第9話 --1章 仲秋 Ⅱ--

「誰によ?」


香山さんは美人だが変わり者で、ちょっと人を寄せ付けないところがある。


彼女は大学時代の先輩と付き合ったり別れたりを繰り返していた。


今は「シチューでご飯を食べられるかどうか」から発展した喧嘩で別れているらしい。


別れは私が知っているだけでもすでに4回目だ。


端から見ていると、シチューごときでなんでいちいち袂を分かつのか意味がわからなかった。


またそのうちヨリを戻すんだろうなと思う。


香山さんがしばらく頭を抱え込んで、しぼりだすように言った。


「さあ、……宮前支店長とか」


「うわっ最悪。鼻毛めっさ出てるよ、いいの?」


私は宮前支店長の顔を思い浮かべた。


髪も鼻毛もすでに真っ白だ。


「金さえあれば鼻毛なんて……」


香山さんはピーナツの殻を丹念に剥いて答えた。


それを端からマコちゃんが摘むものだから香山さんはいつまでたってもピーナツを食べることができない。


私は笑いながら盛大に首を振った。


「無理無理っ」


鼻毛がでていようがいまいが、所詮恋なんてまがい物なのもこの年になればとっくに気付いているけれど、デフォルトで鼻毛が出てる男では100年の恋だって冷めてしまう。

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