暇を持て余した神々の異世界戦争
妄想存在さん
二次元主義者、来訪
第1話 始まりは神隠し
「やあ、僕は神様。早速なんだけど
あまりに唐突な展開に、俺は何の反応も返せずに居た。
ただ真顔で、その自称神様とやらを見つめていた。
「あんまり見つめないでおくれ。照れてしまうよ。もしかして僕に一目惚れとか……」
「三次元に一目惚れはしません」
即答した。これだけは即答せねばならなかった。
「俺は二次元愛好至上主義者だ。三次元のような害悪が
「くぅ……いいね。すごくいい。その気概がなくっちゃ、僕の取引の相手にはならないよ」
先ほどから、この少年だか少女だか見分けのつけにくい自称神様は、熱い視線を向けてきている。
だが俺には関係のないことだ。三次元への誘惑耐性は万全である。
「まあそう構えないで。君にとってこれ以上無い素敵な話なんだ」
「三次元の語る口は信用ならんが……まあいい。どうせこのままじゃ元の場所には返してくれないだろう?」
「そりゃね」
そう、俺はこんな真白な箱の内側には居なかった。
ついさっきまで、森の中を彷徨っていたのだ。
「じゃあ早速本題に入ろう。さて、ここに二次元行きの片道切符があります」
「ぜひやらせてください」
即答だった。それだけは即答せざるを得なかった。
「予想はしてたけど、はっやいなぁ」
「神様ありがとうございます。今までのご無礼をどうかお許しください」
片膝着いて従順な騎士のように頭を垂れる。神様がここまで良いお方だったとは。
「じゃあこの切符を手にするための条件が、三次元女性との情事だったら?」
「……ちょ、ちょっと待っていただきたい」
「冗談だよ」
と俺が真面目に熟考しようとすると、神様は舐めた軽口を叩いてきやがった
「とはいえ、君が僕の要求を断ることは出来ないんだよ」
「どういう意味だ?」
「君、遭難してたでしょ」
そう、俺はついさっきまで遭難していたのだ。
俺はとある目的の為に山林へと足を踏み込んでいた。
山奥にあると言う廃神社を目指し、せっせと足を運んでいく。
さっさと戻らないと、駐輪場にとめた数十万はするロードバイクと、そこに積載された荷物を失うことになる。
もはや何かしらの魑魅魍魎が現れてもおかしくない。そんな山道を抜けて、俺はいよいよもって神社へと辿り着く。
きょろきょろと見回すが、風化した建造物以外、大した見所はない。
どこからか女性の顔でも何でも浮いていないかと探すが、やはりない。
まあ、そこは別にいい。俺は誰も居ないであろう廃神社にの賽銭箱に十円玉を投げ込む。
「あっ、投げちゃ駄目なんだっけ。いいか」
適当に拍手を打って、適当に礼をする。
「二次元に行けますように!」
我ながら馬鹿げた願いだと思う。
しかし、だからといってそれ以外に願いたいこともない。
この三次元から脱し、二次元の世界へと行けることこそ、俺にとって唯一叶えたいと思える願望なのだから。
「さて、と」
踵を返し、俺は神社を後にする。
しばらく歩いていると、ふと自分の歩いている場所が今まで歩いてきた道と違うことに気付く。
「これは……」
振り返るも、やはり妙なことに帰る道もよく分からなくなっている。
まだ日は高く、鬱蒼と茂る木々が陽光を細かく遮っていた。
「よし、これは完全に迷ったな」
結論から言えば、俺は完全に遭難していた。
ただ、これは自ら望んだ遭難であった。
山道に迷ってこそ、神隠しというものだ。
一日中歩き回って、結局、この世ならざるものと遭遇することはなかった。
食糧も飲み水も残り少ない。何度か川にあたったものの、そこを辿って歩いても、やはり河童一匹見当たりはしない。
帰り道っぽいものは何度か見かけたものの、もう少しだけ探し回っていたい。
幻聴だろうか、ふと声が聞こえた。
「君はどうしてそこまでするんだい?」
退屈なので、幻聴と会話することにした。
「そりゃもちろん、この世ならざる摩訶不思議に会うためさ」
「そんなことをして、君に何の得があるんだい?」
「愚問だな。この薄汚い三次元に生き続けて、俺に何の得があるっていうんだ?」
すると幻聴は止んだ。俺はもうしばらく歩き回ることにした。
二日目。やはり何にも出会わない。
鴉天狗の美少女などと贅沢は言わない。いっそ妖怪でなくクリーチャーの類でもいい。
「やっぱり分からないよ。君は何を望んでいるんだい?」
「二次元にいければそれが一番なんだが、神様に頼むくらいしか方法がなくてね。あとは伝承に残ってる幻想を探すくらいしかやることが無いんだよ」
「二次元……二次元に行くことが、君が心から望む願いなのかい?」
「そうとも。こんなクソッタレな三次元に生まれてしまった俺を、神隠しして異世界へ、出来れば二次元世界へと連れて行ってくれる気の良い神様が居れば、と全国の神社を、こんな山奥まで探しに来ているわけだ」
草を掻き分けていると、いよいよ腹が鳴った。
リュックサックの中には最後の食糧と飲み水。
「最後の休憩だ。一旦帰るか。帰れればの話だが」
「遭難して死ぬかもしれないことを、いつまでも続ける気なのかい?」
「これくらいしかやりたいことがないからな」
「変なの」
「自分でもそう思う」
最後の食糧、塩むすびを頬張り、ペットボトルの水を最後まで飲み干す。
「……ちょっと寝るか」
俺は適当な樹木に寄りかかり、仮眠を取ることにした。
心地は良くないが、歩き続けた疲れからか、全身から力が抜けて、瞼は勝手に下りてくる。
それが、俺の記憶している最後だ。
二次元への入り口を探すため、実家を飛び出し、田舎に自分の土地を買い、自作で小屋を建て、安住の拠点を築いてから、二次元やそれに類する不思議を探し回っていた。
いわゆる妖怪だとか妖精だとか、そういった架空の存在。
「山で遭難すれば山姫と出会えるかもしれないと思ってね」
「残念だけど、君はあの後、普通に死ぬよ。山姫に会う事もなくね」
「どうしてそう言い切れる?」
「そりゃ僕が神様だからさ」
なるほど、と納得しかけたが、目の前の自称神様がデタラメを言っている可能性もある。
「貴方は神様でしたな」
「そうだよ」
「ならそれを証明してみせてほしい」
「神様を試すなんて、西洋ならご法度だよね。それで何をすれば?」
「二次元になってほしい」
お安い御用、と一言残し、神様は指を鳴らした。
瞬間、全てが一変した。
景色が一瞬にして、その質感を変貌させたのだ。
それは自称神様だけでなく、白い部屋の床から天井までもが、二次元の質感をかもし出したのだ。
「どうだい?」
と、問う自称神様は……否、もう自称は要らない。この方は、本物の神様だった。
セミショートの黒髪は二次元ながら艶やかに。
浮かべる悪戯っぽい笑みは、神様というには小悪魔じみて蠱惑的。
神様らしからぬ、意味の分からない英字のプリントされたシャツの胸部分は僅かだが確かに膨らみがあり、仕草はまさしく乙女のそれ。両手を後ろに廻し、上目でこちらを伺っている。
「どう、かな?」
「なんなりとお申し付けください、マイゴッド」
くすくすと笑う声ですら、心地よすぎて失神してしまいそうだ。
「じゃあ本題ね。この二次元片道切符の代償として僕が提示する条件は……僕の世界の代表になってほしい」
「一つだけお聞かせ願えますか」
「勿論、その世界は二次元だよ。その切符で行ける世界がそこなんだよ」
「安心しました。喜んでその条件受け入れさせていただきます」
「ほんと、二次元なら何でもいいんだね君は」
呆れたようなため息を吐かれたが、否定のしようが無い。俺は二次元ならなんでもいい……とまではいかないまでも、念願の二次元に行けるというならこれくらい必死になるのは自然なことだ。
「もしかして僕まで性的な目で見られてるのかな」
「……」
「せ、説明を続けるよ。まず君にお願いすることは三つだ」
気を取り直し、俺は改めて姿勢を正し、正座でマイゴッドの説明を拝聴する。
「まず一つ、君には二次元世界で、僕が与えた能力で最強になってもらう」
「最強、ですか」
「うん。まあ能力といっても君に由来した、君次第のものしか与えられないけど、鍛えて極めていけば必ず最強になれるものだよ」
「なるほど」
最強。聞くだけで心が躍る。
なにせ最強と言うのだから、もしかしたらハーレムまで築けるかもしれない。
「口元が緩んでるよスケベ君。二つ目、君は連なる強者を束ねて、異世界の住人と戦ってもらう」
「異世界の住人?」
「細かい背景は話が長くなるから後で話すけど、僕たち神々は今、自分の世界の人間を戦わせてるんだよ。それで君には僕の世界の代表として戦って欲しいってこと」
「なるほどなぁ」
つまり自分はこのマイゴッドの使い。いわば神の使いとして戦う使命を負うわけだ。
なるほど、これは中々たまらないシチュエーションだ。
「三つ目。戦いには必ず勝って欲しい。1度の敗北も許されないよ」
「そんなにシビアなんですか?」
「だって負けたらその世界は壊されちゃうからね」
「こ、壊される!?」
「そう。君は自分の世界、二次元を守るために戦い続け、そして勝ち続けなければいけないんだ」
二次元に行ける代わりに、その世界が壊されないように戦い続ける。
そんな、そんなことが、あっていいのか。なんて……
「なんて最高なんだッ!!」
「うおっ!?」
興奮のあまり叫びながら立ち上がると、神様は驚きの声をお聞かせくださった。思いのほか可愛い声だ。
「是非とも、私めをお使いくださいマイゴッド。今すぐにでも!」
「いやぁ、本当に好きなんだねぇ。それじゃあ契約成立ってことで。このチケットは君のものだ。受け取りたまへ?」
神の誘いに俺は逆らうことなく歩み寄る。
差し出された黄色の紙を、高鳴る鼓動のままに受け取った……次の瞬間。
「へへっ」
「えっ、むぐっ!?」
一瞬、自分の身に何が起こったのか分からなかった。
そして次に、自分の身に起こったことが信じられなかった。
「っ~!!?」
声を出そうにも、柔らかな感触がそれを塞ぐ。
チケットを受け取ったと思ったら、手首を強い力で引かれ、日巨せられたかと思えば今度は口を塞がれていた。
おお、神よ。
「っぷは!」
呆気に取られたが、しかし気を取り直して神に問う。
「あの、今、何か飲ませましたね」
離れる直前、なにか固形物が押し込まれ、飲み込まされた。
「キスはちょっとしたサプライズだよ。飲み込ませたのは、君の能力を開花させる種だ」
「なんで口移しなんですか」
「女神のくちづけだよ。君の行く末に幸運がありますようにってね」
マイゴッドは思いのほか好色だった。
というか女性だったのか。
「まあ、神に性別なんてあってないようなものだけどね」
「…………」
「おっと、勘違いしないでおくれよ? 僕だって好きでもない人間にくちづけなんてしないさ。僕はね、君みたいなぶっ飛んだ人間が大好きなんだ」
「は、はぁ」
神様のくせに小悪魔のような笑みを浮かべるマイゴッドに、理性が少々揺らいだところである。
だがしかし、これからの二次元世界を思えば、こんなことは前座に過ぎないだろう。
「それではお待ちかね。ようこそ僕の世界へ!」
マイゴッドが指を鳴らすと、チケットが突如眩い光を放ち始める。
「うお、眩しっ!」
「さあっ、せいぜい僕を楽しませてよ。……楽しめる最後だといいなぁ」
最後に聞こえたその言葉が、あまりに儚げなのが印象的だった。
だが今の俺には、すぐそこにある二次元世界しか眼中になかった。
眩い光に包まれ、たまらず目を両腕で覆っていた。
「そろそろ、止んだか?」
ゆっくりと瞼を開き、腕の隙間から外を覗く。
緑、緑、緑……一面の新緑。
「ここは……」
全方面、新緑に囲まれている。どうやら森の中らしい。
だが、驚くべきはその質感だった。
「ま、紛れもない。この色彩、質感、まさしく二次元……!」
夢にまで見た二次元世界が目の前に広がっている。
本当に、これは現実なのだろうかと疑ってしまう。
否、いっそ夢でも構わない。このまま覚めないで居てくれれば、もうこのまま死んでしまってもいいとさえ思う。
「すごい、これはすごいなぁ!」
近くの木に駆け寄る。
気の表面、新緑の葉、根元に生えるなんだか奇抜な色合いをしているキノコ。少し離れて花々。
どれもこれもが、絵のように鮮やかで、幻のように美しい。
「はぁ、この世界に来てまだ5分も経ってないのに。興奮で死ぬんじゃないか……ん?」
ふと、背後を見る。
視線、気配……というより、普通に草葉の音がした。
もしかしたら、ゴブリンか何かだろうか。と期待して待ち構える。
「動くな!」
「!?」
怒声と共に、草むらから大量の人が飛び出してくる。
驚き、身体を硬直させ、言われたとおりに動かない。
「お前、妙な恰好をしているな。何者だ」
「……うわ、人間も二次元なんだ。やっぱすごいな」
「聞いてるのかお前!」
彼らは西洋風の甲冑を身に纏い、その手には剣や槍を持っている。
「ああ、いや。俺は今この世界に来たばかりで」
咄嗟に口を出た言葉が、どうやっても理解され得ないであろう物言いで、自分で苦笑した。
が、彼らは驚いた様子でざわついていた。
「お、お前、まさか異世界の人間なのか?」
「え? そうですね。はい」
「か、かっ……確保ォ!」
「えっ、えっ? えぇっ!?」
多勢に無勢、やれやれ俺は捕縛された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます