第3話

けたたましく扉を開いたのは、この国の王子カイルだった。

白く輝く明かり石を隣に浮かばせ、身分の高さをうかがわせる蒼い服に金色の刺繍が施された洋服を着ていた。肩を大きく揺らしながら呼吸をしている所を見れば誰でも何かあったのだろうとは明白ではないか?

いつも通りに壁に掛けてある我を封じた剣の真下でくつろいでいた我からは扉までの距離は長くカイルの表情までは分からなかったが荒い呼吸が聞こえているのが分かる位。

ゆっくりと我は立ち上がり、剣がある横の壁に腕を組みつつもたれた。

もし、床に寝転がっていれば踏みつけられたらどうなるのか初めての事だからどうなるか見当もつかないからな。

カイルが走って我の居る所まで財宝をかき分けて来た。

良く見れば後ろにはあの変わった方言を巧みに操る騎士の姿があった。扉の取っ手上にあるつまみを回して施錠したのか、カチリという音が響いた。

「この剣を見るのは二度目だけど他の剣と違う点も無いし、どう言う事なのかな?とりあえず手に取ってみれば何か分かるとか」

そう言ったカイルは額縁に手を伸ばしてガラス板を外し、剣を手に取る。

「これが宝剣シュバルツ」

ほう、この剣には名が付けられているいたのか初めて知ったぞ。歴代の見物に来た王は流石宝剣だの美しいだのばかり言って、肝心の名を述べた事が無かったからな。

手元にある剣をまじまじと見ていたカイルが不意に顔を上げると額縁の隣にもたれていた我と目が合った。

「ええっ」

そう言って驚きすぎたのか手元からするりと剣を落とした。

「どうしたんやカイル様!」

扉の前に立つ騎士、うーむ名はなんと言ったか忘れたがそやつが叫んだ。

尻もちをついたカイルは騎士に向かってこう言った。

「クっクレス。ひっひ人が居た気が」

そう言ってたしかに我を指差した。

カイルには我の姿が見えているのか?しかしそうでなければ目が合うはずが無い。

壁から身を起こしカイルの目の前に立っては見たが反応は無いのはなぜだ?

「カイル様、どないしたんや?わいと二人っきりしか居らへん。追っ手は居ないはずや」

騎士ことクレスは不思議そうに辺りを見渡していたが、見渡す限り金銀財宝しか無い。

「クレス、やっぱり気のせいだったよ。私達二人以外見当たらないって、はあ?」

起き上がり、再び落とした剣を握ったカイルは妙な声を上げた。

目の前に急に人が現れたからだ。

「やはり我の姿が見えているのか」

「さっきまで居なかったのにどうして!」

口をパクパクさせ、慌てる姿はこっけいだったが今はそれ所では無いか、何せ初めて人に認識されたのだから。

嬉しいというかなんと言うのか言葉にできない感情が沸き上がる。

「どうやらその剣に触れている時のみ、我の姿が認識されるようだな」

「それってどういう意味?」

「さっき言った通りだ」

「貴方は剣の精霊?」

精霊?そんな聖なるものでは無いな、何せ我はそういったものとはほぼ遠いといったか。むしろ正反対なものなのだから。

「我はその剣に封じ込められた悪魔だ」

「悪魔?何でそんなものがうちの王国の宝剣なんかに居るんだよ」

「そんなものは知らぬ、なんせ気がついた時よりずっと我はその剣と共にこの場に居たのだから」

そう何百年も気が遠くなるほどこの王国と共に過ごして来たのだから。


ガチャガチャ!ガチャガチャ!


怪しいぞこの扉!皆かかれ!


そう扉の向こうから声が聞こえてきた。

とたんにカイルとクレスは険しい雰囲気を放つ。施錠してある扉をこじ開けようとドアノブをガチャガチャ動かしたり、何かがぶつかる音が室内中に響き渡る。

「どうしよう追手がきてしまった」

カイルがか細い声でそう言う。

カイルの身分は王子。追手が来ている。

つまりは王国がどこかしらの国の攻撃を受けている真っ最中だからあれだけ騒がしかったのか。ようやく我は現状が把握できた。

後一つ分からんのが、なぜカイル達がこの宝物庫に来て我の封じられた剣を手に取っているのかだ。

見事なまでの細工がされているが、剣としての攻撃力はいささか破壊力に欠ける。そんなものを求めて追手から逃れつつ来たというのは自殺行為ではないのか。

「この剣は危機を救ってくれると聞いたけどこれじゃあどうしようもないじゃ無い」

剣を抱きかかえてうつむくカイル。

剣に助けを求めて来たのか。

ふむ、これは我にとっては好機かもしれん。

カイルは唯一我の姿を認識できた人間。

とならばと頭の中でいくつかプランを練り、我はカイルに言った。

「我と契約し、生き延びて復讐するなり、見切りを付けて一般人として生きるのも良しとしようではないか。それともここで何もせずに死を選ぶのか二つにして一つだろうか」

そうカイルに囁いた。



何を言われたのかさっぱり分からなかった。

クレスに連れられて宝剣シュバルツを手にすれば、剣に憑いていたのは銀髪に赤目と黒いタクシード風の服を着た男性。真っ赤なネクタイが印象的だと思う。

翼は見えて無いけどれっきとした悪魔らしい。

人をあざ笑うかの様な顔をして私に手を伸ばして、先ほどの返答を待っている。

正直言ってどうしたいのか分からない。隣国コルトベイルの突然の攻撃の意図が分からない。

父上達はどうなってしまっているのか気がかり。

なんせ一気に攻め込まれて制圧されかけている身の上ではコルトベイルを恨む気よりも何故なのかが一番知りたい。

「簡単な事だそんなに悩む必要性が我には理解に苦しむ。手っ取り早く言えば、生きるか死ぬかの二つに一つ」

なかなか返答を返さない私に悪魔はそう言った。

しかし私が生きたいと願えばどうなるのか?

私にはメリットがあるが、悪魔側にはデメリットでしかないと思う。

悪魔がそこまでして私にほぼ選択権の無い答えを出すにはこれしか無い。

「悪魔よ狙いは私の魂か?」

もうこれしか無いと思った。それ以外に悪魔が納得するメリットは無い。

しかし悪魔は急に伸ばした手をあごに当て、くくくっと笑い始めた。

意味が分からない。

「そうか、魂か。ふむ一般的にはそうなるのも理解できる。しかしな第一王子カイルよ、我が求めるのはそんなものでは無い」

えっとう言う事?だったらこの悪魔は自分より遥かに能力的に劣る相手である人間にそこまでの価値があるって言うの?

「我は記憶喪失でな、この場に来る前の記憶を一切失っている。つまり王子よ、そなたと契約を結べば実体化でき他の者にも我の姿が認識されるというのだ」

良かった〜魂を取られたりはしないんだ。

「王子よ、そなたは現在追われる身の上。つまり色々な国を訪れ逃亡しなくてはならないというのは我にとって記憶探しには都合が良い、ならばー」


ガタン!


そう扉が軋む音がした。今までの物音とは違う致命的に思うやばい音が室内に響く。

「カイル様!扉にかけた結界術がもう保たへん!急いでその剣でどないかしてくれへんとあかん状態やで」

扉をずっと抑えていてくれたクレスが限界だと言っている。

悪魔の姿が見えてないのでこの剣で今の危機的状態をどうにかすると思っているっぽい。

実際は悪魔頼みだけど。

「分かった!私は生きて居たい!だから悪魔の条件は飲むから助けてくれ!」

こう言った私の声を聞いた悪魔の嫌な笑顔を今になっても私は忘れられない。


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シュバルツ 雪月花 @setugetuka

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