第19話 神社の神様は宇宙人?

翌々朝、◎研究所の一行は車で葉華莉の実家がある茨城の目的地まで三時間近くを掛け到着する。

実家の神社は海辺の近くにあり、入り口に大きな鳥居とその奥には大きな拝殿(はいでん)が配置され

千年数百年前に創建された本殿を有する名神大社であった。


「これは、これは」


「すげぇ格調高い建物だなぁ」


「僕、わくわくしてきたぞ」


「芸術というものを少し理解した気がします」


「・・・・・・」


 明日川、田中、社長はそれぞれ感嘆し葉華莉は感慨深く周りを見ていた。

ロボットのシーナにとっても新しい刺激となったようだった。


「葉華莉、おじいさんとおばあさんに会ってくれないか」


「え、うん」


「皆さんも、どうぞ」


 拝殿の横には神社の事務所というべき社務所があり、葉華莉の父の勧めで田中達はその中に入る事になった。

社務所は畳が敷き詰められていて、その奥には老夫婦が座っている。


「よく来たね、葉華莉ちゃん」


 祖父らしき人物が葉華莉を歓迎していた。


「葉華莉ちゃんを最後に見たのは、二歳位だったかしらね。本当に久しぶり」


 続いて祖母らしき人物が、話しかけてきた。


「御免なさい、私覚えてなくて」


「それは仕方ないでしょ。でもほら、こうやってあなたをおぶってあげた事もあったのよ」


 祖母はそういって幼い葉華莉を自ら抱きかかえた写真を葉華莉に見せた。


「私だ・・・・・・」


 そこには面影が僅かに残っている正真正銘の葉華莉があった。


「私、小さい頃ここにいたんだね。母から捨てられて一人ぼっちだと思っていたけれど」


「ごめんなさいね、葉華莉ちゃん。私達が引き取ってあげていれば」


「母さん、それは違うよ。全て優柔不断な私の責任だから」


 葉華莉の父は自分の母にまで責め苦を被らせたくは無かった。


「もういいよお父さん。私、誰も責めたりしないから。ただ、ただいまって言ってもいいですか」


「あ・・・・・・、お帰りなさい葉華莉ちゃん」


 葉華莉は祖母のその優しい出迎えの言葉に思わず、自分の祖母に抱きついて泣き出してしまった。

田中達社員は、そっとその場から離れ外に出ることにした。


「良かったですね、神道さん」


「そうだね、僕はあの娘を社員にしてしみじみ良かったと思うよ」


「誘ったのは私ですけれど」


 明日川がそう言い片目で笑って社長をちら見する。


「ちなみに俺は葉華莉さんに誘われて、この会社に来たんでした」


 田中は腕を組んで、これまでの葉華莉との関わりを思い出していた。


「ところでここって神社なのよね、巫女服と無いかしら。あれ一度着てみたかったのよね」


 と明日川が巫女のコスプレ願望サインを送っていると


「巫女装束の事ですよね。祭事には女性のアルバイトを多く雇うので保管していますが、着てみますか?」


 葉華莉の父がそれに応えてくれた。


「ええ、着てみます」


 暫くしてから巫女装束を着付けした変な女性が登場した。


「どうよ」


 ドヤ顔で己の格好を自慢する明日川


「七五三みたいです」


 上司を敬う気持ちの欠片も伺えられない田中は、見た通りの残酷な事実だけを述べた。


「何て失礼な!」


 目は笑っているが口は般若化している明日川


「どうして、私まで」


 今度は巫女姿の葉華莉が現れた。


「上司命令よ、葉華莉さん」


 更にシーナまでが巫女姿に


「主任、ロボットの私が巫女の格好をしてよろしいのでしょうか?」


 流石に疑問を呈すシーナ


「巫女ロボットは未来の必需品よ」


 二人の艶やかな袴の赤と清楚な白の組み合わせは特定の男(田中)を魅了した


「可愛い、格好いい、凛々しい」


 二人は田中の官能ストライクを直撃していた。


「ちょっと新人、私の時とは偉い違いじゃないの?」


 その様子は般若化している明日川に更にツノが生えて、背景に炎のエフェクトが掛かっているかの様である。


「主、主任。そんな事は、三人とも大変似合っていますよ」


 と田中は修正したが


「この口先三寸男め」


 と明日川に罵倒され最早手遅れであった。


「ははは。ついでだから皆さんの写真を取りましょうか?」


 田中たちの様子を見て笑っていた伊藤社長が、記念撮影を呼びかけた

そこには葉華莉の父と祖父母と会社の仲間たちが写った、これが記念すべき初社員旅行の一枚の写真となる。

その後、5人は葉華莉の父に境内を細かく案内された。


「ここの主祭神は少彦名命すくなひこなのみことだったんですか」


 伊藤社長は神仏に詳しく、この神社では少彦名命という神様が祭られている事を理解した。


「ええ、ちなみに隣の大洗町にある神社では、この少彦名命と共に国造りを行ったとされる大国主命おおくにぬしのみことが祭られています」


 大国主命は、皇室の先祖とも言える天照大神あまてらすおおみかみの子孫にそれまで統治していた日本を譲ったとされる神で、天皇はこの天照大神と大国主命ととの子孫ともいえる。

この国譲りの際に、天照大神の使者が大国主命のいる地に降った事を天孫降臨と呼ばれている。


「大国主って因幡の白兎や島根県の出雲大社で有名だけれど、スクナ何とかってどういう神様?」


 日本神話の知識が中途半端な田中が社長に質問する。

 

「イザナギやイザナミは日本神話の国づくりで有名だから言うまでもないと思うけれど、その遥か上に造化三神の神様がいて少彦名命はその神様の一人の子供と言われてるんだよ」


 造化三神とは天之御中主神あめのみなかぬしのかみ後高御産巣日神たかみむすびのかみ神産巣日神かみむすびのかみといて少彦名命はその中の神産巣日神の子である。


「それにしても、国譲りって言葉で誤魔化してるのかもしれないけれど、天照大神って侵略者だったんじゃないの?」


 こういった自称日本の尊厳に関わる言動は、言論の不自由が容認されている日本政府や特別な機関からは容認されない。しかし田中は日本にパラダイムシフトを起こすべく遠慮なく言う。


「そうだねぇ、現実的な説を考えれば大陸から天照大神という勢力の人間達が船によって渡って来て、日本に元からいた原住民の大国主命達はその勢力に屈服し服従したとも考えられるかな」


 その社長の意見は事実の一つかもしれないが、何も葉華莉の父親のいる前で言う事でもないだろう。実際、葉華莉の父親はそれを聞いて仕方ないかなという苦笑いを浮かべていた。

それを伺っていた明日川は少しばかり違う視点で語る。


「天照大神も大国主命も元々のルーツが同じ種族とは考えられないかしら、それなら平和的な合流もあり得るわよ。日本人は大陸からの中国人の血を受け継いでいるけれど、

それ以外に中東から別の人種の血を受け継いでいるのは既に実証されているしね」


「でも主任、日本人は顔からしてモンゴロイドでコーカソイドの特徴なんて持ってませんよ」


 葉華莉が東洋人と白人の外見上の大きな違いを語るのは、もっともな事だろう。

だが明日川は科学的にその特徴をも覆す説を語った。


「そうでもないのよ。日本人の外見は確かにモンゴロイドだけれど、優性遺伝と劣性遺伝の関係からしてみれば肌を守る為に日焼けしやすいなどの特徴から分かるように、

コーカソイドに比べたらモンゴロイドの方が優性遺伝の方が多くて子孫に受け継がれやすいから。つまり、外見においてもコーカソイドの要素が失われて行ってもおかしくないと言う事」


「更に、遺伝子の中には先祖の人種別の痕跡がしっかり残っていて、日本人の約4割にYAP遺伝子という中東の人種に見られる型が見つかってるのよ。特にアイヌや琉球には多くね」


 東アジアでこのYAP遺伝子を持つ人種は、チベットと中国の一部の民族に認められている。


「つまり、はるか昔に中東から日本に行き着いた大国主命がいて、その後に同じく中東から日本に行き着いた天照大神の子孫が来て合流したって事かな?」


 田中は楽しそうにそう明日川に質問する。 


「そういう事になるわね」


「主任の話って相変わらず面白い」


 田中が嬉しそうにしている反面、明日川への反骨精神からが意義を唱える葉華莉。 


「でも、そんなのご都合主義説ですよ。そもそも、天照大神の子孫が中東から来たなんて分からないじゃないですか?」


 と明日川の話の欠点を射たかに見えたが


「天照大神の子孫である皇族のしきたりから、とある中東の伝統を伺わせているのものがあるし、一番は皇族の遺伝子を調べられれば分かることなんだけれど、こればかりはね。

ただ日本人の約4割もが、とある人種の血を受け継いでいるとことからしたら、何回かに分けて日本への民族大移動が起きていたと考えるのは統計的に自然なことよ。

その一つが天孫降臨の話として受け継がられていても不思議ではないでしょ」


 上手く誤魔化した明日川、しかし苦しいいい訳だと言えよう。


 それから皆は境内を暫く散策することになった。暫く歩くと、境内の隅でヒトデに似た花を見つけた。


「何ですかこの花、ヒトデ花?」


 見慣れない、ややグロテスクな外見に田中はそう語る。


「それはガガイモの花だよ。この神社は少彦名命を祭っているから私がガガイモを別の所に植えたのだけれど種がここまで来て何時の間にかこんなに成長していたんだね」


 その成長した花は、まるで今の葉華莉を指している様だった。


「でも、何でガガイモなの・・・・・・お父さん」


 恥じらいと躊躇いのある中で父に質問する葉華莉。


「さっき話した少彦名命は小人の神様で、あの有名な一寸法師のモデルとも言われているんだけれど、ガガイモの実の船に乗ってやって来たと言われているんだよ。

そして少彦名命は、大国主命と共にその知恵によって人々を救ったと伝えられていてね。それも超人的な力ではなく、人に知識を与えて豊かにしてくれたんだ」


 それはまるで◎研究所の皆に照らし合わせて言っている様でもあった。


「ところでガガイモの実って?」


 田中が葉華莉の父に質問する。


「このガガイモが実になるとイチジクを伸ばしたような形をしていて、その実から毛の生えた種子が出るんだよ」


 明日川はそれを聞いて、ある物体を思い出す。

 

「それって謎の生物、ケサランパサランの正体とも言われているわよ」


 当然、思いつきの嘘である。

 

「むしろ未確認生物UMA《ユーマ》じゃないですか」


 田中はその嘘に釣られて、話が明後日の方向に進む


「UMAではなくて、もしかしたらUFOかもしれないぞ」


 更に社長も便乗して話が明々後日に向かってしまう。


「じゃあ、少彦名命は小人の宇宙人って事になりますよ。私の先祖、宇宙人と接触してたとか面白過ぎます」


 ここまで来ると葉華莉も呆れて、話を合わせてしまった。


「いやぁ冗談ではなくてね、ガガイモの形の宇宙船は日本だけではなく中世の外国にも存在していたんだよ」


 しかし、社長だけは本気の様だ。


「多分知っているかと思うけれど、セルビア共和国にあるデチャニという修道院のキリストの磔刑という名の壁画には、磔にされたキリストを中心に左右の上部にガガイモタイプの宇宙船が一機ずつ描かれてるんだ」

 

「ほら、これがカガイモで、こっちがその壁画のUFO」


 社長が自分のスマホで検索して、それぞれ画像を見せてくれた。


「ああ、これですか。飛行機も無かった時代に斬新的なデザインの宇宙船が描かれていたという」


 不思議大好きな田中には既にご存知だったらしい。そこには人が不思議な乗り物に乗った絵が描かれていた。


「確かに宇宙船としたら形は似てるかもしれませんね」


 懐疑的な葉華莉も、その乗り物の形だけは認めざる得なかった。 


「特にこの毛の生えたカガイモ、光を放つ宇宙船にもイメージ的に近いし壁画もちょうどそんな感じで描かれているだろ」


 この発見は社長独自のもので、余程皆に自慢したかったらしい。


「一寸法師は、宇宙人だったのか」


 田中はそういう結論に至った。


「本当にそうだったら面白いだろうね。もっとも少彦名命がシーナの様なロボットという可能性もあるけど」


 社長は宇宙人はロボット派だった。


「異星の私の仲間ですか、是非会ってみたいものです」


 明日川のプログラムの為か、シーナの冗談も炸裂した。。


「そこから想定して宇宙人がロボットを作るなら、宇宙人が人間を作ったという線も出てくるじゃない」


 明日川の暴走モード発動。 


「それはいくらなんでもねぇ、SF漫画やアニメではよくあるパターンだけれど」


 田中ですら付いていけなくなる。


「ただ、地球人も含めて地上の動植物の多様性を考えると自然発生的な確率よりも知的生命体に人工的に作られたと見る方が合理的とも言えるわよ」


「身近な果物のりんごやみかんや桃やメロン、バナナにぶどうにスイカとか・・・・・・あ、スイカは野菜ね。とにかく果物の美味しさや食べやすさを考えるだけでも、人間の為に意図的に作ったとしか思えないものがあるんじゃない」


 これは生命の自然発生説への冒涜ではあるが、仮に地球人の作り主がいたとしたら自然発生説は逆に彼らに対する冒涜行為になるのだろう。

 

「主任、それは最早オカルトの範疇ですよ」


 科学的根拠の無い説に対しては、葉華莉の言うとおりオカルトの範疇にされてしまうが、生命の自然発生説はアミノ酸の自然発生の可能性だけを証明出来ただけで

地上の多様な生命の自然発生に対しては説明できてはいない。つまり、真の根拠も無く現状のまま自然発生説を唱えることも科学的とも言えず、それもまたオカルトと言わざる得なくなる。


「そうかしら、例えば一年後に太陽が爆発して人類が地球もろとも絶対に全滅すると分かったら人類の種をどうやって残そうとする?」


 明日川は極論で例を示す。


「それは、人工知能を搭載したロケットに人や動植物の遺伝子でも積んでどこかの星で繁栄させるしかないと思います」


 伊達に宇宙の事を勉強している訳ではない葉華莉は、こういった対応を示した。


「そうよね。つまり、地球の生命もそうやって他の星からロケットに乗ってやって来たかもしれないってこと。

人工知能を搭載したロケットでは最小限のエネルギーさえ確保できれば、自己改良や修復も可能だし長い航海の時間も問題にならないとも言えるから」


 人類にものもの事があったら、最悪の場合この様な措置を取るのは当然といえよう。


「確かに途方も長い時間や距離も機械ならば苦にならないね」


 葉華莉の父も明日川の意見に納得する。


「更に自らを自己複製して、拡散していったら、それらは星の数ほど存在してもおかしくないわよ。そうなると宇宙人と言っても、その殆どが地球人と血を分けた兄弟と言っても過言ではなくなるわね。それで、フェルミのパラドックスも解消。そもそも、今の地球人程度が考えられる事を、何億年も昔にいた人類に匹敵かそれ以上の知的生命体がとっくに考えつくのは当然の事でしょ?」


 明日川の語る生命の人為的創造説を取った方が、生命の自然発生説より多種多様な生物体の存在を説明する上では合理的に説明がつくものが多い

 ただ、現在においてそれが事実であった物的証拠が無いだけである。

また、フェルミのパラドックスとは、物理学者フェルミが宇宙人と出会った証拠がない事自体がむしろ矛盾としているということを指している。しかし、地球上の不自然ともいえる生命体の存在がそれを証明していると言えるのではないだろうか?


「そういった想定をすると知的生命体の存在確率を示したドレイクの方程式は、ほとんど役に立たなくなちゃいますよ」


 葉華莉は定説が覆えつつある現状に口をへの字にして不満を語った。何よりも、またしても主任にやられたという屈辱感があったとも言えよう。


「となると神様って人工知能搭載のロボットって事ですか? 俺たちはそれに作られたと」


 田中のSF知識のレベルが一つ上がった。最もこのSFのFはフィクションではなくフューチャーである未来、つまり科学の未来を指すものである。  


「そうかもね今の人類に何かあったら、候補としてシーナが別の星では神様になる可能性が高いわよ。そして度々、新しい人類に救いの手を差し伸べて神シーナの御業みわざを示すのよ」


 そう言いながらシーナを見つめる明日川。  


「私が神様ですか?」


 想定外の事に明日川の子供とも言えるシーナも返答に難儀する。


「ええ、そして神様からという勝手な解釈で酷いしきたりを作らせない様に、新人類をしっかり監視してねシーナ」


「はい」


 明日川にどこまでも従順に従うシーナであった。


「今回の葉華莉さんの様に、いつか地球人の実家がちゃんと分かればいいんだけれどな」


 それは地球人の作りおやがいるという仮定で、彼らの星を知りたいという田中の妄想である。その発想は、同時に皆にささやかな笑いをも提供した。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る