第16話 --1章 仲秋 Ⅱ--

私は思わず硬直する。


「お、おひゃよう……」


声がうわずった。


心臓がばくばくと脈を打って破裂しそうだった。


彼はぼけっとした表情から、やがてくしゅっと笑って「おはよ」と答えた。


く、可愛すぎるじゃないか。


萌え死させる気か。


こんなとき、人間は咄嗟に思わぬ行動を取ってしまうものらしい。


私はさっきまでの考えとはまるで逆のことを口走っていた。


「……こ、これから会社に行くからっ。

 ああ、冷蔵庫にあるものは、何でも好きに食べていいよ。

 でっ、出掛けるなら鍵、置いていくからポストに入れていってね」


少年はぽかんと口をあけて、それからわずかばかり首を傾げた。


「何時に帰ってくる?」


少年の声は澄んでいて心地良かった。


まだ声変わりとか、してないのかもしれない。


「し、し、しち、7時くらい……かな?」


少年は素直に頷いた。


「いってらっしゃい」


「う、うん。行ってくるっ」


私は玄関に鍵を投げ置くと、靴を履くのももどかしく、逃げるようにして自宅を後にした。

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