第13話 --1章 仲秋 Ⅱ--

どうやら私にも、良心というものは存在するみたいだった。


悩んだ挙句、引き返して彼の前で立ち止まる。


よく見ると浮浪者にしては清潔だし、荷物もなくあまりに軽装だった。


普段の私なら、路上で蹲っているような輩に声をかけたりはしないだろう。


でも、なぜかこの日は違った。


酔っていたからかもしれない。


それとも彼があまりに寒そうだったからかもしれない。


そのときの感情はよくわからない。


ただ、気がつけば私は勢いよくその男の肩を叩いていたのだった。


「おぉい、こんな所で寝てると、風邪引くよ?」


男が顔を上げて私を見た。


不安そうにあどけない顔を歪めている。


少年だった。


棒切れみたいなか細い体は如何にも寒そうに凍えている。


「寒そうだな、おい」


私はお酒の力でまだぽかぽかと温かかったので、黄色い看板の下で凍える彼に着ていたコートを半ば強引に被せた。


彼はただじっと私を見つめている。


「こんなとこで何してるの?」


しばらく待ったが彼は何も言わなかった。


コートを脱いだ私にもだんだんと風の寒さが忍び込んでくる。


「寒いっ。行くよっ」


私はしびれを切らしてタクシーを捕まえると、戸惑う彼の肩を無理やり抱いて暖かい車内へと乗り込んだ。

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