第27話 月夜の悪魔

 与えられた任務は、コード”イヌガミの媛”の抹殺。

 対象は一般人とともに行動。

 本部より指示を受けた後、追跡。

 彼らが入った店舗を確認後、配置を完了。

 待機。


 3600秒経過。

 対象に動きあり。

 狙撃班準備。

 狙撃。

 失敗。

 一般人が対象の前に移動したため、一般人を狙撃してしまった。

 任務失敗。


 次の指示。

 対象を追跡し、近接戦闘にて交戦、抹殺。

 移動開始。

 

 本日は晴天なり。

 天高く、空は晴れ、月は十五夜。


 対象が進入した建造物。

 侵入開始。

 侵入中止。

 対象出現。

 これより攻撃を開



 なんだ、あれは。




 アルファ通信途絶。

 ブラボーが引き継ぐ。

 装甲車両を待機。火器を構え。

 反応接近、攻撃に移る。

 反応消失。

 索敵手段を変更する。

 発見。

 相対距離は





 ブラボー通信途絶。

 チャーリーが引き継ぐ。

 市街交戦用装備にて戦闘に移る。

 対象は個人と思うな。

 完全武装の一個中隊と思え。


 指示を出した後、香田はため息を吐いた。

 何が起こっているんだ?

 上部からの指示は、危険なシェイプシフターを抹殺することだったはずだ。

 対シェイプシフター装備を有し、取り扱いにも慣熟した三個中隊が、今や一個中隊へと数を減じている。

 状況の把握、認識が行われる前に前二個小隊は通信を途絶しており、既に反応も無い。

 ……馬鹿を言うな。

 たかが一匹の化け物の小娘だぞ。

 何がイヌガミの媛だ。

 そんなものは、化け物どもの戯言だ。

 そうでなければおかしい。

 そんな化け物が、存在していていいはずがない。

 香田の通信機に、対象発見の報。

 全体を移動開始。

 会敵に移る。


 対象は、黒い狼。

 獣だ。

 目は赤く、物怖じすることなく歩み、接近してくる。

 攻撃を指示。

 その直後、対象をロスト。


 ……何をしている? 対象は目の前にいるぞ……!?

 香田の目の前で、隊員は近づいてくる狼を認識できない。

 銃器には近すぎる距離まで近づかれ、香田がライフルを構えた瞬間、前衛を務めていた三名の首が跳んだ。

 場が停止する。

 噴水のように吹き上がる血。

 中衛の隊員たちが叫び声を上げた。

 誰もが無様に崩れ落ちる。

 彼らの片足が、無い。

 香田は血の混じった息を吐きかけられ、我に返った。

 目の前に狼がいる。

 待て。

 さっきの狼は、こんなに大きかったか?

 いや、自分が縮んだのだ。

 いつの間にか、自分は地面に這いつくばっている。

 いや。

 下半身が、何かに呑まれて行っている。

 影だ。

 それは、狼の足元から伸びた、長い、長い影だ。

 巨大な顎が、香田の下半身を捉えて飲み込んでいく。


「化け物が」


 唱えた声が途絶えた。

 何も残らない。

 チャーリー、通信途絶。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る