ないようだ。空も快晴。野鳥と飛行モンスターが戯れている程度だ。仲良しさんかな。


「なんてことはありませんわ。私はほら、見ての通りお金には困りませんわ。十分な教育を受け、剣の才にも恵まれた」

「なんて憎たらしい」

「私にとっては、生きるなどということは、そう大したことじゃありませんのよ。ただ気の向くままに、やりたいことをやればよい。私の我流剣術だって、言ってしまえばただの遊び、趣味ですもの」


 ふとアルトリカを見やる。私には彼女がどうにも嘘を言っているような気がした。

 確証は無い。表情だって相変わらず憎たらしい。

 ただ、それはどこか、。そう思った。


「じゃあ、マナを差別するのも?」

「ええ、趣味ですわ。孤児差別は貴族のたしなみ」

「救世主の護衛となったのも?」

「もちろん。断ろうと思えば断れましたわ」

「貴族のあり方に縛られてるのも?」


 アルトリカはこちらに振り向く。その表情に、人を見下すような余裕の笑みは無かった。


「どういう意味ですの?」

「そのままの意味よ。そのやたら華美な装飾の息苦しそうな服とか、マナを引き渡そうとした時の必死さとか。あんたは貴族というより、一生懸命に貴族の真似をしているみたいよ」

「どうしてそう思ったのかしら、教えてくださらない?」


 どうやら心当たりがあるらしい。

 あるいはそれに似たなにかしらを意識しているのか。


「そうね。あなたはさっきまでは完璧に貴族らしく見えたわ。マナを引き渡そうとするときまでは」

「もう少し詳細に教えていただけると助かりますわね」

「あんた、マナをでしょ。貴族なら普通、あんなことはしないわ」

「それは見当違いですわ。孤児に対して同情する貴族だっていないことはありません」

「でもあんたは差別が過激なほうでしょ? それなのに、あの時はやたらとマナを説得しようとした。つまり、マナを一人の人間としてみていた」


 あの国での孤児差別者はそんなことはしない。

 そもそもあいての人権を認めないからだ。

 説得などしない。邪魔な道具など切って捨てるように、マナも捨てられるはずだった。

 しかしアルトリカはマナを説得しようとした。

 マナの存在が彩人を不利にするということを押し付けるのではなく、納得させようとしたのだ。

 普通なら、「あなたは彩人にとって害を成す存在だから、さっさと引き渡されなさい」だ。


「でも貴方が言っていたのはこうよ。貴方は奴隷だから、彩人の害となる可能性があるから。現実として仕方ないことだから。理解わかってほしい」


 アルトリカは否定しない。ただ私の話を聞いている。


「私には、あなたがマナを一人の人間として扱っているように見えたわ。奴隷を相手にしているような接し方には見えなかったわね」


 彼女は何も答えられずにいた。

 まあ、別にアルトリカの生き方がどうであれ、私にはどうでもよいことだ。

 私は差別主義者ではないし、相手が孤児であろうと貴族であろうと、立ち塞がる者は切り伏せる。それだけだ。

 ふと芳しいスパイスの香りが漂ってくる。


「そろそろ出来るみたいね」





「出来ました!」


 マナが作った昼飯。彼女は丁寧にそれを盛り付けていく。

 どんぶりに炊き立ての白米を詰め込み、濃い目の味付けのツユの中で煮込まれた牛肉が、その上に盛り付けられる。

 それはなんということはない、牛丼であった。


「うまそう」


 純粋にそう思った。

 鼻腔をくすぐる醤油と砂糖の混じった香りは、否応なく食欲を掻き立てる。

 肉の旨味と、一緒に煮込まれた玉葱の甘味は非の打ち所がないほどに美味い。


「はっ! いつの間にか手が勝手に! いただきます!」


 濃い目のツユは白米と絡み合い、絶妙な味加減が飽きさせずに舌を悦ばせてくれる。


「ふふ、たんと召し上がってくださいね」

「ふむ……確かに、これは非常に美味です。食堂でマナさんが開発したというメニュー、気になります」

「帰ったらぜひ食べてみてください!」


 羽々斗も気に入ったようだ。

 続いて、遅れてきたアルトリカとレーナが食す。


「っ!? なにこれ! これなにっ!?」


 一口食べただけでレーナが過剰に反応する。


「えっ、うっそこれマナが作ったの?」

「は、はい」

「すごいすごい! 美味しいわこれ! 後で作り方教えてよ!」

「は、はいよろこんで!」


 そしてアルトリカは黙々と食べ続けている。

 それに気付いた俺たちは、全員それを黙って見ていた。

 どんぶり一杯食べ終えて、器を仮説テーブルの上に置いて、緑茶を飲み干す。


「……やりますわね。でもお野菜が少ないのではなくて?」

「やさい……あ、あはは」


 するとマナは明らかな苦笑で返した。

 俺は不意打ち気味に指摘してみた。


「もしかしてマナは野菜嫌いだったりしてな」


 とはいえ、この牛丼の中にも玉葱が入ってる。特別野菜嫌いというわけではないはずだ。

 そう思っていたのだが、マナはより複雑な表情で、作り笑いで応えていた。


「なるほど、マナは野菜が苦手か」

「ははは……はい、そうなんですよ。野菜はどうも苦手で」


 苦笑するマナに対し、最年少であるはずのレーナでさえ呆れた風だ。


「いい年して野菜が食べられないって……」

「火が通ってるのは食べれるんですよ!? でも生とか半生はシャキシャキしてて、あの感触がどうしても駄目なんです! あと苦いです」


 そういえば、食堂で食ったホイコーローも野菜によく火が通っていた気がする。身はしっかりしつつ、シャキシャキ感は見事にしっとり感へと変貌させていた。


「なるほどね。ごちそうさま」


 するとレーナはすくっと立ち上がり、マナを見下ろした。


「それじゃあ次は私の番ね。私が生野菜の美味しさを教えてあげるわ!」




 そして出発し、日が暮れて、今度は夕飯。レーナの番。


「確かに肉は美味しい。でも野菜にも甘味はあるわ!」


 取り出したるはにんじん、ピーマン、玉葱。そしてレタスやキャベツ、大根など。

 大根は刻まれ、にんじんは薄い板の様にカット。

 レタスは適当なサイズに千切り、キャベツは千切りし器の一番下に土台として盛る。

 玉葱は摩り下ろし、醤油や砂糖などの調味料を合わせ、更に煮込む。


「なるほど、ドレッシングか!」


 レーナの背後、俺は解説役のように佇んでいた。


「ドレッシングで濃厚な甘味を引き出すことで野菜へのイメージを払拭、更に野菜が持つ本来の味との調和で、苦味もうま味であることを思い知らせようというわけか!」


 そんなノリで多くの野菜料理を作り、ようやっと夕飯。


「さあ! 食べなさい!」


 大皿に乗ったフレッシュサラダ。そのほかにもポテトサラダ、マカロニサラダと多種多様なものから、里芋の煮っ転がしまで作ってのけた。

 アルトリカと共に、並べられた料理にただただ驚かされるほかなかった。


「レーナは料理人か何かになったほうがいいんじゃないかな」

「彩人、そこはお嫁さんとか言い方があると想いますわ」


 さて、肝心のマナはというと、並べられた野菜料理にただただ恐れ戦いていた。

 

「うぅ……これ、本当に食べられるんですかね?」

「あんた思いのほかに失礼ね。でもいいから食べてみなさいよ。味は保障する」


 レーナの確信に満ちた言い方に心を動かされたか、マナは躊躇いながらも食器を手に取る。

 それを見たレーナは待ってましたとばかりに大皿から小皿に移し、マナに手渡す。


「っ……」


 尚も怖気づいているマナを見て、レーナはふふん、と微笑した。

 そして、どこからともなく取り出した一枚の肉をマナの皿の上にトッピングした。


「こ、これはお肉!」

「生ハムよ。さあ、見せてもらいましょうか。マナ・ソードベルの勇猛果敢を!」

「い、逝きます!!」


 新米兵士の決死の覚悟の如く、マナはフォークで生ハムごと野菜に突き刺し、一気に頬張った。


「あら」

「行った! 味は……」


 もしゃり、もしゃり、もしゃりと、ぎゅっと目を閉じながら咀嚼する。

 静まり返る一同、マナの咀嚼の音だけが、規則的に響いていた。

 永遠のように感じられるその時間も、やがて終わりを迎える。

 顎が止まり、喉が動いた。

 そしてぱちりと目を開くマナ。その目には涙が溜まっている。


「あっ」

「あ?」

「美味しい……美味しいです! 野菜美味しいです!!」

「うおおっしゃぁあああああ!!!」

「っしゃおらぁああああああ!!!」


 思わず叫ぶ、俺とレーナ。

 完全勝利。完全勝利である。

 マナも初めて野菜を美味しく感じたことにかなり驚いている様子だ。


「すごいです! さすがレーナちゃん!」

「ふふん! もっと褒めなさい! 称えなさい!」

「じゃあ俺も試しに食ってみるか」


 適当に大皿からトングで野菜を移し、口に運ぶ。


「……これは、美味い」

「結構いけますわね」


 気付けばアルトリカも食していた。


「ドレッシングの塩加減とコクのある甘さ。そこにみずみずしい野菜とわずかな苦味が互いに味わいを引き立てる」

「ええ。それにこのポテトサラダも中々配慮が行き届いていますわ。シャキシャキ感の嫌いなマナのために玉葱を入れていない」

「えっ、ポテトサラダに玉葱?」


 俺がアルトリカと玉葱談話をしかけていると、レーナは自分の分を取ってサラダを食べ始める。


「どうせマナのことだから、鮮度の悪いゴミみたいな野菜しか食べたことがなかったんでしょ」

「前に一度食べたことがあるんですよ。三角コー……」

「分かったからそれ以上喋らないで。食欲なくなっちゃう」


 あはは、と笑うマナと、微笑を浮かべるレーナ。


「まっ、これからは野菜もキッチリ食べることね。疲れが良く取れると想うわ」

「はい! ありがとうございます、レーナちゃん!」

「一つよろしいですか」


 と、羽々斗が一つ物申したいようだ。


「主食はないのですか?」


 そう。今回はレーナの意向により、一人で作りたいということで、全てレーナに任せていた。

 が、レーナはサラダ作りに夢中で白米を炊いていなかったようだ。


「た、炭水化物ならポテトサラダとマカロニサラダでいいでしょ」


 苦しい。非常に苦しい。

 しかしまあ、米なら昼に肉と一緒にたらふく食ったし、問題ないだろう。


 こうして、レーナがサラダ料理を作れることが分かり、マナはサラダ料理を食べられるようになった。

 これからは役割分担して、サラダはレーナ、肉はマナ、その他は羽々斗が担当することとなった。

 ちなみに俺とアルトリカは味見役となる。

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