第2話 --1章 仲秋 Ⅰ--

「あぁぁぁぁ……うぅぅぅぅぅぅ」


私は呻く。


澱んだ泥の底から意識だけが上澄みのように浮き上がってくると、尋常じゃないほど乾きを体が訴えていた。


荒れた胃が気持ち悪い。


今朝も紛うことなく二日酔いだ。


さっきまで見ていた夢はなんだろう。


なんだかとても心地の良い夢だった気がするのに、上手く思い出せない。


忘れたままにするには勿体ない気もするけれど、早く会社に行く準備をしなくてはならなかった。


「ううううぅぅぅぅ……ん」


手探りで枕元に置いた鳴りっぱなしの携帯電話のアラームを止める。


今日もせっせと酒代を稼がなくてはならない。


いままでどんなに飲んだ次の日だって会社に遅刻するようなへまはしなかった。


それが社会人として当然の務めであり、自身の密かな誇りのひとつでもあった。


それがたとえ今朝みたいな、どうやって帰ってきたのか記憶もない最低な朝だったとしても。


……よし。


いままで築き上げてきたものを、ここで失うわけにはいかないだろう。


……そうでもないか。


休んだところで何にも影響がないのはわかっている。


……いや、……だめだ。


思考はぐるぐると同じところを行ったり来たりする。


面倒くさい。

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