ボーダーライン

判家悠久

2020年 始まりの日

第1話 2020年1月 東京都 日本シネマカメラ 法人第三営業部

2020年初春 1月6日 午前9時10分 東京丸の内都心、日本シネマカメラの本社ビル 強烈な光りが一瞬輝き、遠雷の様な音が響いては、西の彼方に大きなキノコ雲が天に届こうかと浮かぶ



電話を片手に丹念に提案書を捲る未だ青年に見まがう松本文也まつもとふみや

「納期の方ですが…あれ、電話切れたかな」固定電話を掛け直すも

「やっぱり繋がらないや、電話機の故障か」固定電話のフックを何度も押す



窓辺に集まり始まる日本シネマカメラ法人第三営業部員一同

「何だ、今の光り」

「工場地帯の爆発だろ」

「埼玉に工場なんかあったか」

「家の方向かな、携帯かけてみよう」スマートフォンを取り出すも画面には【只今使用出来ません】表示

「そっちもか、携帯も駄目ってどれだけの事故なんだよ」

一同只管スマートフォンを触る

「まさか戦争とか、」吹き出す

「はははー」職場の一同が笑い飛ばす

「それなら、なんだろうな、あれ」歩み寄る松本一人、ただ窓の彼方の消えないキノコ雲を見つめる


会社のスピーカーより張りつめた声

「只今より、労働組合の臨時職場集会を行いますので、御自分の職場から離れない様にお願いします、繰り返し御自分の職場から離れない様にお願いします」



臨時職場集会 職場委員の天野が職場に慌てて戻ってきては

「皆さん、すいません、今の仕事は止めて頂いて、会社側が個別面接を行いたいとの事です それぞれ呼ばれましたら8階の会議室迄お願いします」

松本、急んで踏み出しては

「ちょっと待ってくれよ、東京オリンピック前の駆け込み受注で忙しいんだよ、仕事させろよ」

天野窘める様に 

「松本さん、それはごもっともですが、仕事より兎に角個別面接を行いたいと、会社側の意向です お仕事に支障が出るなら、取引先に取締役も動くとの事です、何卒お願いします」

詰め寄る日本シネマカメラ法人第3営業部員一同

「天野、一体何が起こってるんだ、」

「あのキノコ雲のせいなのか」

「ふん、この日本がテロに屈するのかよ、日常業務させろよ」

「俺達に一切関係ないだろう」

「おいおい、あの巨大なキノコ雲見て関係は無いはないだろう」

「まさか戦争とか、冗談冗談」一人嘲笑うも


不意に息が止まる、日本シネマカメラ法人第三営業部フロア


天野唾を飲み込んでは

「そうです、戦争です、」

松本詰め寄っては

「おい、どこと戦争してるんだよ」

天野レジュメ片手に

「私も分かりません、ただ会社側から漏れ聞いただけです、戦争なんです」

日本シネマカメラ法人第3営業部員一同、急いでスマートフォンを触っては

「ニュースサイトが開かない!」

「駄目だ、相変わらずアプリがロックされたままだ、」

「ラジオも、全ての局がノイズだ」

「おい、食堂のテレビも見て来たが、砂嵐だ」

天野、皆に丁寧に語りかける

「落ち着いて下さい、本社はこの状態です、ライフラインもすでに止まり、予備電源だけになります、無駄な電気の使用は控えて下さいとの事です」

松本急いで席に戻っては鞄を持つ

「たく仕事どころじゃねえよ、家族の安否確認しないと、それを優先させろ、天野」

額から汗が滴る天野

「松本さん駄目です!あの雲は多分原爆です、遠いですけど、今外に出たら被爆しかねません、」

日本シネマカメラ法人第3営業部員一同

「原爆って、」

「死の灰とかなのか」

「おい本当なのか、」

天野必死に眼鏡を直しては

「多分そうです、現に消えませんよね、あの雲」

「きゃーーー」怯えしゃがみ込む女子社員達

松本ポツリと

天音あまね歩美あゆみ、」



フロアに颯爽と入って来る五十路間もない男、総務部主任芳賀はが

「皆さん、情報が少なくて恐縮だが、今後の会社が決まる個別面接をこれから行います まず松本文也君、801会議室迄来てもらえますか」

松本自分を指差し

「芳賀主任、俺ですか、すいません、これから家に帰らせて下さい」

芳賀窘める

「心が逸るのは分かるが、無闇に外に出て、松本君が死の灰を浴びて死んではご家族も嘆き悲しむよ」松本の肩をむんずと掴む

松本気圧され

「…分かりました芳賀主任、手短にお願いします」

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