第2話 二次元の世界

 えー、ごきげんよう。皆様いかがお過ごしでしょうか。

 俺は現在、捕縛され、兵士たちの馬車に同乗させられています。

 もう既に森を抜け、外は広い平原が続いています。


「あー、もうほんと、二次元の世界なんだなぁ」


 外の風景を眺めながら感慨深げに呟いていると、周囲の兵士はもう冷たい目でこちらを見てくる見てくる。

 この感じは前にも味わったことがある。旅の道中、不審者として警察に職質され、連行されたときと似ている。

 

 割とピンチであるはずなのだが、憧れの二次元世界に来れたという嬉しさのためか、まったく危機感が湧いてこない。

 ふと兵士たちに目をやると、全員が視線を合わせないようにそっぽを向いた。


「あ、あの」


 ふと、向かいに座る一人の兵士がヒソヒソ声で話しかけてくる。

 声がやけに高い。女性か?


「貴方は、本当に異世界から来られたんですか?」

「俺から見たらこっちが異世界なんだけど、まあそうだよ」

「あの、不安かもしれないですけど、たぶん大丈夫ですから」


 どうやら励まそうとしてくれているようだ。

 二次元の人間で初めて仲良く出来そうな相手を見つけられた。


「大丈夫と言いますと?」

「言い伝えがあるんです。未来、神々の戯れで数多くの異世界と争うことになる。でもその直前に、一人の救世主が異世界から現れるって」

「なるほど」


 その異世界からの救世主とやらが、恐らく俺のことであろうと彼女は思っているのだ。

 恐らくマイゴッドが色々やりやすいように、前もってこの世界で広めていた言い伝えなのだろう。

 とりあえず、励ましてくれた兵士に礼を言う。


「ありがとう、前向きに考えるよ」

「は、はい!」

「おい、勝手に会話するな!」

「す、すみません!」


 その様子から、恐らく新兵なのだろう。なれない仕草が愛らしい。

 さて、と俺は再び車窓の外を眺める。

 まっさらな平原ではあるが、生き物も結構居る。


 RPGでおなじみの液状の奴や、獣の群れ。

 空を飛行する危なそうな鳥。時折、旅人がそういったものから逃げたり、戦ったりしているのまで見える。

 兵士たちは思いっきりスルーしている。加勢とかはしないらしい。


 前の世界では、決して生では見られない情景があちらこちらに転がっている。

 これからこの世界で何をしようか、何が出来るだろうかと、考えるだけで胸が躍る。


「…………」


 とはいえ、こうなにも起こらないと流石に退屈だ。

 馬車の揺れが心地よく、瞼が重い。

 考えてみれば、旅の途中、遭難して森の中を歩き続けていたのだ。

 嬉しさで隠れていた疲労が、ここに来てどっと溢れ出たのか、俺の意識は容易に睡魔にもって行かれてしまった。





「お、起きて下さい。起きないと……ああっ!」

「おい!早く起きろ不審者!」

「あだっ!」


 ガツンと頭に響く衝撃と痛み。

 とはいえ眠気のほうが強く、大したことは無い。

 目を開けると、そこには甲冑を着込んだ兵士。


「さっさと降りろ」

「あっ、はいはい」

「こいつ……状況分かってるのか?」


 俺の頭を殴ったクソ兵士に続き、背後の話し相手になってくれた兵士とともに下車する。


「おっ、おおっ!?」


 俺の眠気は、一瞬で弾けとんだ。


「うっそだろお前……こんなん」


 森、平原、妙な生き物たち。それだけでも興奮しっぱなしだというのに。

 俺の目の前にあるのは、大きな大きな、西洋の城。


「すっげぇ!」

「喧しい! 大人しくしろ!」


 唾を飛ばす小うるさい兵士など、まるで気にならない。

 海外になど言ったことは無いので、西洋風の城を生で見るのはこれが初めてである。しかも二次元絵。


「俺の語彙では、もはやこの感動を言い表すことが出来ない」

「……よく分からんけど、いくら国を褒めても容赦はしないからな」


 巨大な鉄製の扉が、重々しい音を響かせて開く。

 きょろきょろと城の内装を見ているが、なんとなく印象と違う。


「なんか、ホテルみたいだな」


 そう、なぜかホテル。高級ホテルのような内装で、中も洒落ている。城主の趣味だろうか。

 かと思えば、急に城らしい石造りの内装になったりと忙しい。

 しばらくして、一際豪華な扉に突き当たる。


「これよりお前は国王様と謁見する。くれぐれも失礼の無いように」

「しまった。社会人マナーのスキルは習得してない」

「なんでもいいから聞かれたことだけに答えていれば良いんだよ」


 兵士がコンコンと扉をノックする。


「捜索隊一号、鷹の目。帰還しましたッ! 浮浪者一名を捕獲、連れて参りました」

「構わん、入れ」

「失礼します」


 玉座の間に入室する。


「待っていたぞ。異界の訪問者よ」


 しゃがれた声だった。今にも呼吸が止まりそうなほどに苦しそうな声。

 白い床、壁、柱に金の装飾が散りばめられていながら、当の王様は随分と、端的に言って死にそうだった。


「間に合ってよかった。言い伝えが本当だったとは……」


 王様の隣には、黒髪の少女が小さな玉座に座っていた。


「二次元美少女……」


 マイゴッドは除き、この世界で一番最初に出会えた二次元美少女。

 しかも王様の隣に居るということは、おそらく王女とかそういったポジションだろう。これは胸が高鳴る。あわよくば活躍次第で結婚とか出来ちゃうかもしれない。


「言い伝えによれば、救世主は神のお告げを語り、自らを救世主だと証明するとある。神のお告げを聞かせてほしい」

「神のお告げ」


 なんだそれは。俺は二次元チケットと唐突なファーストキスと能力か何かを貰っただけで、お告げの言葉など頂いては居ない。


「どうかしたのか」

「あ、いえ。お告げですね。お告げお告げ……」


 下手なこと言えば信用を喪失して処刑にでもされるのではなかろうか。

 なんとかそれっぽい言葉を考えねば。

 思い出せ。あの神様が言いそうなそれっぽいことを。



「僕と取引しよう」

「なんて最高なんだ!」

「僕はぶっ飛んだ人間が大好きなんだ」



 駄目だ。神様らしさが皆無だ。


「まさか、救世主ではないのか……」


 王様の落胆の言葉と共に、周囲の兵士が得物を構え始めた。

 ああもういいや。駄目元で何か適当に言おう。


「僕は神様。今から君たち世界の住民に言葉を届けるからよく聞くように」

「!?」

「彼は僕の選出した救世主だ。彼によって実力者を束ね、異世界からの使いを打倒してくれたまえ。じゃあ、よろしくねー」


 と、演技のように言って見せた。

 チラリと周囲の状況を観察し、最後に王様を見る。


「これは……確かに神のお告げだ。間違いない」

「マジかよ」


 つい口が滑ってしまい、慌てて口を押さえたが、どうやら王様は完全に信じてしまったようだ。


「神は自らを僕と呼び、荘厳さの欠片も無いという。まさしく言い伝えの通りだ」


 割と酷い言われ方されてないか、マイゴッド。


「マイゴッドのお告げを信じてもらえたようですね」

「ああ、お主こそ我が世界の救世主だ。兵士たちには確信が得られるまで油断するなと言いつけておいたのだ。大変失礼した。これよりお主を救世主と認め、もてなそう……捜索隊一号・鷹の目よ」

「はっ!」


 両脇の兵士が敬礼する。


「主等に辞令を与える。これより主等は救世主の親衛隊の任につけ」

「はっ! 承知いたしました!」

「うむ……申し遅れた救世主殿。私はこの国、アルク=ルストの王。アルク・ガルバ・ダルヴ・ラ・ルスト。お主の名前を聞かせてほしい」


 その場に居る全員が、俺を注視する。やはり救世主の名前は気になるのだろう。

 別に隠すようなことでもない。俺は一呼吸置いて、はっきりと名乗る。


「彩人。雨上あまがみ 彩人さいとだ」





 捜索隊あらため、彩人親衛隊・鷹の目。

 その二人に連れられて、これから自分が使う部屋に案内される。

 さっき見た高級ホテルじみた内装の通路に並ぶ部屋。その一室を与えてもらえることになった。


「ここが、救世主様のお部屋になります」

「あら素敵」


 中は思ったほどではない。奥の隅にベッドが一つ。窓が一つ。

 ふかふかの絨毯が敷かれ、服をしまうクローゼット。飲食などするテーブルと椅子が一つ。

 あとはトイレと風呂が別々であるのが嬉しい。

 

「キッチンがあると良かったんだけど」

「食事なら食堂に行けばたくさん食べれますよ。タダで」

「タダで!?」

「はい。あそこのハムエッグが美味しいんですよ」

「おい、救世主様に馴れ馴れしくしすぎだぞ」


お前は散々怒鳴りつけた挙句に俺の頭を叩いただろうが。


「いや、それくらい親しげにしてもらえると嬉しい。なにせこの世界に来たばかりで、知り合いの一人も居ない」


 二次元の友人知人なら是非とも作りたい。三次元では全くそういう物はなかった。

 ……無かった。思い出したくも無い。


「分かりました。それじゃあ……えと、お、お友達で大丈夫ですか?」

「もちろん! いや是非とも!」

「っ! きゅ、救世主様の一人目の友人に私が……」

「そういうことなら、顔を見せなければ失礼だな」

「あ、そうだった!」


 二人は兜を外し、素顔を見せる。


「は、初めまして、私はマナ・ソードベルと申します。ふ、不束物ですが、どうぞ、よろしくお願いします!」


 鮮やかな赤髪の、可愛らしい女の子だった。

 橙色の大きな瞳は、三次元では絶対にありえない。

 二次元であるからこそ許される。究極の美しさ。完璧な端整さ。完成された形。見れ番見るほど、視線を外せない。

「あ、あの、あまり見られると……何かおかしなところありましたか?」

「いや、むしろ最高……じゃない。何もおかしなところは無い。問題ない」


 次に、男の方を見る。ほう、これはこれは


「サモハン・ジムニールだ。まあ、さっきは殴ってすまなかった。あれも仕事のうちだ」


 仕事のうちか。仕事なら何でも許されるとでも思っているのか。

 いかに二次元とはいえ、合わない人間とは合わない。

 とはいえ、せっかく出会った縁だ。特に特に見所も無いおっさんだが、少なくとも敵にすることは無い。


「改めて、俺は雨上 彩人。よろしく」


 さて、一通り自己紹介も済んだところで、旅の疲れを癒すとするか。


「良ければいろいろ案内しますよ。この国いいところ、たくさんあるんです」

「是非よろしく頼む」


 二次元美少女のお誘いを無下にするわけにはいかない。

 むしろ疲れなど吹き飛んでしまった。


「よく考えろソードベル。馬車の中で寝入ってしまうほどに疲れているというのに、あちこちに引っ張りまわしたら雨上の負担になる」

「そ、そうですよね。すみません……」


 余計なことをしくさったこの中年。

 しょんぼりとするマナは中々可愛らしいが、このままではマナとコミュニケーションを取れない。もっと二次元美少女と戯れたい。

 この勘違い野郎をどう納得させるか……


「いや、全然大丈夫。というより、実は空腹なんだ。食事をしたいんだが……」


 するとマナは目を大きく見開き、瞳を輝かせる。


「それじゃ、それじゃあ! ここの食堂を案内します! ということで、ジムニールさん」


 サモハンは溜息を一つ吐いて、呆れた表情で言う。


「分かった。俺はこのことを部下に通達せにゃならんから、くれぐれも失礼のないようにな」

「大丈夫ですよ、私たち友達ですもんね?」


 くるりと振り向くマナ。生の二次元美少女のはにかみ。

 ああ、もう死んでもいいかな。俺、十分報われた気がする。




 食堂に辿り着くまで、多くの人に見られ、また多くの人を見た。

 すれ違う人々が全員二次元の質感なのには、もはや感動を覚える。


 さて、食堂は普通で、特別注目することもない。

 慣れた様子でマナは受付に行き、注文する。


「おっちゃん! 憎々しいセット二つ!」


 すると奥の調理場から、恰幅の良い中年が足早にこちらに来る。


「来たなマナっち! って、おおっ!? ついにマナっちが男連れてきたか!」

「い、いやいや、そういうのじゃないです! この人は言い伝えの救世主様で、彩人さん。今日来たばかりなんですよ」

「へぇ。まあ、仲間が増えることはいいことだ。同じ釜の飯を食う仲間なら尚更だ。ほい、憎々しいセット二つな」

「ありがとうおっちゃん!」


 どうやらこの食堂での飯は無料らしい。俺とマナはそのまま料理を受け取り、テーブルを確保する。


「さて」


 憎々しいセット。妙な名前だと思ったら、肉がてんこ盛りの丼物であった。

 一枚の大皿に盛られた白米の上に、牛肉、豚肉、鶏肉の三種類を乗せた、完全な肉食系メニュー。


「私のオススメです。お口にあえば良いんですが……はむっ」


 ごろごろと乗っかっている肉を、スプーンで拾って口に運ぶマナ。

 もぐもぐ、ごっくん。そして恍惚の表情。

 見た目に反して大食いのようだ。だがそのギャップがいい。

 ふと、マナの手が止まる。


「あの、お肉苦手でしたか……」

「あ、いや。いただきます」


 つい見惚れて食うことを忘れていた。マナに促され、スプーンで肉を拾って頬張る。


「それは豚肉です。脂が多いでしょう?」

「うむ、こってりしてて美味いな。ピリ辛の醤油ダレがいいアクセントになってる」

「それは秘伝のタレらしいです。逆に鶏肉はさっぱりしてるんですよ」

「どれどれ」


 胸肉。いや、ささみ肉? 豚肉と相反してさっぱりとしている。

 続けて牛肉。どうやら赤身のようで噛み応えがあるものの、そこまで苦労せず噛み切れる丁度良い加減だ。


「うん、これは美味い」

「本当ですか? よかったぁ。気に入ってもらえてなによりです! 他にも色々あるんで、好きなだけ食べてください」

「にしても、こんな大層なものをどうして無料で食えるんだ?」

「それはまあ、結構命がけですからね。これが最後の晩餐ってことになることも……いや、滅多にないですけどね」


 まあ馬車から外を見た感じモンスターの類もいるようだし、そういうこともあるのだろう。

 そう、こんな可愛い女の子ですら、モンスターの爪で切り裂かれ、巨体に潰され、牙で食い千切られ、触手に責められ……


守護まもらねば……」

「えっ?」

「いや、なんでも」

「大丈夫ですよ。私こう見えて実力派なんですから。ただ要領が悪いって言われて……」


 そういえば、自分には何かしらの能力があるはずだ。マイゴッドから与えられた能力が。

 未だにそれがなんなのか、自分でも分かっていない。

 俺はこの世界で実力者を束ね、神々との戦争に赴かねばならないわけだが、俺は戦力になりえるのだろうか。


「にしてもこれ本当に美味しいな」

「でしょう? 味の好みが合ってよかったです!」


 とりあえず腹一杯食って、筋トレでもしておくかな。


 そんなことを思っていると、背後から声をかけられた。


「あらぁ、ソードベルが生意気にも男を連れていますわねぇ?」


 ネチネチとした言い方に、マナが振り返った。

 そこには随分と派手な服装の二次元美少女が三人居た。


 一人は、ふわふわとした金髪。ところどころフリルのついたドレスで、局所のみを覆う鎧を身に纏っている。


 左右の少女も金髪で、真ん中の少女の右手側にいる少女は男性のようにさっぱりとした髪型、左手側はセミショートだ。


「あ、黄金の剣部隊の。こんにちは」

「ごきげんようマナ・ソードベル。随分と楽しそうにしていらっしゃいますけど、彼氏かしら?」

「か、彼氏!? そ、そんなとんでもない! 私ごときが彩人さんを彼氏だなんて……」

「ふふ、そうよねぇ。貴方如きが殿方と一緒にお食事だなんて……」

「救世主様を彼氏にするなんて、私に出来るわけないじゃないですかぁ」


 うん、と真ん中が首を傾げた。


「ソードベル、今なんて仰いましたの?」

「えっ、ああ。こちら言い伝えの救世主様です」

「どうも、彩人と言います。以後よろしく」


 呆気に取られる美少女三人。

 だが、真ん中が怪訝な表情を浮かべる。


「なんだか、なんというか……本当に救世主様ですの? あまり強そうには見えませんけれど」

「いやまあ、今はまだそんなに」

「ふむ……あ、そうですわ。救世主様は異世界の神の使いに対抗出来る者を束ねる強者、ですわよね?」

「えっ? ああ、まあそうなるかな」

「でしたら、是非私たちに戦い方をご教授願えませんこと?」


 おっとそう来たか。

 彼女らは、というか真ん中の彼女は、俺が救世主であることを疑っている。

 そこで俺が救世主であるということを認めた振りをし、実際に手合わせをする状況を作って、俺の実力を確かめようという魂胆なのだろう。


「食後の運動ということで、軽くでも構いませんわ。お願いできますかしら」


 ここで断るのは容易い。だが、それではこの二次元美少女とお近づきになることが出来ない。

 俺にとっては二次元美少女が全てであり、あらゆる行動理由になりうるのだ。


「分かった。それじゃあこれを食べ終わったら」

「ええ、よろしくお願いします。救世主様」


 ということで、食後の後は訓練ということになった。





 場所は城の中庭の一角。木々が生い茂り、広場もある、中々に広い中庭である。


「ではお手柔らかに」


 俺とマナは、三人の美少女と対峙していた。

 あっ、と思い出したように、真ん中のふわふわ金髪少女が自慢げに笑む。


「申し遅れました。私はアルトリカ・蘭・プラチナム。由緒正しきプラチナム家の一人娘にして、黄金の剣部隊Ⅴエースの一人」


 続いて右手側の美少女が名乗る。


「私はセイブだ。セイブ・ア・リル。アルトリカ様の守り刀をやってる。よろしくな?」


 腰にさげているのは片刃の刀剣。

 雰囲気はどこか勝気で、どうにも浮ついた様子。

 発育は、あまり良くはないようだが、悪くもない素敵なバランスを築いている。


「初めまして、アンシア・スティングと申します。セイブと同じくセイブお嬢様の御付をしているの。よろしくお願いしますね」


 こちらは随分と丁寧な挨拶。

 セミショートの金髪は見て分かるほどにサラサラで、おっとりとした雰囲気。美人さんの風格を漂わせている。

 鎧の代わりに胸当てなど要所に防具を装備している。


「では、ここは私が」


 と、アンシアが前に出ようとする。

 しかしアルトリカがそれを手で制した。


「私が直々に相手するに決まっているじゃない」

「いえ、しかし、万が一ということも……」

「救世主様と呼ばれるほどなのだから、相応の実力があるはずでしょう? 私を傷一つ与えずに制するくらい、容易いはずですわ」


 救世主様とやらのハードルを随分と挙げてくれるアルトリカ。

 これはちょっと不安を抱かざるを得ない。


「では、始めましょうか。そちらからお好きにどうぞ」


 と、アルトリカは腰の剣に手をかけ、いつでも抜けるように構えた。


「さて、それじゃあ……」


 今気付いたのだが、俺は剣どころか、武器になるようなもの一つ持っていない。

 ということは、必然的に戦闘スタイルは徒手空拳になる。


「よ、よろしくどうぞ」


 観念し、俺はとりあえず拳を構えた。

 まあ、憧れだった二次元世界を短い時間ながら堪能できた。美少女ともおしゃべりできた、一食に食事も出来た。


 もう思い残すことはないな。

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