第12話 --1章 仲秋 Ⅱ--

横断歩道を渡った先にあるドラッグストア。


その閉じたシャッターの前に男は座り込んでいた。


最初は酔っ払いか浮浪者に見えた。


俯いて体育座りをしている。


まるでおにぎりのようだ、と私は思った。


病院の患者衣のような上下真っ白な出で立ちになおさらそう思ったのかもしれない。


寒そうにおにぎりが凍えている。


あまり関わりたくなくて、近づいてからはなるべく見ないようにして足早に通り過ぎた。


無事にやりすごしてほっと息をつく。


しかし患者衣でなぜこんなところに佇んでいるのだろうか。


不思議に思う。


冷たい風が長く強く吹いた。


ほぼ無意識にはためくコートの襟をとじ合わせる。


私は何の気なしに振り返った。


おにぎりはさきほどの格好のまま震えている。


ふと、私は考える。


彼を、あのまま放っておいて大丈夫だろうか。


私は、見て見ぬ振りをしていいのだろうか。

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