第3話 --1章 仲秋 Ⅰ--

仕事は結婚までのほんの腰掛けのつもりが勤続10年近くになって、いまだ辞められる気配がない。


出会いがなかったわけではないが、いまでは結婚できなくても仕方ないという諦観すら憶えつつある。


会社にしがみついてクビにならなければ、どうとでもやっていけるのだ。


……となれば、やはり会社に行かなくてはならない。


そもそもなんでこんな思いをしながら私は生きているのだろう。


私なんかよりもっと生きるべき人がいたはずで、例えば不慮の死から何十年経ってもいまだに熱烈なファンがいるあの女優さんだったり、自分の体を顧みずに治療薬の研究に身を捧げたあの科学者だったり、例えば私の……。


考えれば考えるほど、気分はブルーに染まっていく。


もし神様がいたら文句のひとつも言いたいところだが、私はどんなに祈ったって助けなんてないことを、過去の経験から知ってしまっている。


考えるだけ、ばからしかった。


――人生の根底には絶望しかない。


私は深呼吸をひとつして、気持ちを落ち着けた。


不毛な思いにもめげず、ベッドから這い出る覚悟を決める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る