第9話 2021年8月 島根県 丘陵地帯
時も流れ2021年8月盛夏 島根の丘陵地帯に駐留する作業ポロシャツ姿の日本防衛軍派遣部隊 朝の点呼が続いては、漸く朝礼へ
青い迷彩服の内藤曹長、勇ましくも発破を掛ける
「いいか、日本防衛軍派遣部隊諸君、中国軍は昨日付けで日本海よりいよいよこの島根に揚陸した そして未確認情報だが九州を占領した中国軍開拓部隊らも瀬戸内海深くまで現れてるとかだ この二つの侵攻を絶対合流させるな 分かったか、何としてもこの街道を君達派遣隊員の助け合いの元、すでに運び込まれているスパイクを更に敷き詰め、道と言う道を全て塞いで兵站を叩っ斬れ、絶対に繋がせるな!」
隊列から囁き声が広がって行く
「流れ流れてこれかよ」
「九州だけじゃないのかよ」
「当たり前だ 相手は中国だ、九州で飽き足りるか、」
「しかしいつから日本防衛軍、軍なんだ」
「先月からさ」
「自衛隊のまま、いつまでも交戦出来る訳ないだろう 止む得ず日本防衛軍になるしかないさ」
松本しっかり右手を上げては
「すいません内藤曹長、それは他言無用ですか」
「松本か、当たり前だ絶対に言うな 民間上がりの他の部隊が恐れて逃げたら、一気に瀬戸内海まで制圧だ そうなれば最前線大阪本部が一気に総崩れの恐れがある いいか、戦争に勝つには君達の枯れない汗と真心が必要だ、励んでくれたまえ」
松本尚も
「俺達も民間上がりです それにここは緩衝地帯と話に聞いてます、何か話が違い過ぎます、後退させて下さい」
内藤曹長声を振り絞り
「松本、へ理屈を言うな、ここにいる君達は立派な戦士だ、他と一緒にされたいのか、飯が録に出ないぞ いいか、平和な緩衝地帯がどこにある!今は戦時下だ、考えを改めろ」
松本果敢にも
「分かりました、それでは皆の身の安全を約束して下さい」
「当たり前だ、貴様等始め日本国民を守る為に、最前線の日本防衛軍は身を挺して戦っている」内藤曹長毅然と言い放つ
山あいの国道のアスファルトが照り返す 只管二人で一組の重いスパイクの敷設、朝から夏の日差しが容赦なく注ぎ込んでは、作業ポロシャツが汗だくに 労役が只管過酷を極める
それぞれ二人掛かりでスパイクを降ろし終わり、一息 水分補給に余念が無い
「重い、指が千切れそうだ」
「ちゃんと体で持たないからだ」
「重機で運べないのかよ」
「どこにそんなのあるんだよ」
「大体、アメリカとロシアだけから分けて貰ってる貴重な石油関係、ここで使えるか」
「全ては最前線の車両ですか」
松本汗を拭っては
「もう掛け合ったけど、人の手しか無いんだよ」
「ここ200mも敷き詰めてないですよ」
「今日はまだ20セットある、熱中症で倒れるなよ」
内藤曹長透かさず号令
「水分補給は終ったな、もう考えるな、これから先ずっと続くぞ」
皆項垂れるも、軍手を嵌め直し重いスパイクの積まれたトラックに素早く移動
日もとうに暮れ、焚き火の前で疲れを癒し語らう一同 湧いたお湯でインスタントコーヒーを分け合う
「あーあ、最初はNPOの仕事で避難民のお世話だったのに、なんで日本防衛軍に籍を置かれるんだ、信じられないよ」
「それ言ったら、おれは旭川でプレハブ作っていたのに、知らず知らずにここの兵站だよ」
「俺は北九州市からだよ、侵攻して来た中国軍に追い出された 奴ら見せしめに街を火炎放射器で焼きやがった それで追い打ちかける様に銃で散々小突かれては本州に脱出さ」目が落ち窪む
「俺は富山原爆から運良く直撃逃れてだ 奴ら都心を震え上がらせる為に、態と地方都市狙いやがった 国もさっさとケツをまくって中国本土爆撃しろよ、噂では奴らの第二の原爆一斉投下も近いとかだ 二度と死ぬ目に合いたくないぜ」
「ああそれな、国は隠してるがもう原爆は投下された、2ヶ月前に釧路でキノコ雲見たって奴に話を聞いたぜ、どことどこかとかは詳しく分からんが、また一斉投下したんだろうな」
不意に松本暗い影を落とす
「あれを使って、まだ落とすかのか…」
「全く、日本が早く降参しないから、やりたい放題かよ」吐き捨てる
「つうか、日本防衛軍弱いですね、もっと軍備増強してれば良かったのに」
松本歯噛み
「してるさ、平時の2020年度の防衛費はうなぎ上りに8兆円に未公開の追加予算、今年度は一切未公開だけどとんでもない予算だろうな それもこれも2018年の日本国憲法抜本改正で見直された交戦権の改正のせいさ」
「松本さん詳しいんですね」
松本溜息混じりに
「まあな、さすがに民意を無視できないのか自衛隊のままで来たけど、先月の日本防衛軍発足でいよいよさ」
「さすがにさっき聞いた第二の原爆一斉投下がきたら、日本防衛軍発足は止む得ないですよ」
「日本防衛軍で戦争が終るのか、更に火に油注ぐだけじゃないのか ああ、この先どうなるんだろうな」
沈黙の一同も漸く口を開く
「これが戦争なんでしょう、もう腹くくろうよ」
「お前、死ぬ目に合わないから余裕なんだろう、富山原爆から逃げる際に見た焼け野原と悲鳴が忘れられないよ」必死に耳を覆う
死の恐怖に改める一同 焚き火の木が割れる音が響く
「それでは話題を移して、松本大先輩は今迄どうされてたんですか?」
「ああ、俺は各地の配給倉庫でずっと積み降ろしだったけど、配給も無くなってここに連れて来られた、家族とも生き別れた」松本不意に目を伏せる
「でも、手紙貰いましたよね」
松本従容と
「まあ、仕事を世話して貰ってる人からの、定期的に来る家族の消息の連絡だ 最初の原爆一斉投下以来嫁と娘に合っていないが、来る連絡はいつも未だ見つからないとかだ」
「それなら、各国の救援隊が来て各本国に移送した可能性有りますね」
「いや、生きているならハイパーナンバーが有るので、何処にいるか判明する筈だが、さて」
「それ嵌められてる口ですよ、前にもそんな人いました この派遣隊にいると情報が入って来るとかですよ」
松本視線も遠く
「そんなの気付いてるよ でも家族離散した今、その人に頼るしか無いんだ」
声にならない一同 焚き火の跳ねる音が響く
「松本さん、まずは自分が生きてるだけでも良しとしましょう、ほら毎日三食は勿論差し入れも出ますし、何事も前向きに生きましょう」
松本拳を固める
「お前どの口で言ってるんだよ、家族に会えなくて寂しく無いのかよ!」
「松本さん、誰に怒ってるんですか 怒る相手間違ってますよ、そこは中国ですよ」インスタントコーヒーを一気に飲み干す
「早く、どこかの国が中国を全滅させないですかね」
「アメリカ・ロシアの戦術核爆弾に頼るな、二大国の奴らもまだ理性的だから世界が滅亡しないんだぞ」
「もう躊躇なんて必要ないですよ、戦術核爆弾なら一瞬に殲滅できますって」
松本声を荒げる
「おい、戦争仕掛けて来たからって、中国の民間人は関係ないだろう」
「話聞いてますか松本さん、中国が仕掛けた先はまずは日本の民間人ですよ、ありふれた一般人なんですよ」
松本吐き捨てるかの様に
「相手が殺すから、俺等も殺す道理はどこにも無いんだよ!」
「松本さん家族と逸れてるんですよね もし仮に家族が丸焦げで今も放置されたままでも、そんな事言えますか」視線を避ける
松本勢い余って立ち上がる
「てめえ、仮定の話すんじゃねえよ、絶対生きてるに決まってるだろ、」拳を叩く先を探すも潔く収める「くそ、絶対生きてる、」
顔を背けたままの一同 支給されたインスタントコーヒーを次々飲み干して行く
「まずは自分の身です ここやっぱり最前線ど真ん中ですよ、このままでは死にますって、ここだけの話逃げませんか」
「もう遅い、俺達の知らない内に囲まれているって噂が立ってる」
「こちらの哨戒兵が動き回ってるのって、それか」
「中国軍の機動力甘く見るな、奴らのサーモスタットに感知されただけで銃殺って噂だ」
「スゲエな中国軍、本当は強えんだな」
「あざとく原爆一斉投下するだけ、奴らは用意周到なんだよ」
「ああ、戦時統制で情報が完全に閉ざされているが、日本だけではなく、アジア全域は勿論、アメリカ西部中部、果てはあのロシアにまで原爆落としたらしい あとユーロ方面は何の狙いがあるかわからないが無傷のままらしいのが不思議だがな」
「奴ら観光好きだもんな」吐き捨てる
「日本も京都に落とさないから、そんな所だろ」
「地球半分って、本当にそこまで範囲が広いんですか」
「そこまで広範囲なら、本当に何で、報復で中国に原爆落とさないんですか、一気に片が付きますよね」
「そうは言っても、やはり中国は広過ぎるよ」
「あいつら人口が18億人だぞ、原爆水爆何千個落とすんだよ」
「それって核の冬ってやつですよね…」
「それだな、それをやったら確実に地球上にいつお日様が出るか皆目分からん、まさに人類滅亡だよ」
松本歯噛みしては
「そんなんじゃない、人類滅亡が怖いんじゃない、ただ憎しみの連鎖を断ち切るためさ どこの国もローマ法王の核兵器廃絶宣言をちゃんと心に刻んでいるんだよ」
「松本さん、ここでそんな理想論語っても誰も頷きませんよ」
松本手持ち無沙汰に薪を整理しては
「分かってるさ、目の前に敵がいるんだ、早く出て行って欲しいよ、それでも対話はすべきさ」
こことぞばかり歩み寄る内藤曹長
「貴様等、管巻き終わったら、とっとと寝ろ、最前線から少し離れていると言え、長く暖を取ると噂をしている中国軍がやってくるぞ」微笑
「またまた、この辺りで中国軍なんて見た事ないですよね」
「本当の所どうなんですか」
「内藤曹長、奴らどこまで進軍してるんですか」
内藤曹長毅然と
「当てにならん情報は一切信じるな、この辺りに中国軍などおらん」
松本従容と
「いや、森で微かに人が通った跡がありました、この辺一帯の民間人は疎開した筈ですよね」
一斉に押し黙る一同
「貴様らは口が軽い、松本も他言無用だ、いいから寝ろ!」軍靴で焚き火を崩す
夜も深く静まる宿営地
日本防衛軍派遣部隊の眠る大型テントの天上が、無数の赤外線に照らされ、間も無く戦闘機の轟音が劈く
「何だ、一体」松本飛び起き、いち早くテント外に出ては上空を確かめる、続々飛び出て来る一同
続いて暗闇の中を斬り裂いて行くスクランブル戦闘機2機
月夜の晩に照らし出される日本の主力戦闘機Fー15J2機と威力偵察中の中国のステルス戦闘機Jー22同士のドッグファイト 日本防衛軍のFー15J旋回も素早く2機同時に敵機を素早くロックオン、サイドワインダー発射、着弾撃墜、呆気なく墜落して行く中国軍ステルス戦闘機Jー22
月夜を見上げる一同
「あれ日本か、強ええじゃん」
「ああ、制空権だけはな」
「戦闘機の性能良くても、長期戦は勝てないからな」
「日本の地理的条件考えたら仕方ないさ」
「とにかく撃ち落としたんだ、ヤッホー」
歓声を上げる一同
松本、不意に
「それより、あの赤外線何だったんだ」
間髪入れず
“バババーーーーン”重なる爆撃音と爆風
先の赤外線レーザーポインターの場所と一寸違わず命中
宿営地が突如吹き飛ぶ、折り重なる大型テント
内藤曹長が、額を割り止めどなく血を流しながら、振り絞り叫ぶ
「精密爆撃だ、逃げろ、逃げるんだ、」
闇の中、今度は前方より銃声が響き渡る音が間断なく続き、押し込まれる
着弾及び資材置き場の鉄板・鉄パイプ・スパイクからの破片が容赦なく一同に突き刺さり絶命 呻き声ももはや、ささやかな数
松本の両足が逆の方を向く、直撃を回避するも立ち上がれもせず
「痛って、動けねえ、」苦痛で顔が歪む
またも間髪入れず精密爆撃が襲う
“バババーーーーン”重なる爆撃音と爆風、資材置き場が容赦なく爆散
松本、今度は鉄パイプが土手っ腹に深く突き刺さる
「ぐあーー痛えー、」血痰を吐き出すと、視界が徐々に遠くなり、耳に入る音の残響音が長くなる、崩れ落ちる身 不意に手を動かすと粘りのある血液が止めどなく溢れ、ここが戦場と語る「(寒い、ここで死ぬのか)」瞼が重くなり、果てしなく深淵へ
——— そして、俺は死んだ ———
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